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THREE WORLD  作者: 織間リオ
第三章【戦う理由】
18/48

15、十年前 Act1 複合

 それは、潤がまだ三歳、年数でいえば十年前の話だ。その当時は、潤の父も母もいた。潤が誕生すると知ったとき、二人とも、子供が生まれるということに喜んでいた。その待ちわびた生誕の時は、父も母も潤の姿を見た。

 その姿を見て、母、洋子は感激の声を上げた。自分の子孫となる者が自分の目の前にいる。それだけでも、かなり嬉しかったはずだ。洋子は退院した後も、朝起きてから夜眠りにつくまで、片時も目を離さずに育てるほどの親バカぶりだった。

 ところが、その一方で、潤の父、正男は潤を見るやいなや、喜ぶどころか、全くの笑みを浮かべなかった。潤の姿を見た正男は、声も出さず、「よかったな」と、冷たく言い放って病室から出て行った。嬉しさや驚きのあまり、声が出ないのならまだ納得できる。だが、そんな感情を全く見せずに、声を潜めた。

 そんな出来事があった三年後、三歳となった潤が眠りについたころ、洋子と正男は口論となった。洋子には、全く理解のできないことを数々ぶつけられた。

「だから、どういうこと!? もっと詳しく説明してよ!」

その言葉を聞いた正男は、ため息を漏らし、再び同じことを説明し始めた。

「だから、さっきから言ってるように、潤はこのまま野放しにしておけば、いずれは日本を、いや、世界をも脅かす恐怖の存在となる」

洋子からしてみれば、そんなのはほとんど理解ができない。第一、自分の体から生まれた普通の男の子が、世界を脅かす恐怖になるはずがない。それに、潤は体重も少ないほうだ。どちらかといえば、脅かされる立場の方がまだ納得できる。

「潤は、近いうちに俺の研究施設に連れて行く」

「やめて!」

洋子は否定した。なぜ、我が子をそこまで見放すことができるのか。研究施設? 冗談じゃない。自分の子供をそこまで見下すものに、我が子を渡すわけにはいかない。

「それだけは! 絶対に!」

洋子の瞳の奥が燃え上がる。絶対に渡したくないと言う保護欲。それだけが彼女の中に渦巻いた。自分の子供を研究施設に送り出すなんていやだ。ましてや、まだ四歳にもならない我が子を渡せない。

「やはりお前も同じのようだ」

「え?」

虚を突かれて、一瞬戸惑った。先ほどまで熱く語っていた彼は、一気に熱が冷めたように言い出した。

「お前も潤と同じように、世界を脅かすはずの存在だった」

またもわけの分からないことを持ち出してきた。潤も自分もそんなはずはない。自分がそうだとしても、潤だけは、潤だけは違う。

「お前たちには、そういう血筋が通っているのだな」

駄目・・・・・・お前たちは駄目・・・・・・『お前』・・・・・・だけにして・・・・・・。

 洋子の中でカッと何かが弾けた。もう、このまま口論している暇はない。こんな人間に潤を渡すぐらいなら、いっそ殺してしまおう・・・・・・。世間の評価や犯罪に手を染めるという罪悪感をも凌駕する、怒りと、ある種の諦観。

 洋子は台所から包丁を取り出す。それをなんの躊躇もなく正男へと突き刺そうとする。正男はそれを軽やかにかわし、握られていた包丁を、いとも簡単に抜きさり、投げ捨てた。そして、素早く洋子の正面に回りこむと、腹部にパンチをいれた。洋子はその場に、腹を押さえて倒れこむ。

「安心しろ、明日の朝までに元通りの状態にしておいてやる」

そういうと、もう一度腹部にパンチをいれた。洋子は、その一撃で、意識を失ってしまった。


 正男はすばやく、尚且つ足音を立てずに階段を駆け上がると、潤を抱き上げた。そして、起こさないようにゆっくりと階段を下り、玄関へと向かう。靴を履き、再び抱き上げ、ドアを開け、外へと出た。車のドアを開け、そこに潤をゆっくりと置く。ドアを閉め、自分は運転席に向かう。いつもよりも大きく聞こえるエンジン音に苛立ちながらも、車を進め始めた。


 長い眠りから覚めた。前には車を運転する父の姿がある。僕はゆっくりと体を起こした。それに気づいた父が優しげに言った。

「ああ、起こしてしまったか、潤」

その言葉には優しげな気持ちが伝わってくる。僕は何で父が車に僕を乗せて走っているんだろう? 寝起きで意識がはっきりしないのだ。僕は、そのことを父に尋ねた。

「パパ。これからどこに行くの?」

僕の中には不安しか渦巻いていない。とにかく何かにすがりつくように、父に行先を問いただしたのだ。その不安をかき消すように、父は言い出した。

「これから遊園地に行くんだよ」

そのとき、僕の中でさらなる不安が渦巻いた。そして、それと同時に疑問も浮かび上がる。考える前に口からその言葉は出た。

「夜に遊園地って、やってるの?」

その言葉の答えに数瞬かかった。

「ああ。やってるさ」

「でも、こないだ六時に閉まるから帰るんだよって、パパ言ったよ」

さきほどよりも、かなり遅れて答えが返ってくる。

「パパが遊園地の人に使うからってお願いしてある。だから、潤は安心してお休み」

「うん・・・・・・」

疑問が解消されたことにより、脳が安全を確認し、無意識のうちに張っていた気が緩み、眠気が襲ってきた。ごちゃごちゃ考える間もなく、再び僕は眠りについた。


十年前のこの話は、数回に分けて進めていきます。

現在の話の中に、ちょくちょくはいってくる感じなので、

よろしくお願いします。

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