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THREE WORLD  作者: 織間リオ
第三章【戦う理由】
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25、十年前 Act2 意思

 正男は、自らの研究施設の前に、無造作に車を止めた。潤を抱いて歩き出す。駐車場の隣にある草むらから、物音がした。正男はそれを全く気にせずに研究施設へと入ろうとした。

「待って」

入り口のセキュリティーを解除していた正男の後ろから声がした。正男は振り返る。そこには、八歳ほどの幼年がいた。勿論、彼が幼年とは、正男が勝手に決めたことだ。もしかしたら、あの歳だと少年と呼ぶほうがいいのかもしれないと思った。

「彼に・・・・・・その子に何をする気?」

「君は・・・・・・正義君じゃないか」

正義と呼ばれた少年にはなんの迷いもない。なるほど、話を逸らせてなんとかやり過ごせる相手じゃあない。それに、正義からは、僅かな殺気が出ている。同時に、守ろうとする目をしている。見ず知らずの子供でも、守ろうと思う。素晴らしいことだが、人の心配をするまえに、まず自分の心配をするべきだろう。

「聞かれたことに答えてください」

これで、小学一、二年なんだから、たいした者だ。だが、そんなことを言っていてもなんの変わりもない。正男は敢えて素っ気ない答えを返した。

「君には関係のない話さ」

事実であった。自分が今からすることは、目の前の彼には何の関係もないことであり、知る必要も、知って助ける必要もないのだ。

「関係あります」

「なぜ俺に纏わりつく、君は?」

「危険だからです」


きっぱりと正義は言い放つ。怪しい場所に、怪しい者が、なんの関係もしていなさそうな者を連れてくる。そして、出てくるときは、何もなかったように、帰ってくる。極めて怪しく、危険な匂いがする。

「君には、これで十分だ」

正男はそう言って指を鳴らす。闇の中に響いたその音に反応し、三匹のモンスターが現れた。小型の部類には入るが、大きさ的には、正義とほとんど同じだ。この動きや体の特徴から、このモンスターは、腕を伸ばして攻撃するハリウスの下位種のリウスだ。正男は僅かに笑みを浮かべながら、こちらを見ている。リウスの一匹が飛び掛ってくる。正義はそれをなんなくかわし、その腕を掴む。下位種のリウスは、腕を伸ばすことができない。だからこそ、このような攻撃に転じた。掴んでいたリウスを、別のリウスに投げ当てる。残ったリウスに急迫し、素手で殴りつけた。その一匹はそのショックで力尽きたようだ。その間に起き上がった残りの二匹を流れるように蹴りつける。そんな連続攻撃に、リウス達はたちまち全滅した。

「確かに、この程度なら倒せるか。なら、こいつでとどまっていてもらおうか」

そういって再び指を鳴らす。その音につられ、正義の倍の大きさはあるモンスターが現れた。むき出しているようにさえ見える筋肉、大きな腕と足。部類としては人型に部類する。だが、大きさはリウスの比ではない。

「では、がんばってくれたまえ」

そう言うと、正男は研究室の中に入っていってしまった。

 目の前に現れた巨大なこのモンスターは、正義はしっかりと記憶していた。サイズレベル、大型、危険ランクB。とてもではないが、七、八歳の子供が戦って勝てる相手ではない。そして、このモンスターの名前。こいつの名は、ギルル。大型モンスターの中でも、かなり強い部類に入る。攻撃力は、数いるモンスターの中でも、トップレベルだ。五発も攻撃を受ければ生きることを何者も許さないだろう。

 正義は、攻撃を開始した。まずは顔面を殴る。攻撃しようとギルルが腕を引く。攻撃を受けないために、正義は顔面を蹴り、ギルルから距離をとる。ギリギリのところでギルルの腕が止まる。どうにか間に合ったようだ。次は、走りながらひざの辺りに拳を入れる。そして、そのまま逃げるように後ろに逃げる。ギルルは後ろを振り返る。その隙を正義は見逃さない。今度は、ギルルの股の下を走る。そして、すれ違いざまに両拳で両膝を殴る。ギルルは、再度こちらを振り返り、大きく飛び上がる。巨体なのにここまで高く飛び上がれるのも、ギルルしかいない。もっとも、羽や翼のあるものは別だが。

 正義は、バックステップでかわそうとする。だが、ギルルの拳の着拳点から放たれた衝撃波が、正義の足をとる。それによってしりもちをついてしまった正義に、ギルルのアッパーが入る。上に吹っ飛ばすというよりは回転させたような感じだった。だが、そう思ったのは後の話だ。

そのときの衝撃は並大抵のものではなかった。本当に遠くに飛ばされていくんじゃないかと思わせられるほど、ギルルの拳には威圧感があった。

「うあぁぁぁっ!!」

正義は地上二、三メートルまで飛ばされた。そのまま地面に体全体を強打する。かなりの激痛が走る。こんなのを五発も食らってたら、骨が全部折れるのは必然的であり、それ以前に四発以上食らって立ち上がれるとは到底思えない。どうにか立ち上がった正義に、再びギルルが襲い掛かってきた。さすがに避けきれない。先ほどよりも、かなりのパンチが来る予感がした。あれを食らったら、生きていれるかも怪しい。

 一瞬とはいえ、回避できる可能性を失った正義は目を閉じた。

 次に目を開けた時、眼前まで迫ったギルルが、なぜか腹を押さえながら後ろへと下がる。目の前には、一本の剣を右手に構えている、正義と同じくらいの少年だった。少年はギルルにも注意を向けながら、こちらに目をやり、聞いてきた。

「大丈夫?」

彼の言い方には、どこか優しげな雰囲気さえあった。正義は、彼の姿に、ただただ驚いていた。彼は、答えも待たずに目の前に目を戻す。

「僕、炎道正義えんどう せいぎと言います」

なんとか体勢を取り戻したギルルに向かって、再び走りだす。二メートルの間もない距離を一瞬で移動した少年は、ギルルの足を斬り逃げる。ギルルはバランスを崩し、離れた少年の方に体を向ける。そして、そのままこちらに向かって倒れてくるのが見えた。さすがにこの距離なら届きそうで届かないだろうと思えた。どのみちここから避けることはできないのだが。

 正義はかわそうとしてふらつく体でバックステップをとろうとした。だが、その足が拳の下敷きになる。完全に後ろに重心が傾いていた正義は、後ろにあった塀に後頭部を強打した。

 なんで・・・・・・こんなことに・・・・・・何も守れずに・・・・・・自分が守られるなんて・・・・・・僕には・・・・・・何かを守れる力が・・・・・・ない・・・・・・。

 強打した瞬間、一気に視界が真っ暗になり、意識が薄れていく。闇の中に消え去ろうとする意識は、正義のあるものも奪い去っていった・・・・・・。


 正義が意識を失ってしまったのをきっかけに、少年はギルルに急迫し、その腕を斬りおとした。少年の目から、怒りの涙がこみ上げた。自分自身に対する怒りの涙が。目が潤い、耳の聞こえが鈍くなった気がした。そのとき、耳についていた無線機から声がした。

<そのチビつれて帰って来い。今、あれを送るから>

その声も、ほとんどまともに聞こえたものではなかった。少年は、正義を抱き上げる。そして、開けた場所にゆっくりと歩き出した。


 ギルルを呼び出してから、まだ間もない時間。正男は研究施設内で、ある装置のセキュリティシステムを解除していた。長いパスワードを入れると、装置に潤を拘束する。ほとんど宙吊りになっていた。手足には、合金の手錠をかけ、システムを作動させる。装置の隣にあるパソコンから、いくつかのデータを拾い上げる。正男は、そのデータを少しずつ結合させていく。そのデータはやがて、一つの生命体となって、パソコンという狭い空間の中で生き始めた。正男はそのデータ生命体の意思を装置へと送り込む。正男は装置のほうに送られたのを確認し、装置作動のレバーを引いた。

「これで・・・・・・ようやく・・・・・・」

正男は引いたレバーを握りながら感激の声を漏らす。装置に電流が流れ込み、潤の拘束されている装置を作動させた。

「ああっ・・・・・・がっ・・・・・・があぁぁぁぁぁっ!!」

潤は悲鳴をあげ、流れ込んできた電流を受ける。体全体を走る電流は、彼の体力を徐々に奪っていく。ようやくおさまった電流の中から、かなりの傷を負った潤が見える。正男は手錠を外す。いたるところに見える傷を、カーゼやら何やらで仮初めの治療を施す。正男の潤に対する僅かな情けであった。

 装置には「成功」の文字が映し出されている。正男は装置のスイッチを切り、外に出る。そこにいたのは、血まみれになって倒れていたギルルだけだった。


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