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THREE WORLD  作者: 織間リオ
第二章【チーム・スレイヤー】
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10、名前と権力

 僕と奈々はチーム結成の次の日は学校が休みだった。そのため、僕と奈々は修二と海に都合を確認して集まってもらうことにした。今回集まったのは、チームの名前を決めるためだった。

「みんな集まったね。じゃあ、これからチームの名前を討論するから、皆かっこいい名前をよろしくね!」

奈々に考える気はほとんどないようだ。確かに、かっこいい名前なら男の方が付けやすいのだろう。僕は腕を組んで考え始めた。

 修二も僕と同様に頭を抱えるようにして考え込んでいる。それはとてもありがたいことなのだが、問題は海の方だ。いかにも、どうぞご勝手に決めてくださいと言わんばかりの表情と仕草だ。集まったのはいいが、その目的がチームの名前決めだったことに、がっかりしたのだろうか。

「俺は帰ります」

海が立ち上がる。たぶん、僕の予想通りだろう。ミッションに行くわけでもないのに集まる必要はないと言うのだろうか。

「チーム名なら、ご自由に考えてください。俺はそれに従います」

そういうと海は何も言わずにチームルームを出て行ってしまった。僕や奈々は引きとめようと声をかけようとしたのだが、奈々は途中で声をかける気が失せたようだ。僕は声をかけることのないまま見送ってしまった。あの氷のような心を持つ少年に声をかけるのが、なんだかむなしいような気がしたのだ。

「はぁ・・・・・・じゃあしょうがないわ。三人で決めよう」

奈々は仕切りなおしたようだ。あの少年には、仲間意識が極端に薄いような気がした。


 海はゆっくりと自室への道を歩いていた。廊下のはじっこを流れるように進んでいく。途中ですれ違うクリエイターにも、目線一つも向けやしない。そのとき、肩に何かがぶつかる。気にせず進もうとした彼を呼び止める声がする。

「おい、お前謝れよ」

相手は自分の立場をわかってないだろうし、無論、自分もそのクリエイターの立場を分かっていない。

「すいませんでした」

軽く頭を下げ、再び自室への道を進もうとする。だが、そのクリエイターはその道をさえぎった。そのクリエイターが、胸に光る階級を示すバッジを見せ付けてくる。

「俺はBランクだ! その程度で済むと思っているのか!?」

クリエイターは胸倉を掴む。海の体は、ほとんど浮いている。かろうじて足のつま先が地面についてはいるが、ほとんど役にはたたない。さらに体が持ち上がる。海は胸倉を掴まれて宙吊りの状態だ。

「いいんですか?」

海は小ばかにするような口調で話し始める。

「ここで暴力を起こして、騒ぎになればあなたの責任ですよ?」

「・・・・・・!!」

論理的な言い方をすればそうなる。ずっと端っこを歩いていた海は、そういう言い方ができる。周りには自分達以外は誰一人いなかった。つまり、避けることは十分にできたはずだ。堂々と真ん中でも通っていればよかったものを。

「その少年の言うとおりだぞ、章」

章と呼ばれたクリエイターは、すぐに海の胸倉を掴んでいた手を放し、呼びかけてきた人物に向かって敬礼した。

「たっ、隊長!」

呼びかけて来たのはメガネをかけ、いかにも秀才のようなイメージの人物だった。彼は海の方を向くと、自己紹介をはじめた。

「これはぼくの隊員が失礼をした。ぼくは和田わだ 光男みつお。君に暴力を振るいかけた彼はうちの隊員、山川やまがわ あきらだ」

淡々と説明をしていくさまは、海とほとんど変わらない。海はただ黙ってその話を聞いていた。

「そして、僕達は、チーム・パワーに所属している。だから、それなりの対応はしてもらわないと、君の方の立場も危ない」

チーム・パワー。どこかでその名を聞いた気がしていた。

「今回は多めに見るが、次は必ず上に報告する。覚悟をしておけ」

そういうと、光男と章は、海の横をすれ違うように離れていった。そして、離れていき、姿が見えなくなったころ、海はチーム・パワーの存在を思い出した。ロントの中でもかなりの実力を持つチーム、パワー。戦場でのとっさの判断力と、それを確実に実行に移す行動力を兼ね備えたロント四天王の一つ。Xランクの隊長、光男を筆頭にした実力者達は、今まで幾度となくブレイカーとの戦闘における戦局をひっくり返してきた伝説のチームとも言われている。

海は自室に戻ると、すぐに転送装置でその姿を消した。


 僕と奈々、そして修二はチーム名に頭を悩ませていた・・・・・・のだが、話がどんどん離れていっていた。

「修二ってさぁ、海のことを知っていたの?」

「いえ、彼とはここに来て初めて知り合ったんです」

それ続けている話の中の一つである海の話はここで途切れた。僕は話を戻そうとチーム名の考案を求めた。

「チーム名はどうするの?」

そこで、沈黙が起こる。先ほど、海が部屋を出ていこうとしたところでも、同じような沈黙が起きていた。僕はひらめいた。チーム名が。僕は沈黙が広がっている二人に向かって進言した。

「チーム・スレイヤーっていうのはどうかなぁ」

僕は軽々しくその名を呼んだ。二人の表情が一気に明るくなった。僕は、さらに、この名前の由来を話し始めた。

「僕は、気が弱い。だからこそ、どんなものでも立ち向かっていける力を持って行動したい」

僕は、いつになく堂々と発表した。こんなに心がはずむのは久しぶりだったかもしれない。今まで、うちが貧乏なせいで、六年生のときの修学旅行代すらはらえない状態になり、その二日間を家で静かに暮らした。誰かと遊ぼうといっても、皆修学旅行に行っているので、誰も相手にはしてくれなかった。

 でも今は違う。お金なんて一円もかからない。それなのにここまで、興奮することができる。楽しめる。そのことが、僕にとって一番嬉しいことだった。

「僕は強くなりたいんだ」

あのとき、自分の部屋で、生まれて初めて見た流れ星に祈った願い。強くなりたいのは誰だって同じ。権力を振りかざすためと言うのもあるかもしれないが、誰にも攻撃されないというのもあるのだ。僕は、そういう力が欲しい。そして、その力で強くなりたい。

「これからは、「僕達は強くなる」っていうのにしてよねっ」

奈々が笑いながら僕を軽く押す。僕もかなりの笑顔を見せたのだろう。僕は勢いよくうなずいて見せた。

「うん!」

こうして、僕らのチーム名は、チーム・スレイヤーに決定した。奈々が唐突に言い出す。

「じゃ、明日も来れたら来て。ミッションのブリーフィングをするから」

「チーム・スレイヤーの初ミッションですね!」

修二が高揚して、声をあげる。僕は、修二に向かって言い放った。

「海にも連絡を入れておいて、修二」

「了解」

「じゃあ、今日は解散。お疲れ様でした」

そういうと、修二は一礼して部屋を出て行く。僕はゆっくりと立ち上がると、部屋のドアに向かって歩き出す。そのとき、後ろから声をかけられる。

「潤・・・・・・」

奈々が立ち上がる。なんだか、顔が火照ったように赤い。なんの話なのか、よく分からなかった。

「その・・・・・・学校で、なんか噂なってるよね・・・」

その一言で、僕の脳内で一つの噂が鮮明に浮かび上がる。朝から執拗に真実を突きつけられたあの噂。そう、僕と奈々が付き合っているという噂だ。

「ああ・・・・・・付き合ってるっていうの?」

それを聞いた奈々は、顔を真赤にした。僕との交際が噂になっているのだ。これは僕と奈々の問題である。他の誰も、何の関係もない。

「僕とは、ここ以外では会わない方がいいか?」

その瞬間、奈々の体が一瞬凍りついた。ここ以外では会えない。それだけで、どこか心が傷つくような気がする。

「あ、奈々がいいなら、いつも通りで構わないよ、僕は。奈々に合わせる」

僕は、答えを待たないうちに、部屋から出て行った。


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