24、来訪者
潤が気を失ってしまったころ、奈々達は潤を探していた。家に行っても帰っていないらしいし、所在も分からない。学校で聞こうにも、また妙な噂を立てられるのも嫌だった。だからこそ、自力で探していた。学校のことよりも、潤の方が心配だった。パートナーとして、同じリーダーとして、かけがえのない仲間として。
奈々は空が赤く染まるまで探し続けた。だが、潤の姿はなかった。
地球のとある場所、ジャスティス、ジャストらを乗せた戦艦は、補給の真っ最中だった。艦長、シーナ・ユナは、自分の艦を見上げていた。
後ろから声を掛けられた。聞いたことのない声だ。こんなところまで来る人がいるのかと振り向いた。
「あの、この艦に入れてもらえませんか」
かなり大胆なことを聞いてくる者だ。目の前にいたのは少年だった。優しげな目をしていた。それにしても、なぜこんなところまで来たのか。しかも、この艦に入れて欲しいのか。
「この艦に・・・・・・。つまり、自分もこの艦で共に戦いたいと?」
「はい。自分は、紅竜と言います」
少年には、やはり優しげな目しかない。だがなぜだろうか。
どこか違う気がする。その優しげな目は偽りと物なのだろうか。なぜか、そんな気がした。
「この艦、ルナビートは、人手不足なんじゃありませんか?」
この船の所在だけでなく、名前まで知っている。単に戦いたかっただけではないのか。
「そんなことはないわ。この艦には十分な力を持ったものが二人もいる」
「ジャスティス・ファイア、ジャスト・キライス。彼らのことですね」
この少年は、一体我々のことをどこまで知っているのか。
「ですが、新たな力が迫っているんです」
彼はいきなり深刻な目つきをした。まったくの別人のように。このまま、彼を受け入れるべきなのだろうか。この艦で、彼を入れるかどうかを決めれるのは自分だけだ。他の誰にも、そんな決定権はない。
「あなたはこの艦のことをどれだけ知っているのかしら」
「それは、入れてくれれば、迫っている新たな力もおまけで教えます」
どこか子供っぽい言い方をしているが、言い換えれば、教えて欲しければ入れろ、ということになる。
「いいわ。とりあえず案内するわ。だけどもし、この艦の情報を他に漏らすような行為をした場合、問答無用で銃殺だから、そこはよろしく」
「はい」
彼はうなずく。そして、二人はルナビートへと入っていった。
艦内に入った。ゆっくりとした足取りで進む。勿論、重要な機密がある部分は近寄らせやしない。各所をまわったあと、艦長室に入れた。彼から聞き出さなければいけない。彼の知っている、全てを。
「聞かせてもらうけど、新たな力とは?」
竜はシーナの座ったソファの向かいにあるソファに腰をおろした。
「複合され、その体内に全く血縁関係のない人間の意志を植えつけられた人のことです。複合人間とでもいいましょうか」
いきなりわけがわからないことを切り出してきたものだ。この少年は。シーナは心の中で舌打ちをする。それでも、表情は全く変えない。
「その複合人間は、ある条件を満たすことによって、内に植えつけられた意思が目覚めるのです」
つまり、迫っている新たな力というのは、その複合人間のことなのだろう。一体誰がそんな人間になっているのか。いや、それ以前に、誰の技術がそのような人間にしてしまうのだろうか。
「ですが、それ以上に危険なのは、その意思が直接自らの体を生み出してしまったときなんです」
「どういうこと?」
「つまり、意思が、複合人間の体から、自らの肉体を持って逃げ出す。そういうことです」
血縁関係の全くない者の意思を、人間の中に組み込み、複合される。その複合人間は、特定の条件を満たせば、植えつけられた意思が、体をのっとり、目覚める。だが、本当に恐ろしいのは、その意思が複合人間の体をのっとらず、意思そのものが肉体を持って、複合人間と分離したとき。それが、新たな力。迫り来る危険な力。
「分離した後に、複合人間にとって衝撃的なことが起こると、複合の呪縛が解け、内なる力が目覚める」
なるほど。分離したときが恐ろしいのではなく、分離したときの内なる力が恐ろしいのか。シーナは話題を変えることにした。もうひとつ、聞くべきことが残っている。
「じゃあ、話を変えるけど、あなたはこの艦についてどれほど知っているのか、そして、どうやって情報を手にいれたか。説明してもらうわ」
「宇陸海空襲撃戦艦ビート級2番艦ルナビート。クルーは計二十三人。艦長はシーナ・ユナ。戦闘員は、ジャスティス・ファイア、ジャスト・キライス」
基本的なことだが、なかなか手にはいる情報ではない。だが、竜は驚くべきことを発した。
「ちなみに、ルナビートのクルーは、全員が名前を持たぬもの。そのため、クルー全員が英名である」
「・・・・・・!」
シーナはその言葉に驚愕した。ここまで知っているとは思わなかったからだ。シーナは、僅かにゆがんだ自分の顔に気がつかなかった。
シーナは迷った。本当にこの少年を招き入れていいのだろうかここで拒めば、彼はどうするだろうか。力ずくでこちらを屈服させるのか、それとも潔く諦めるのか。
どちらにしても、これは迷い事に他ならない。ここで断って、向こうが暴挙に出ずに、黙って帰ったとすれば、情報が漏洩される可能性は格段に跳ね上がる。だが、招きいれるということは、更に深いここの情報を向こうに与えることになる。
シーナは、竜に分からぬように一つ、溜息をついた。竜は狙い通り、その溜息には気づかなかった。