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THREE WORLD  作者: 織間リオ
第三章【戦う理由】
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22、翼なき青年の想い

 昨日行われた、ヤルドラ基地進攻作戦は――形式的には――無事成功した。ジャスティスも現れたりはしたが、なんとか撃退には成功した。

 僕は、報酬金の額に驚愕した。二千五百ルギ! 日本円にすれば二万五千円という――僕からすれば――大金だった。その報酬金を握り締め、部屋に戻る。貯金箱にルギを入れ、部屋の鍵を閉めたのを確認してから、僕は部屋に戻っていった。

 次の日、僕はいつも通りの登校をした。今日はいつものように勇からの噂話もなく、平穏に過ぎていった。なぜか今日は、喧嘩も売られなかった。少し拍子抜けしてしまうが、それでも、逃げ帰るよりは、ヘトヘトになるよりはましだった。

 帰りは勇は今日はラグビーの練習に付き合わなければならないからと、断ってきた。あいつが、ラグビー部のタックルを受けて吹っ飛ぶ姿が浮かんで少しおかしかったが、本人の前なのでなんとか我慢した。

 帰り道の途中に大きな橋がかかっている。その下には大きな川がある。興味もないから、川の名前は覚えていない。でも、緩やかな流れは僕の心に癒しと安らぎを与えてくれる。少なくとも僕は、この川にそう感じていた。

 僕は、川沿いの人影に目を落とす。ただの青年のような気がするが、どこかで見たことがあるような気がした。いや、会ったことがある気がした。自分にとっては、かなり重要な人物の気がした。僕は、無意識のうちに川の土手を滑り下りる。そして、その後ろ姿を見て確信する。昨日も会った。確かに。僕は、彼に声をかけた。

「こんなところで、なにをしているんですか」

その声に気づいた青年は、こちらを見やる。少しばかり驚いていたが、すぐに優しい口調で確かめた。

「君は・・・・・・あのときの・・・・・・」

その青年は、ジャスティスだ。いつものように、針金のようなものもついておらず、服も違う。私服だった。僕はもちろん、ジャスティスも僕のことを覚えていたようだ。僕は、声をかけたにもかかわらず、言いたいことがよく見つからなかった。だが、無意識のままに言葉は口からはき出た。

「なんで、いつもいきなり戦闘介入をしてくるんですか」

「それは・・・・・・」

彼は言いよどむ。なぜ、戦うのか、なぜ、銃を取り、相手に向けるのか。わざわざ、いずれは止まる戦闘を長引かせるようなことをするのだろうか。

「戦いを止めたい。ただそれだけだよ」

彼の目は、悲しい目をしていた。それは、こちらに対して言いづらい雰囲気があったが、それ以上に、何かに縛られているような、そんな目だった。なんで、戦いを止めるために戦う? 僕に言わせれば、結局は戦いを逆に長引かせ、いらぬ犠牲者、もしくは負傷を招く。

「どんな命だって、護られる権利があるんだ」

その言葉は、一段と大きな意味を持っている気がした。その言葉を発したとき、ジャスティスの目には、悲しみと共に、強い意志の目があった。

「だから僕は、この力を使うんだ」

ジャスティスは拳を握る。その拳を見下ろしているジャスティスには、やはり悲しみと強い意志の目があった。力を使うことで、戦いを止め、本来あるべき尊い命を護る。だが、力を使えば、誰かを傷つけることになる。

「なんで・・・・・・」

僕は、やはり無意識のうちに言葉が出ていた。

「同じ力という種を体に植えても、違う使い方の花を咲かせるんだろう・・・・・・」

その言葉の意味も、僕自身ですら、よく分かってはいなかった。けど、その言葉を放って少しして、その言葉の意味を悟る。

 人には、それぞれ力がある。その強さは違っても、人は皆、力を持っている。けど、その力という種を自分の手の内に入れたとして、その使い方が、それぞれで違ってくる。科学の研究に使う者、人を守るために使う者、正しい使い方をすれば、それは人類の発展と、安全が約束されるはずだ。だが、その使い方を誤り、力で人を支配し、全てを思い通りに動かそうとする者もいる。力の弱い者は、ただそれに従い、時に抗う。そして、抗った者は皆処罰される。そんな、独裁者の作る世界は、けしていいものではない。そんなふうに、使い方を誤れば、人は皆、その者から離れるだろう。

 いや、違うかもしれない。力はそれぞれが持っている。だからこそ、それぞれが、自分の力の使い方は正しいと思い込んでいるのだ。誤っているなんて思いたくない。いや、決して思わないのだ。本当に力を間違って使っている者は。正しい使い方をしていれば、その力で人を傷つけたり、悩ませたりしたときに、ちゃんとそれを自覚する。

 だが、目の前にいる青年は、自分の力が誤った使い方をしていると思わないのだろうか?守られるべき命を守る。だが、どちらかを守ろうとすれば、必ずもう一方を傷つけることになる。守ることができなくなる。だからこそ、彼は両者に対して攻撃をしてくるというのか。

「力を闇雲に振るうだけが、守る方法じゃない。僕はそう思う」

その一言を最後に、僕はジャスティスに背を向けた。お互いにかなり意味深な発言をした気がしたが、時間はかなり短かった。家までの道のりは、ここからはほとんど遠くはない。この川からなら歩いて五分もあれば着けるだろう。それくらい近い場所に、この川はある。

 僕は、家に帰り、母さんに「ただいま」と一言言って、自室へと続く階段を上っていった。自室に入り、窓を開ける。目の前に光る階段を上り、もうひとつの自室へと向かっていく。徐々に光が包み込んでいく。そして、自分の部屋にたどり着いた。僕はロントの制服を身に纏った。そして、貯金箱に入っている中から数ルギを取り出し、財布に入れ、ロントの食堂へと、足を運んだ。


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