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THREE WORLD  作者: 織間リオ
第三章【戦う理由】
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23、失踪の友、焦燥の少年

 ジャスティスとの思いがけぬ対話から数日が経った。明日から春休みに入る。修二は、中学の入学準備が忙しいとかで来られないらしく、チームスレイヤーは、しばらくは三人で活動することになった。もちろん、そのせいで、チーム内の活気が激減したのだが。

 終業式の日である今日、勇は休んだ。勇にしては珍しい。誰も座っていない椅子と机を見て、僕は思った。だが、かばんを下ろしたころ、他の生徒からの噂が聞こえてきた。

「なぁ知ってるか、勇、失踪したらしいぜ」

「ええっ! マジかよ!」

「マジもマジ、大マジ」

勇が――失踪!? まさか、ありえないだろう。さすがに今回は違うはずだ。滅多に休まないとはいえ、ちょっと怪我とか風邪とか引いたのだろう。だが、その予想も聞こえてくる噂で断ち切られる。

「でも、風邪とか怪我じゃねーの?」

「でも風邪も流行ってねーし、あいつの運動神経なら車が来ても避けられるだろ」

確かにそうかもしれない。僕は一度振り切った――正確には振り切ろうとした――不安を募らせた。普段から幾度となく部活の練習に付き合ってきたんだ。野球やサッカー、ときには女バスまで・・・・・・。反射神経だって相当なものだ。勇は常に五感が激しく働いている。

 いつだか帰りが一緒だったとき、勇はなぜかなにかを避けた。「砂を避けたんだ」と言っていた。冗談だとは思っていたが、その瞬間僕の目に砂粒がついた。

「うわっ、目に砂がぁっ」

「大丈夫かよ」

僕は軽く笑って「大丈夫」と返した。あのときは確かに砂をかわしたのだ。それに、砂をのせてきた風の動きも正確に捉え、かわしたのだ。あの五感能力、当時はなんとも思わなかった。その話は、僕がクリエイターだと気づく前の話だったからだ。気にかける必要もなかったのだ。だが、今ならかなりのことだと熟知している。目に見えない、視覚に頼って避けることのできない砂を、勇は軽々とかわした。砂をかわせるのだ。車をかわせないはずはない。

 そんな勇が休むなんて、ありえない。だからこそ、失踪なんて噂が流れているのか。僅かに首筋に冷や汗が流れた。大切な友。それを失いたくはない。でも、意外にも風邪だったりするかもしれない。とにかく僕は、今日勇の家に行くことに決めた。

 帰り道、回り道をしながら勇の家へ向かう。いつもの帰り道なら、僕の家の前を通るからだ。同じ場所を二回通るのは好きではない。だからこそ、勇の家、僕の家という順番で帰れるようなルートにした。いつものように、大きな橋のかかった川の上を歩くことはなかった。

 かなり川が浅くなるあたりで、簡単に木でできた橋ができている。この橋は人、及び自転車専用で、車が通れるほどの広さはなかった。

その橋を渡り、しばらく行ったところで、勇の家は見えてきた。もし、本当に勇が失踪したのなら、親も動揺するだろう。でも、勇に失踪する理由はない。失踪して、いいことすらもない。

 勇の家のチャイムを鳴らす。誰も出てこない。というか、なぜか人の気配すらしない。ドアに手をかけ、引いてみると、鍵は開いていた。

「お邪魔しまーす」

僕はそういいながら家の中へと踏み入る。入ってからも何回か呼び出してみたが、何の反応もない。もし、失踪ではないとしたら、病院に行っているのだろう。そうであって欲しいのだが。

 居間に入った僕は驚愕した。勇の両親は倒れていた。胸に耳を当てると、まだ心臓は動いている。どうやら、気を失っているようだ。そのとき、僕は目の前からする足音に気がついた。

「人間はいつも醜い争いをする」

目の前には一人の少年が立っていた。家の前に立っても人の気配などなかった。それはつまり、この家から自身の気配を、この少年は消していたのだ。涼やかなようで、憎悪のようなオーラを放っている――ような気がする――少年だ。だが、彼の言っている意味は理解できない。

「だからこそ、自分の身を守ることができない」

「あなたは一体・・・・・・」

少年はすぐに答えを返してきた。だが、答えはかなりそっけないものだ。

紅龍くれない りゅう。それが俺の正体だ」

この少年は、やはりどこかつかめない。第一、姿を隠してもいないのに正体とは・・・・・・。だが、少年はそんな僕にお構いなしに、歩き出した。

「君が会いにきた少年は、我々が預かった。彼は三つの世界に必要な存在なのだ」

そんな・・・・・・、彼らが、勇を誘拐した!?というより、このようなことを起こしたのは、彼一人ではないということなのか。なぜ、勇を奪っていったのだ。なぜ、彼が世界に必要なのか。三つの世界というのは、恐らくは、この地球のある世界、モンスターのうろつく「魔界」、ブレイカーが多くいる「破界」の三つの世界のことなのだろう。この龍という少年は一体・・・・・・。

「君のことだって知っている。君は、彼が定めた禁句を聞くと錯乱することもだ」

「・・・・・・!」

禁句・・・・・・複合のことだろうか。というか、それは何者かが定めたものなのか。誰が、僕にこんなものを定めたのだろうか。僕自身が知るはずもない。もし、その言葉を誰かに聞こうとし、直接聞いてしまったら、また僕はあの状態に陥ってしまうのだろう。

「意思」

彼は一言、そう呟く。その瞬間、僕はかなりの頭痛を引き起こした。世界が回る。

 意思――いし――イシ!!

「うぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

僕はかなりの声量でわめいた。頭痛がまったく止まない。吐き気もしてきた。僕は、必死の思いで窓を開け、そこに胃の中のものを吐き出した。そうすると、僅かに楽になった気がしたが、頭痛は治まる気配がない。いつまでも頭をうならせる。少しずつ意識が薄れていく。

「君は・・・・・・いを・・・・・・つさせ・・・・・・べてのも・・・・・・むに・・・・・・」

龍という少年の言葉が途切れ途切れに聞こえてくる。だが、それはほとんど記憶に残らずに、僕の意識は薄れていった。


 龍は、意識が薄れつつある潤に向かって言った。

「君は、いつか世界を破滅させ、全てのものを無に帰す」

それを言ったことも、禁句を放ったことにも、龍は後悔はなかった。

 早いうちに、潜入先で作戦を実行させなければならない、ということを、龍は考えながらも、その場を立ち去った。


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