其の十四 MM(2021年4月)
前夜セブンが感じた検索結果の違和感。
暁やマシリトもそれと同じ違和感を持つ。
セブンやなつきから語られるMMの動き。
マシリトは何を思うのか?
〈戦慄〉
仕事の昼休み。
暁はTwitterを見ながら考える。
(平和な世の中だねぇ。)
あう男は襲撃後の数日は耐えた。「僕じゃなーい」などのポストもしていたが、都度掲示板に晒された楽しんでいるDMのスクショを貼るリプをされ、耐えきれなくなったのだろう。垢は削除された。
一方、なつきの裏垢は生きている。
とはいえ、そのままではなくツイートを全て削除し、【大人の玩具紹介】と名を変え、紹介と通販サイトへの誘導を行っている。垢を変えた事を機会に職も変えた可能性もある。
Twitterにおいてなつきの脅威はほぼなくなったのかもしれない。
しかし異変はある。
MMのプロフィールが更新されている。
本当に出来ちゃうなんてすごい♡大好き♡♡
(なんて事しやがるんだ?M君。ひょっとして俺達のへのメッセージか?いやいや、お前じゃなくてだな・・・。)
意味が分かるはずのない暁はひたすらに困惑している。マシリトも当然「分かんね」の一言である。
暁は休憩の残り時間を確認しつつ、検索サイトを開き、なつきを検索する。
(Twitterは浄化されてもねぇ。どうすんだ?あの女は。就活出来んのか?)
そんな事を考えながら検索結果を見る暁。
(なんだ?)
違和感がある。明らかになつきに関する情報は減っている。数日前に検索した際は、20以上のアダルトサイトが表示され、リンクの下の小さな説明文になつきの名が出てくるものもあった。今は6サイトのみ。
気になった暁は、ブックマークに保存していたなつきに関する書き込みへのリンク(直リン)をクリックする。
Not Found
(なんだ?)
別のリンク。
この投稿は削除されています。
結果的に彼がブックマークしていたなつきの書き込み。8つ全てが削除されている。
検索結果に表示されたサイトにアクセスし、なつきの書き込みを探す。何度も見たサイトであり、おおよその位置は分かる。ほとんどが昨年8月前後のものだ。しかし、見つからない。
「何だ?一体何が起きてやがるんだ?」
暁は午後の業務に集中出来ないまま、定時を迎えすぐに帰宅する。その途中でマシリトやセブンにDMを送っている。
暁:
アダルトサイトのなつき関連のレスがほとんど消えてるぞ?何が起きてるんだ?訳がわからん
マシリトからは一言、「マジ!?」とだけ返信があったが、セブンからはない。
焦れながらセブンの返信を待ち、なつきを検索する。
(ほとんど、消えてる?)
彼が知るほとんどのサイトで、なつきに関する書き込みが消えている。小さなSM系サイト2つのみ、残っている状態だ。
「こんな事が・・・起きるのか?」
22時過ぎにセブンから返信。
セブン:
確かにほとんど消えてるねぇ♪
暁:
相変わらず遅せぇんだよ!それに何だ?やけにご機嫌だな。
セブン:
そらそうよ。私は姫の守護者よ?まさかこんな事が出来るなんてね。
暁:
出来る?誰かがやったって事か?ひょっとして。あの女、自分で晒してやがったのか?
削除キーは書き込んだヤツしか分かんねぇよな!?散々被害者ヅラしてこれか?www
セブン:
落ち着きなさいな。あんたは姫と何度か話してるよね?姫が嫌がってるにも関わらず。
それでそんな考えなら、あんた人を見る目がないね。
暁:
じゃあ。誰がどうやって?あんな事普通出来ねぇだろ?
セブン:
出来るだろう?丁寧な作業をすればね?それとも派手な立ち回り以外は苦手かい?種明かししてもらいたいなら、少しは落ち着くんだね?
(クソクソクソクソ!なんだ?コイツ。こんな嫌な言い方するヤツだったか?)
暁はセブンから普段の掴みどころのない雰囲気とは異なる凄味を感じている。
暁:
すまん。教えてくれ。
セブン:
M氏だよ。私の予想通りならね。
暁:
はぁ?なんで彼がそんなこと出来んのよ?
んん!?元々彼が晒してたってことか?それなら辻褄合うよな?
プロフで変な事言ってるし、晒して囲ってとんずらか?
セブン:
本当にバカか?あんたらは。
彼は姫が晒されたサイトを調べていたよ?ここ数日ずっとね?私も依頼された。
私の過去を知ってるくせに、抉るような事をするとは思ったけどね?笑
暁:
サイトを知って、どうすんのよ?
セブン:
まだ分からない笑?アダルトサイトにも管理人や管理会社があり、連絡出来る事くらい知ってるね?小さなサイトは知らないけどね。
暁:
待て。Twitterの通報とは訳が違うぜ?
あんなの・・・全部連絡したってことか?管理人に依頼や交渉?
セブン:
さあね。全部彼からの依頼を踏まえた私の想像だよ。あんなアダルトサイトでも管理会社はあるからね。ただ得体の知れない運営相手に連絡をするかどうか、っていうと普通はしないかもしれないね。
ただ、それをせずに他に痕跡を消す方法があるのかどうかも分からない。
さて。もういいかい?
今夜はそろそろ失礼するよ。
暁は黙り込むしかなかった。
なつきの側にいながら表に出ず、何も出来ない男。裏でこそこそ通報し、通報が出来ない相手には無力な男。
攻撃者との交渉すら出来きず、マシリトにはコミュ障とまで言われた男。
掲示板でどれだけ叩かれ、挑発されてもなつきの影に隠れる男。
リプやプロフィールでなつきと遊ぶだけの男。
挙句実在すら疑われ、なつきのなりすましとまで言われた男。
キリがない。彼を蔑み、僻む言葉はいくらでも見てきた。
しかし今、暁は寒気を感じている。姿を見せないネット上の幻とも言えるMMに彼は恐怖し、そして、敬意を抱かざるを得ない。
「アイツは。いや彼は。ネット上からなつきの存在を消そうとしてるのか。クソクソクソ。アイツには何をしても勝てないってか??」
驚愕
マシリトも暁と同様にアダルトサイトの変化に気づいていた。しかし暁と違いマシリトは純粋にその事実を喜んでいる。
(何があったかわからんけど。良かったなぁ、なつき。)
ここぞとばかりになつきにDMを送る。
実はあう男を討伐したあの日から数日の間、彼はなつきとの距離を今まで以上に感じていた。
マシリトの見立てでは最大の敵、なつきの裏垢。
その垢を操りなつきを苦しめていたあう男。彼が消えたことは、なつきも喜ぶと考えていた。
しかしなつきの反応は予想とは異なっていた。当然、例の裏垢が消えたことには喜んでいるようだが、その反面、マシリトがTwitterの表で暴れたことに対しては明らかに批判的だった。
彼がリプになつきの守護者であることに明かした事に対しては、はっきり非難とも取れる言葉をもらっている。腹を立てたマシリトはMMを非難する言葉をなつきにぶつけている。
マシリト:
だったら彼は?MMは?彼は何もしてないじゃないか!
それに対してはなつきからは何の返事もなかった。
翌日以降もなつきとはDMはしている。朝晩の挨拶、仕事に対する労い。それ以前と大きく変わったようには見えないが、なつきからマシリトに対するDMからは、絵文字が消えていた。
マシリト:
こんばんは。なつき。
ネットのなつきの書き込み、ほとんど消えてるんだな!ホントに良かった(^^)
Natsuki:
ありがとう。
マシリト:
まだ怒ってるのか?あのな、なつき。
良ければだけど、何があったのか聞かせてくれないか?なつきの書き込みが消えたこと、俺はホントに喜んでるんだ。
Natsuki:
別に怒ってない。
それにマシ君が機嫌悪くなる話かもしれない。
マシリト:
機嫌?悪くなる訳ないだろ!俺はホントに嬉しいんだ。信じてくれ、なつき。
Natsuki:
わかった。アダルトサイトから私が消えたのは、たぶんね、Mさんのおかげ。
マシリト:
MMが?どうやって?
マシリトはただ驚きながら聞く。
(どうやって?サイトを消した?彼にはそんな力があるのか?)
Natsuki:
Mさんね、ずっと調べてたから。サイトの連絡先とか。その、私が晒されたサイトとか。
サイトの管理会社に連絡すれば削除できるかも、って。
特に大きなサイトほど応じてくれる可能性は高いって。
でも私は怖いからそんなことは出来ないから。
だから多分Mさんが。
マシリトは頭の中が真っ白になっていた。
(サイトに連絡?そんなことが出来るのか?一度連絡すれば簡単に消してくれるのか?)
マシリトはすぐにはMMの行為が理解できない。いや。考えたことすらなかった。彼がなつきを守ってきたのは事実なのだろう。
しかしサイトの運営とのやり取りはユーザー同士のちょっとした喧嘩やレスバとは違う。同じく画面を通していても、リアルな現実としてのやり取りをする事になる。
なつきとの会話はそこで終わったが、マシリトはMMの事を考え続ける。
なつきの最も近くにいると思われる彼は、常に嫉妬や怒りの目、言葉をぶつけられている。むしろ今ではなつきに対するものより、彼に対する攻撃の方が多いかもしれない。
(俺も、同じだ・・・。)
どれだけなつきの敵を叩いても。
なつきの周りから敵を消しても。
喜ぶはずのなつきから、お礼の言葉をもらったことはなかった。
その理由を彼は勘違いしていた。なつきはMMだけを大事にしている。自分たちはただ戦えば良いと思われている。そう思っていた。
(違ったんだ。なつきと毎日のように話していても。俺は気づけなかった。なつきは俺達が派手に暴れて、誰かを攻撃している事が、嫌だったんだ・・・。)
そして、MMとの圧倒的な差。
マシリトはなつきを守るとしながらも守護者である自分に酔い、楽しんでもいた。
しかしMMは・・・掲示板では顔の見えない相手に一方的に叩かれて、味方であるはずのマシリトにすら批判的な事を言われてきた。その話をなつきから聞いているかもしれない。そんな彼はなつきを守りながら、楽しいと感じる事はあるのだろうか?
彼と言葉を交わしたことのないマシリトには、彼の気持ちは分からない。
なつきが唯一リプを返し、普通の若い女の一面を見せている彼。
彼は間違いなくなつきを守っていたのだ。マシリトや暁、夢とは全く違うやり方で。
そしておそらく。
なつきがネットから消えた以上、新たな攻撃者が彼女の前に現れることは、もうないのかもしれない。
翌日、マシリトはなつきにDMを送る。
マシリト:
おはよう。俺は考えた。そして謝る。
俺のやり方は間違っていた。なつきは俺が派手に暴れるのがイヤだったんだよな?あんなやり方をすれば目立つし俺も恨まれる。
そんな俺を見たくなかったんだろ?
だからもう、俺はあんなやり方はしない。
それに、MM。彼を悪く言う事もしない。
だから許してくれ。
半日ほど経った後、なつきからは一言だけ「わかった。」と返信があった。
どこまで伝わったのかは分からない。
しかしマシリトは、戦い方を変えていく決意をしていた。
(あう男を操っていた山佐ってヤツ。次はアイツをどうにかしておかないとな。)
これまでと、大きく何かが変わるわけではない。
しかし、なつきと彼女を守ろうとする仲間達。
その存在をあらためて、マシリトは感じている。




