プロローグ
綾小路雅臣。三十四歳の日本人小説家であり、国際的にも非常に有名で、若者向けエンターテインメントの発展に最も貢献した人物の一人とまで評されていた。
少なくとも、周囲からは何度もそう言われてきた。
たとえそれが事実だったとしても、自分で口にするには、あまりにも自惚れた、傲慢な表現だといつも思っていた。
今日、二〇一五年七月十七日、正午十二時三十分。私は毒を盛られた。誰が犯人なのかは分からなかったが、正直なところ、その時点ではどうでもよかった。
今、私は奇妙な場所に浮かんでいた。ここは「世界システム」と呼ばれているらしい。
さらに、青白く光る奇妙なホログラムが目の前で点滅し続け、新しい名前を要求してきた。まるで、どこかのゲームのアバター作成画面でキャラクターを作っているかのようだった。
この場所は何とも不気味だ。どう表現すればいいのか、自分でも分からない。
けれど、そこまで最悪というわけでもない。少なくとも、死後の世界が完全な虚無というわけではないらしい。
これまで小説家として書いてきた数々の異世界もののようなものだと考えることにした。名前を選ぶ必要があるのなら、前世で自分が生み出した主人公の一人の名前を使おう。
(ナレル・ヴェイルストーム……)
「キャラクターを自動生成しています」
つまり、自分で完全に選ぶことはできないのか? これは、良い結果になるかもしれないし、とんでもない結果になるかもしれない。
せめて、役立たずの何かにだけはならないでほしい。
「世界の概要」
私が転生することになる世界。
人間と人間以外の種族が築いた文明は、長い間、平和を保っていた。しかし、各王国が獣人や他種族を奴隷として売買していたという残虐な行為が明るみに出ると、腐敗がその調和を崩壊させていった。
獣人たちは裏切られたと感じ、次第に分裂していった。そして、その多くが森や山脈に点在する村々へと散らばっていった。
ガヴロット王国は獣人たちの平和を脅かそうとしたが、恐るべき魔王ザロスが、たった一日で王国の痕跡をことごとく破壊し尽くした。
それは、私が転生する三千年前に起きた出来事だった。
そして今、古代の悪魔文明が滅びてから五百年が経過したその地で、私は生まれ変わることになるらしい。
「これは面白くなりそうだな……」思わず好奇心を刺激され、私はそう呟いた。「案外、悪くないかもしれない」
今、自分が何を経験しているのか理解できていないことは認めよう。しかし、異世界ものに関する豊富な知識があるせいか、どうしても状況をそれらの物語に当てはめて考えてしまう。
「新種族:悪魔」
悪魔だと? おい、こいつは一体何を言っているんだ?
悪魔なんて、いかにも恐ろしいじゃないか! 元の世界に戻してくれ! もう冗談はやめてくれ!
システムは、どうやら私の声など聞いていないらしい。せめて、美しくてセクシーな女神にでも出会えていればよかったのだが、どうやらそんな幸運にも恵まれなかったようだ。
なんて憂鬱なんだ。
前世の私でさえ、こんなことが現実に起こるとは思ってもいなかった。そういえば、以前、自分の小説でも似たような導入を書いたことがあった。しかし、実際に体験することが、想像していた以上にひどいものになるとは思わなかった。
「パッシブスキル:グリーフ」
受けたダメージの重さに関係なく、毎分百PTのマナを消費し、あらゆる損傷を瞬時に完全回復する。
スキルだと? これはなかなか面白そうじゃないか。
美少女たちに会えないのなら、せめて魔法くらいは使いたいものだ。そう考えると、少しは気が楽になった。
「パッシブスキル:ラヴェロン」
討伐した敵のステータスを奪い取ることができる。
これはかなりいいじゃないか!
醜い悪魔になってしまったうえに、しばらく女性と関わる機会まで失うのなら、せめてこの能力で埋め合わせてもらおう。
「種族:悪魔」
(筋力:32 PT)
(敏捷:41 PT)
(速度:65 PT)
(マナ:621 PT)
(耐久力:43 PT)
なるほど。最初はかなり役に立たない存在らしい。
【魔法耐性が発動しました】
【火属性耐性】
まあ、時間が経てば、もっと多くのスキルを獲得できるだろう。そうすれば、さまざまな属性の魔法に対する耐性も高められるはずだ。
【斬撃耐性】
【打撃・落下耐性】
まるでゲームみたいだ。最初に想像していた以上に、本格的なゲームそのものじゃないか。
新しい世界には、私以外にも転生者がいるのだろうか。もし出会えたら、同じように別の世界からやって来た人間と話ができるかもしれない。それはそれで、なかなか面白そうだ。
早く転生したい!




