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THREE WORLD  作者: 織間リオ
第二章【チーム・スレイヤー】
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8、昇格

 僕らはロントの魔界支部に戻った。そこでミッションの達成報告を告げる。受付をしていた女性が、僕に向かって話し始める。

「潤様はこのたび、グレードポイントをOレベルまで溜めたため、これより潤様はOランクとなります」

そして、そのあとすぐに奈々にも、台本の情報を埋め込まれた機械のように同じような話をし始めた。

「奈々様は今回グウレードポイントをMレベルまで溜めたため、これより奈々様はMランクになります」

それは、僕らの昇格の報告だった。つまり、これによって僕は最低ランク、Rレベルから脱退したのということだ。Oランクというのは、全体的に見れば、まだかなり低いランクだが、最低ランクで過ごすよりはましだろう。僕と奈々は、来たときのようにして、ロントの巨大基地、リエイトへと戻った。

 リエイトに戻った僕らは、さっそく時計を確認した。さまざまな世界の様々な星の様々な地域の時間が表示されている。そのなかから、日本の時間を探し出し、それを見つけた。現在時刻午後八時半。そろそろ帰ったほうがいいだろう。僕は奈々に帰るからと伝え、リエイト内の自室に入った。

 部屋に入ってみて驚いた。階級が変わったからだろうか。殺風景な部屋に、収納用の棚が設置されていた。つまり、階級が上がるに連れて、設備も増え、快適に暮らせるようにしたのだろう。

 実際僕の場合はそんなに収納するものもなかった。でも、貧乏な生活をしてきたものだから、とりあえずもらえるものはもらっておくことにした。そんなことを考えていると、ドアのノック音が鳴る。僕は応答した。誰が入ってくるかは予想済みだ。奈々だ。奈々は部屋にわざわざ入り込むほどのようではなく、ドアから顔を出したまま話してきた。

「潤! 報酬金もらうの忘れてるよ・・・・・・はいっ」

そういって奈々は一つの封筒を僕に投げ渡した。僕はそれを慌ててキャッチする。なんとかキャッチした僕は、その中身をみる。数枚の札と小銭。僕はそれをテーブルに広げた。これ全部でどのくらいの価値があるのだろうか。僕は机に置きっぱなしだったマニュアルを読み返した。この通貨に関することが載っているかもしれないと思ったからだ。マニュアルの五十八ページ、報酬金と、ロントの通貨について。ここに所属するクリエイターはほとんどが日本人のため、換算も日本円が一番上に載っていた。

 ロント内の通貨、ルギ。一ルギで約十円。一万ルギで十万円となる。まぁ一応命を懸けている仕事だから、それなりのお金は入るだろう。僕は再度報酬金を見やる。数えた結果、百二十ルギあった。日本円に換算して千二百円。僕はそのルギを貯金箱に入れた。収納棚におまけのようについていたもので、いつでも取り出せるようになっている。デザインはよく見るようなそうじゃないような豚の貯金箱だった。僕はルギをしっかり入れて、部屋の鍵を閉めたのを確認し、転送装置を使って家へと帰っていった。

 家に帰った僕はさっそく眠りについた。母さんには、朝だけはご飯をもらうようにして、なるべく負担を減らした。母さんには、今まで苦労をさせた分、楽をさせたかった。自分一人の為にここまでがんばってくれる人は母さん以外にはいないだろうと思うほどだ。

 徐々にまぶたが重くなっていく。今日は疲れた。ハリウスとの戦闘もそうだが、キーラーが僕の体を通して表に出てきたからでもある。自分の中に眠っちた、今まで表に出てくることのなかった人格。僕と全く性格が違うキーラーが、なぜ僕の体を通して出てきたのか・・・・・・。しかし、考えている間に、僕の意識は途切れてしまった。


 次の日、目が覚めて時計を見た。六時半。外からは鳥の声が聞こえる。窓を開けると、遠くから国道を走る車のエンジン音が聞こえる。僕は窓を閉め、下に降りていった。すでに母さんが食事の支度をしていた。僕は目の前に並べられる貧相な食事にありつく。ゆっくりとよく噛み、そして飲み込む。なんでもない動作を、一つ一つ丁寧に行う。食べられる幸せとはよく言ったものだ。誰が言ったかは分からないし、知ろうともしなかった。もちろん、知るための手段も僕にはなかったのだけれど。

 僕は学校へと足を進めた。しばらくいくと、後ろから声をかけられる。僕は今来た道を振り返る。親友である勇が駆け寄ってくる。僕はそれを待った。勇が追いついたところで、僕は歩き出した。勇も横に並ぶ。不意に、勇が話しかけてきた。

「潤ってさぁ。奈々ちゃんと付き合ってんのか?」

自分でも分かるほどにビクついた。僕は驚いて勇の顔を見やる。勇の目はいつもの笑いかけるような目とは違い、挑戦的な目をしていた。おそらく、勇は奈々のことが好きなのだろう。もちろん、自分が好きな子が付き合っていると知ったら、個人差はあるがショックを受けるはずだ。僕は勇を傷つけたくないのと、実際付き合っていないという二つの意味を込めて、僕と奈々の交際論を否定した。

「そんなわけないよ。僕みたいなやつが好かれるところがないじゃん」

それを聞いて安心したのか、勇はゆっくりと胸を撫で下ろす・・・・・・と思いきや、いまだに挑戦的な目で、僕にさらに問うた。

「でも、昨日の放課後、潤と奈々ちゃんが一緒に歩いているというのを見たやつがいるらしい」

 僕は再び勇に見えない程度でビクついた。昨日の放課後、勇が一緒に帰れないと断り、奈々がミッションに誘ってきた日のことだ。誰がそのことを聞いた、もしくは見たのかはわからないが、一応事実は事実だ。でも、勿論、勇を傷つけたくない(中略)付き合っていないということで、僕は否定した。

「見間違えたんじゃない? 必ずしも僕と奈々ちゃんとは限らない」

「ちゃん付けするってことは、付き合ってるのか!?」

「勇の呼び方に合わせているだけだよ」

「あ・・・・・・はは・・・・・・そうだよな・・・・・・ごめん」

どうやら、勇からの視点での僕の疑惑は晴れたようだ。僕はほっとして、さっき勇がするかと思ってしなかったように、勇には見えぬように胸を撫で下ろした。

 校内でも、僕と奈々の噂は流行っていた。僕は聞かれる度に否定を繰り返した。そのうち、クラスで一番頭のいいやつが、僕に噂のことを問いかけてきた。彼はその頭の回転の速さも相まって、一番口の達者なやつでもあった。僕はやはり否定する。でも、そいつはさらに問い詰めてきた。聞けば、目撃者はそいつの友達らしい。で、その友達も頭がいいらしい。

「彼が見た情報によれば、服装が一致していた」

僕は、こんな問い詰められた状況と僕自身の臆病な性格がなければ、大げさに突っ込んでいただろう。元々この学校は全員が同じ制服を着ているんだから、一致もなにもないはずだ。だが、そんな僕の気持ちを感じ取ったかのように、さらに証拠を突き出す。

「さらに身長も一致していた。二人とも」

「で、でも!どうやって身長を測るの?」

そんな僕の質問は想定済みであったらしく。あらかじめ用意されていたのであろう答えを話し始めた。

「すぐそばに車があったらしい。彼の知識では、その車の車高が百六十ほどだと知っていた。そして、歩いていた二人もそれとほとんど同じだった」

そいつは、身を乗り出すように頭を突き出すと、事件の核心を言い放つように言った。

「潤君、君の身長は百六十三。奈々君の身長は百五十八! もうこれは核心的なもののはずだ!」

周りにいた皆が「おぉー」と、感嘆の声を上げている。だけど、僕はやはり否定する。いくら身長がほとんど一致しているからと言っても、まだ反論の材料はある。

「でも、僕くらいの身長なんていくらでも・・・・・・」

僕の身長は中学一年にしては小さいほうだが、それでもこのくらいの身長ならそこらじゅうにいるはずだ。親友である勇さえ、僕と二センチしか変わらない。さすがにこの反論には答えたようで、向こうはしばらく言いよどむ。これは勝負ありか。僕はさらに追い討ちをかける。

「それに、普通一緒に帰るなら、同じクラスの方がいいんじゃない?」

その瞬間、教室のドアが開く。一人の男が僕を見つけると、叫びながら僕に近寄ってきた。そのとき、僕の中で一気に恐怖心が膨れ上がった。

「おめえ、奈々ちゃんと付き合ってるらしいなぁ!?」

誤解の噂がもう流れているらしい。もし、僕の性格とこの状況が違えば、僕は「ああ」と頭を抱えていただろう。僕はあっけなく胸倉を掴まれる。僕はその男の名札に目をやる。こいつは、この間僕に喧嘩を売った高橋! 二年生が今回の一件のためにわざわざこの教室まで来たようだ。

「調子乗ってんじゃねーぞ!」

僕は突き放される。後ろにあった机に腰をぶつける。高橋は、僕に向かって殴りかかってきた。僕は体をそらせ、それをかわす。追撃をくらわぬうちに、なるべく距離を置く。高橋が回りこんでくる。僕の後ろには教卓、前には高橋がいた。それ以外は壁と机だ。高橋は腕を後ろにひき、そしてそれを僕に向かって突き出してくる。僕はジャンプして教卓に右手をつく。そのまま教卓を飛び越える。着地に失敗した僕は、思いっきり尻もちをつく。教卓越しに驚いた顔の高橋がいる。

「いっ・・・・・・ててて・・・・・・」

僕はゆっくりと立ち上がる。だが、我に返った高橋が僕に向かって飛び込んできた。

「うわぁっ!」

僕はとっさに、右側にあった机に飛び込む。机の上で一回転し、机を乗り越える。僕は机の間を進んだ。高橋は机を蹴飛ばすようにして進んでくる。僕は廊下に逃げ込んだ。廊下に逃げ込んだことで、ほとんどの生徒がこの騒ぎを目撃することになった。僕は後ろに下がりながら、尚もかわし続ける。もうほとんど後ろがない。

「この野郎!!」

高橋が殴りかかってくる。僕は高橋の懐に飛び込む。そして、高橋の後ろに回った。高橋はすぐに振り向いた。殺気ともいえるほどの集中力が伝わってくる。

(俺が助けてやる)

頭の中に声が響く。ハリウスと戦闘したときと同じだ。その声が聞き終わったころには、すでに僕は体の自由が利かなくなっていた。おそらくキーラーだろう。キーラーは僕の右手を使い、高橋の顔面を殴りつけた。高橋はふらつき、やがて倒れた。キーラーは「へっ」と呟くと、僕の体は再び自由を取り戻した。だが、疲労がたまったのか、僕もその場に倒れこんだ。そんな二人の状況を、何も知らずに階段を上ってきた僕のクラスの担任が、見つけた。担任は「ぎゃあっ」と声を上げて、その場に凍りついたように固まった。こういうときの対応ができていない証拠だ。こういう状況なら、生徒の状態を確認するか、他の先生を呼びにいくとかの対応をするはずだ。

 これだから、教師ってのは――!!!

 普段から大人であるという権力を振りかざし、一方的な命令のような口調を言い放つ。上司や大人は、部下や子供に命令するのは普通にだれでもできる。でも、それと同時に、命を守り、部下や子供がしでかしたことの責任をとることは、ほとんどの者ができていない。普段はなんでもできるような顔や態度を示しておいて、いざというときは何もできない。これでは蚊と同じだ。そこらじゅうの血を吸っているのに、いざ潰されたり食べられたりすると、何もできない。耐えることもかわすこともできない。

「あ・・・・・・えっと・・・・・・ええ・・・・・・っと・・・・・・」

おどおどしている担任はあやふやな言葉を発しながら僕と高橋を交互に見やる。だが、その数秒後、何事もなかったように担任は通り過ぎていった。

 僕の中に怒りがこみ上げる。誰に対してもぶつけることのない怒り。見捨てられる恐怖よりも、見捨てていく怒りの方が勝っていた。

「潤! 大丈夫か!」

勇が自分の肩に僕の腕を乗せる。そのまま、僕を保健室まで連れて行ってくれた。たぶん、勇は担任がこれを見過ごしていったところを見たのだろう。何もなかったように教室に入っていく担任の後ろ姿を睨んでいた。

 僕の意識は、勇に支えられているという安心感も手伝って、少しずつ遠のいていった。


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