19、ヤルドラを染める血
僕達は、ブレイカーが多く住み着き、活動している「破界」にきた。ヤルゾーラ星というこの星では、今はまだブレイカーによる占領の面積は少ないが、その占領地を増やすべく建設中である基地がある。今回は、その基地の破壊及び作業中のブレイカーの掃討が目的だ。その基地が作られているのが、ヤルドラという場所、ということになっている。
今、僕達チーム・スレイヤーを乗せたシャトルRは、そこへ向かっている。僕らの前にも、二機のシャトルRが飛んでいる。他のチームもこれに参加するからだ。なにせ、基地の進攻だ。よほどの実力がない限り、複数のチームで向かうのが普通だ。クリエイターでもブレイカーでも、一チームだけが強大な力を持っているわけではないのだ。個々が生かせる能力を持って、初めてチームとして成立するのだ。
奈々のコクピットに、ヤルドラの空域に突入したという報せが入る。僕を含め、全員が、武器を手に取り、装備する。奈々も、片手で操縦しながら準備していた。
前を飛んでいたシャトルRが下降を始める。それに続き、僕らの乗ったシャトルRも下降する。少しずつ地面が大きくなっていく。前の二機が着陸したころ、僕達のほうも、降りたつ。前にある二機のシャトルから人が出てくる。五人と、四人。五人の方は、背が低いものが多い。それに、様々な色の服を持ち歩いている。潜入に適した装備と体型であることが、まだ素人の域を脱していない潤にもよくわかった。
一方、四人の方はガッチリとした体つきをしたものが多い。そして、それに見合った大型の武器を持っている。パワータイプというにはふさわしいものたちだ。
背が小さい者達は、僕達のところに向かってきた。
「チーム・スニーキング、隊長の井上 尚と言います」
差し出されてきた右手を僕は見据える。そして、ゆっくりとこちらの右手を差し出し、その手を握る。
「チーム・スレイヤー、隊長の矢倉潤です。宜しくお願いします」
一方の奈々は、大きいものたちの方と手を握っている。少しばかり緊張と焦りを覚えてはいるようだが、特に気にかける必要はなさそうだ。
「チーム・カイリキ、隊長の北林力也だ。よろしく頼む」
ガッチリと握られた手がようやく離れ、奈々が僅かに安堵の息を漏らしていた。さっそく、ヤルドラの地図を広げ、作戦会議が行われた。
作戦としては、チーム・スニーキングがヤルドラ基地内部に潜入し、内部爆発を行う。そして、その間に陽動も含め、チーム・カイリキとチーム・スレイヤーが外部で作業中の敵を殲滅するらしい。
こうして、それぞれの役割を持った僕達は、各員の健闘を祈り、円陣を組んで、士気を上げた。
午前十時、作戦開始時刻と時を同じくして、僕達は真正面から攻め立てた。チーム・スニーキングは、今は裏側から進入しているらしい。
僕達チーム・スレイヤーは、これといって総合的に突出しているものはない。だが、各員の力はそれなりのはずだ。今までの戦いからも、それが嘘ではないことを照明してくれているはずだ。ハリウス戦、ドラキル戦、そして、ジャスティス戦。その戦いを通して、僕らは一人一人が、少なからず強くなっていた。といっても、僕自身がどのくらい強くなったかは分からない。何せ、攻撃という攻撃は基本的にキーラーが行ってきたからだ。
チーム・カイリキは、見かけによらず、すばしっこい。足が大きいから歩幅も大きい、といえば辻褄が合うのだろうが、それにしても速い。あっという間に作業をしているブレイカー達にたどり着き攻撃を開始した。その騒ぎに、内部で待機していた戦闘用兵士が次々と現れる。彼らはチーム・カイリキの面々に攻撃をしている。だが、基地に攻撃するのはチーム・カイリキだけではない。
僕達、チーム・スレイヤーも戦う!
だが、実際僕はそんな勇気はない。懐から、ソードブーメランを取り出し、それをブレイカーの集団に投げつける。数人が傷を負い、こちらに初めて気がつく。そして、こちらに剣を向けてくる。しかも、正確に言えば、チーム・スレイヤーの内の僕に向けている。
僕は突っ込んできた兵士達の斬撃を軽くかわす。大振りの攻撃は、僕からしてみれば亀のような攻撃だ。そうして数人の攻撃をかわしているうちに、周りを取り囲まれる。仕方なく僕は剣を鞘から抜刀する。周りを囲んだ兵士達が全く同じ体勢からジャンプし、真上から斬りかかった。僕はそれを剣で受け止める。ぎりぎりと重くなってくる。このままでは、斬られるのも時間の問題だ。
――俺がやる!代われ!――
突然にキーラーが頭の中で話しかける。そして、体の感覚がなくなり、キーラーが僕の体をのっとる。そして、僕を押し込んでいた全ての刃を押し返す。それによろめいた兵士達を、キーラーは次々に攻撃していく。足を斬り、腕を飛ばし、絶対に反撃が不可能な状態にした。そうして、周りを取り囲む兵士がいなくなったところで、キーラーは作業中のブレイカーに斬りかかる。
「はぁぁぁぁっ!!」
一瞬のうちに数人のブレイカーを切り刻む。さらに溢れ出てくるブレイカーに、キーラーは全く屈せず、突っ込んでいく。僕とは違い、攻撃のほとんどを受け止めている。かわすことはほとんどない。
「お前らぁぁぁっ!!」
キーラーは力と感情に身をまかせて突っ込む。ブレイカーに向かって叫びながら。
「いつも好き勝手やれると思うなァァッ!!」
その刃が、また数人のブレイカーを切り刻んだ。
風を切り、それでいて風を受け止めているかのように進んでいる一つの戦艦。雲の上を進むその戦艦は、一つの戦いを見つけ出した。この戦艦の艦長である一人の女性は、入ってくる情報に、ただ黙って聞いていた。
クリエイターの、ヤルドラ基地の進攻・・・・・・か・・・・・・。
しかも、どちらとも、かなりの戦力を携えて戦闘に挑んでいるようだ。戦いは数だけではない。その戦況を自分、あるいは自分達のものにするための力が必要だ。だが、力が大きければ、余計な被害を出すことだってある。
「ユナ艦長、ジャスティスを出しますか?」
この艦の艦長、シーナ・ユナは、その答えに僅かに戸惑ったが、すぐに判断を下した。
「今回は、ジャストも共に出します。しかし、ジャストは少し間を開けてから発進させて」
「はい」
それを聞くと、そのクルーは、通信機に向かって発進の準備を呼びかけた。
ジャスティスは、艦内に流れてくる通達を聞いていた。また、戦わなければならない。自分に与えられた力。この力を、どのように扱うかなんて自分次第だ。だったら・・・・・・。
この力、正しい使い方をしなければ・・・・・・。
「ジャスティス」
後ろから声を掛けられる。後ろにいたのは、いつも共に過ごしてきた親友がいた。
「ジャスト・・・・・・」
ジャスティスの親友、ジャスト・キライスは、戦いを拒む彼に向かって言った。
「戦って何か欲しいわけじゃないんだろ」
ジャスティスはその言葉を聞いて僅かに微笑む。いつも、自分が戦いに行きたくないとき、そう言われてきた。自分は、戦って得るものなんてないと信じている。だからこそ、自分は何かを得るために戦うことは決してない。金も、地位も、権力も名誉も、戦いで勝ち取ることはない。いや、そんなことはしたくない。ジャスティスは、それらは少なくとも、戦いで勝ち取るべきものではないと思っている。たとえ世界がそういう思想に埋もれていたとしても。
だが、それでも戦わなければならないときがある。勝ち取るために戦うのではない。何かを守るために。ジャスティスは機体を立ち上げる。戦うしか、この身を投げ出さなければ、何も守ることはできない。目の前に青い空が見える。ジャスティスはペダルを踏み、機体のエンジンを点火させた。
「ジャスティス・ファイア、コアフライヤー、行きます!」
その一言と共に、一機の戦闘機は大空に飛び出した。