14、見えぬ傷
僕達は、とりあえず、ドラキルの討伐報告をして、各自報酬を受け取った。かなりの額だ。この前のハリウス戦の時の数倍はある。そして、あの青年――ジャスティス・ファイア――の情報。こちらは、調査課の職員に報告することにした。
「やつと戦闘したのか・・・・・・」
「知ってるんですか?」
奈々が聞き返す。ということは、ロントでは彼のことは内密にしておいたということになる。
「ここ最近、数度、やつの目撃、または、戦闘をしたという報告があった」
「それって、どのくらい前からなんですか?」
今度は修二が聞いている。確かに年月の長さによっては、かなりの問題になりそうだった。
「それが、二週間も前じゃないんだよ」
その言葉に、三人は驚愕した。海でさえ、僅かに反応していた。
「それに、彼が戦闘するのは、決まって何者かが戦っているところに突然乱入してくる、というところなんだ」
確かに、僕らのときも、ドラキルとの戦闘中に現れた。戦闘機に乗って現れた彼は、僕ら、というより、僕一人を狙って攻撃してきた。攻撃の速度がかなり速いのが特徴的だった。だが、それ以上に特徴的だったのは、天空を飛んでくる武装だ。あの蒼い翼が頭の中に蘇る。あのときは完全に押されていた。こちらが空中に攻撃ができないとはいえ。
でも、その戦闘時に、僕は、一度も攻撃しなかった。攻撃の構えさえしなかった。押されるのも当然だ。そう、結局、なにも変わっていない。強くなりたいと思った。力を手に入れ、強くなったと思っていた。それはただの思い込みだった。どんな強大な力を手に入れても、それを使いこなせなければなんにもならない。僕には、この力を使いこなすことはできない。おそらく。
「勝手に戦闘に介入することで、もうその戦場は大混乱というわけだ」
淡々と職員が説明する。彼がやってくるのは、戦場という種をまいた自分達のせいなのか。それとも、その種に水をかける彼自身のせいなのだろうか。でも、例えその花が咲いても、自分達と彼の咲く答えの花は違う。彼は、なぜ戦場に介入してくるのか。なぜ、違う答えの花を咲かせようとするのか。
「彼は、一体何なんですか」
奈々が問う。職員は、僅かに返答するのを躊躇ったが、すぐに言い始めた。
「さまざまな仮説が立てられているが、何かの軍に所属しているとか、あるいは複合されてできた戦士なのではないかというのもある」
複合された戦士・・・?
僕の頭の中に、一つの単語がよぎる。それは、いつまでも頭から離れていこうとしない。
複合された戦士・・・・・・複合された・・・・・・。
複合・・・・・・フクゴウ・・・・・・。
複合。その単語が、いつまでも僕の頭の中を渦巻く。いや、それだけではない。そのせいで、頭痛までしてくる。視界がぐるぐると回るような感覚を覚える。めまいだ。頭痛とめまいに同時に襲われた僕は、態勢を崩し、背中から倒れそうになった。後ろに居た修二が、僕を抱きとめる。
「隊長!? どうしたんですか!?」
修二がいつになく大きな声で、おどおどしながら僕に話しかけた。話しかけられても、さすがにこちらは話せる状況じゃあない。しだいに吐き気もこみ上げてくる。僕は手で口を覆い、そこにつっぷした。目が涙でほとんど見えない。意識も少しずつ遠のいていく。手足の力も抜けていく。まともに奈々や海、修二の顔を見ることができない。僅かに耳の中に、僕を呼ぶ声がした。
奈々や修二は、ただ驚きながら、潤の名を呼び続けた。だが、向こうから返事はこない。修二は背中に耳を当て、心臓の部分に手を当てた。ほっとするように修二は答える。
「息はしているみたいです」
その言葉に、奈々もほっとする。なんで・・・・・・なんで潤がこんな目に・・・・・・。
「私は医務の方に連絡してくる。君たちは彼の様子を見ていてくれ」
「あ、はい!」
奈々はそう言い返した。職員は、言い終わると、すぐにドアを閉め、医務室の方へと走り出していってしまった。
「隊長の状況を確認してください」
そう言い放ったのは海だった。二人は驚きと共に、僅かな恐怖も覚えた。海が、他人を心配するような言動を言うなんて!
そんなことを考えているのは後のことで、奈々はすぐに、額に手を当てる。熱はなさそうだ。だが、顔は青ざめている。すぐに休ませておきたい。そこに、職員が医務室から医者を連れてきた。奈々は状況を説明し、医務室へと、潤を運んでもらった。
「ああ、もう一体なんなんだぁっ!あの蒼い翼のやつといい、隊長の気絶といい!」
それはこっちのセリフよと、ため息をつきたくなる。自覚はしていなかったが、どうやらため息をしていたらしい。修二がそれを指摘した。
「ため息がでるのも分かりますよ。隊長」
それを聞いて、今度は小さくため息を漏らす。修二の言うことも分かっている。ドラキルとの戦闘中に、突如戦闘に介入してきた蒼い翼。確か、潤はジャスティスだと言っていた。その上、今度は潤がいきなり体調不良を起こした。一体、これからどうなってしまうのだろう・・・・・・。
奈々は、今日三度目のため息を漏らした。