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THREE WORLD  作者: 織間リオ
第一章【一つのお願い】
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1、平和?な日常

「おい」

後ろから声をかけられた。自分よりも十センチくらいは大きい男が、睨むようにこちらを見てきた。

「おまえ、今日の午後九時、学校裏の倉庫に来い」

つまり、喧嘩を売られたということ。だけど、僕はそれを拒否した。

「無理です」

「ああん!?お前ここで痛い目あいたいのかぁ!?」

「いや、そういうわけではなくて・・・・・・」

「じゃあ、どういうわけだ。言ってみろや」

向こうは尚もドスを聞かせた声で僕に向かって凄みをかけてくる。僕は、内心、自分にも呆れながら口を開いた。

「実はもう、喧嘩売られて・・・・・・被ってます。時間」

「なんだとぉっ! そいつの名前は?」

「えと・・・確か、二年二組の高橋っていう人・・・・・・」

「高橋だな!今日のところは免除してやる! 覚えとけ!」

免除という使い方が微妙に違う気がするが、捨て台詞のような最後の罵声に対して僕は、一つの姿勢しか見せようがなかった。

「あ、はひぃぃぃっ」

悲鳴のように返事をした。実際、喧嘩はすでに売られていた。さっきの人で四人目だ。なんでこんなことを、学校の廊下で平然とできるのかが不思議でたまらなかった。学校なんて、結局は平和という仮面をかぶって世の中に顔を出しているのだろうか。

僕には、そういうのは分からない。そういうのは、教師でも政治化でもなんでも、専門の人に任せればいい。さらに学校をよくするために生徒会の目安箱とかいっても、実際入れる人はほとんどいない。僕も自分のことでいっぱいいっぱいだった。そりゃあそうだ。ほぼ毎日こんなことが繰り返されているのだから。

 で、その日の夜九時、一番に喧嘩を売ってきた高橋のために、倉庫へと足を運んだ。

「よう。来たな」

そこには、高橋・・・・・・だけでなく、その後に喧嘩を売ってきた三人もいた。僕は呆れと恐怖と共に思う。今日は免除するって皆言っていたじゃないか。高橋は一歩前に出て、指示を出した。

「野郎ども!あのチビネズミを叩きのめすぞ!」

「おおおっ!」

そういって高橋達は僕に向かって真正面から襲い掛かってきた。高橋が右手を握り締め、それをこちらへと突き出してきた。そのとき、僕の恐怖心は頂点に達した。

「ひぃぃぃっ!」

顔に当たりそうになっていた拳を右に体ごと避けた。うつ伏せの状態になったところに、足を掴まれそうになる。

「うわあっ!」

体を起こすと同時に足を引っ込めた。だが、その直後に、足を引っ掛けられ、仰向けに倒れる。一人の男が拳をつきたてて、それを振り下ろしてくる。殴られたくない。でも、殴り返す勇気も、相手を倒せるほどの力もない。僕は横にクルクルと回りながら避けた。だが、そこにはすでに、別の男が待ち伏せていた。仰向けになったところで、腹を踏みつけられる。そのまま、胸倉を掴まれ、持ち上げられる。足が地面から離れ、完全に浮いた状態になった。

 終わったな。今日の僕。

 そう感じていたころ、視界の左半分がまぶしい光に照らされる。

「こら! そこで何をしているんだ!」

「やべ!警備員の爺が来た」

「撤収すっぞ!」

胸倉を突き放された。そのまま四人は逃げていった。顔を見られるとまずいのだろう。ああいうのは、将来がいいものになるとは到底思えない。もちろん、自分のようなやつもそうなんだろうけど。警備員が呆れた顔で座り込んだ僕を見た。

「また君か。喧嘩を売られたら、無視しなさいって言ってるだろ」

「はい・・・・・・すいません」

なんで自分が謝らなければならないのだろう。僕はただ、呼び出されて、殴られないように逃げただけだ。喧嘩を売ったわけでも、相手を殴ったわけでもない。被害者を守るのも大事かもしれないが、加害者を取り締まるのもまた、同じように大切なはずだ。

 警備員のおじさんもいなくなったところで、残されたのは僕一人だ。特にここですることはない。殴る人も、注意する人もいないのに、ここにいる必要はない。僕は、だれかに見つからないうちに、家へと帰っていった。


 家に帰ると、母さんが出迎えてくれた。今は午後九時半。大人が起きていてもおかしくはない時間帯だ。

 うちは母さんと僕しかいなかった。父さんは、僕が小さいころに、離婚してどこかへいったらしい。だから、今まで母さんは女手一つで働いて僕を育てた。けど、母さん一人というのと、働いている会社が小さいせいで、給料が少なく、食事も貧相なものしか食べられなかった。そのせいで、僕は痩せ細った体つきになり、それに比例するように、気も弱くなった。で、こんな状態の僕を標的にして、毎日のようにいじめや喧嘩を受けていた。でも、そのことを母さんに話す気は起きなかった。小さいころからずっとだ。もし、知っていたとしても、そのことに触れたくはなかった。僕の小さなプライドだった。

「潤、何か食べる?」

「いい。風呂入って寝る」

「そう・・・」

うちは貧乏なので、晩御飯も肉や魚なんてご馳走なほどだった。近所からもらった野菜が主食だった。朝もご飯一杯が多いくらいだった。だから、給食だけが、大量に食べる機会だった。よく、こっそりとデザートを持ち帰るのもしばしば。

 風呂から上がって、部屋の電気をつける。殺風景な部屋だ。ベッドと机があるだけだった。クローゼットがあったが、特にしまうものもなく、使っていなかった。ただ、僕はこの方が落ち着いた。無駄な物のない、本当に自分だけの空間のような感覚。

 僕はその感覚に浸りながら、ベッドにその体をうずめた。


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