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忌み子と呼ばれた私がハイエルフでそれによってエルフは衰退しました。

作者: 小埜我生
掲載日:2026/02/15

※差別的、暴力表現あります

苦手な方はお気をつけください。

コメントいただけると嬉しいです。

エルフは1000年という長い寿命のため極端に出生率が低い。

数十年に一人産まれるかどうかというところだ。

そのため子の誕生は里全体の祝い事。

全てのエルフは同胞の誕生に祝福のまじないを精霊樹に奉納し、感謝を捧げる。


「なんと二人の同胞が同じ時期に産まれるなど何百年ぶりだろう」

「これは精霊様からの我らへの祝福では?」

「祝い事には違いない」


静かな里が珍しく騒がしかった。

二人の娘が子を孕んだのだ。

しかも一人は里長の娘。

一人でも珍しいのに同じ時期に二人とは数百年単位の慶事。

周辺のエルフの里に伝わるほどに皆が喜びに包まれていた。


同じ日に娘達は産気づいた。

二人は安産のまじないを施された産小屋(うぶごや)に運ばれる。

小屋には産婆とその補佐の女達数人のみだったが娘達の家族をはじめとして里の者達が小屋を囲んでその誕生を待ちわびる。


先に産まれた子は男児。

金髪に翡翠の瞳のエルフらしい見た目。

大きな産声に小屋周りの皆が喜ぶ。


やや遅れて里長の娘が子を産み落とす。

二つ目の産声に再度皆が喜びの声をあげようとした。

しかしその声をかき消すように響いたのは、里長の娘の悲鳴だった。


「なに!?このバケモノは!!」


皆は困惑したが出産の場は限られたもの以外は入ることが出来ないためその場に立ちすくむのみ。

小屋の中からは赤子の産声と里親の娘の騒ぐ声、それを落ち着けようとする産婆たちの慌てた様子だけが窺える。

先程までの高揚感は嘘のように静まりかえっている。


「里長、入って頂けますでしょうか」

中が落ち着いたのか補佐の一人が小屋から顔を出し私を呼んだ。

娘の声に心配のあまりその場にへたり込んでしまっている妻を他のものに頼み、小屋へと入った。

部屋の中にも村中の者達からの祝福のまじないが施され、その中央に二つの布団が敷いてある。

布団はそれぞれある程度離してあり、その周りを産婆達が囲っている。

先に子を産んだ娘は、子を抱きかかえ不安そうにもう一つの布団の様子を窺っていた。

その側には補佐のものが一名付き娘側から彼女が見えないようにしているようだ。

「娘は?」

娘の布団へと近づくとそこには髪を乱れさせ、産後とはいえ、明らかにいつもと雰囲気の違う娘がいた。

産婆が落ち着けようとしているのか布団の上の娘の身体に寄り添い、声をかけている。近づいて良いものかと戸惑っていると私の存在に娘が気付いた。

「お父さまぁぁぁぁぁあああ」

側にいた産婆を払いのけ娘が私の元へと駆け寄ってくる。

私は駆け寄ってきた娘を受け止めた。


「ごめんなさい、私バケモノをっ!!」「いえ、あんなの私の子では」「いや、いや、いやぁぁぁぁ」


目の焦点も定まらず、私にすがりつくように泣く娘。

そして突然フッと意識を手放したのかその場に倒れる。

私はすんでのところで娘を引き寄せ、その身体を支えた。

産婆に目配せして娘をそのまま布団へと運び休ませる。

「なにがあったんだ」

産婆に尋ねると彼女は一瞬考え込んだ後補佐に任せていた恐らく娘の子(私の孫)を私の前に連れてきた。


「これは・・・」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「嫌な夢・・」

窓からひんやりとした冷気が入り込んでくる。

まだ日も昇らない早朝か。

私は髪をかきむしりながらベットから出る。

少し早いがさっさと準備するかと2階のこの部屋から1階へと降りる。

かまどに火を入れ、湯を沸かし、昨日の夜のスープを温める。

準備が終わる頃2階からこの家の家主であるメイラさんが降りてくる。

すらりとしてエルフ女性にしては長身で、金髪を細かく編み込んでいる。

かなり美人だがそれを台無しにする目つきの悪さ。

「おはようございます師匠」

そう彼女は私の師匠。

「あぁ、おはよう」

まだ眠いのかボーっとしつつ椅子に腰掛ける。

私は師匠の前に朝食を並べその向かいにも同じように並べて椅子へ座る。

「「我らの友であり隣人の精霊への感謝を」」

食前の祈りをして朝食をとる。

パンと昨日のスープだけだが味は美味しい。

「お前は薬草採取と害獣駆除をしておけ。私はここで調剤してるから済んだら適当に鍛えてろ」

食事が終わると師匠から今日の作業の指示をもらい外へと向かう。


この家はエルフの里の外れにあり、里には結界がしてあるため獣はその中には、ほとんど侵入しない。

けれどあまりに数が増えすぎると結界が耐えきらないことがある。

そのため適度に間引くことが求められている。

この家はギリギリ結界内の位置にあり、外の獣からすれば分かりやすい餌。

万が一の場合はここは里を守るためのトカゲの尾。

そんな場所なのに強いとはいえ女性の師匠と70歳(人間にしたら7歳程度)の私だけしか配置されていない。


何故か?

それは私達がこの里の 『()()』 だから。


ここは私達の家であり、格子のない牢獄。

正直産まれたときからここにいる私にとってはこちらに軽蔑の目を向ける奴ばかりの里より幾分も住みよいと思う。

結界から出て薬草採取をしつつ、近づいてきた獣を狩っていく。

「今夜は香草焼きにしよう」

2匹目の猪の魔獣を倒しながら今日の献立を決める。

師匠の意向で私達が狩ったものは獣だろうが魔獣だろうが基本的に食す。

魔獣は灰汁が強くあまり美味しくないため里の人間は食べない。

まぁ、私が手を出したものは普通の獣だろうがいらないのだろうけど。

臭み消しの香草もついでに摘んでおくか。


ドンッ


鈍い痛みが背中にはしる。

石が投げられたたのだろう。

視線を向ければ私より少し年上の子供達が数人結界の中からこちらを見てクスクスと笑っている。

正直言えばいることには最初から気付いていたし避けて反撃も出来た。

それでも彼らの悪戯を受け入れたのはその方が楽だから。

反撃してもしも彼らに怪我させたら師匠へ迷惑をかけてしまう。

どうせ結界内から石を投げる程度しかできないんだから放っておこう。

私は、無視して作業を続ける。

それが気に障ったのかぎゃあぎゃあと騒ぎ出す。

チッ

小さな舌打ちをこぼす。


「バケモノ~」

「無視してんじゃないわよ」

「おらっ!また当ててやる」

ケラケラと笑いながら少し離れた場所にいる少女へ石を投げる。

彼らはエルフの里の子供達。

全員が百数十歳だがエルフの成人は200歳。

体格はそれなりに良いが今だ成人前の彼らは、里では守られる存在であり、日々勉強や遊ぶだけの生活で結界の外へ行くことも禁止されていた。

とにかく退屈な彼らの興味の矛先は里の外れに隔離されている少女。

里で宝とされる子供であるのに産まれたときから同じく隔離されている薬師のメイラに捨てるように預けられた少女は彼らにとって分かりやすい標的だ。

70歳とはいえ平均より小柄な体格となによりエルフにはありえない銀髪と黒い瞳。

エルフは、濃さに差はあれど金髪と翡翠の瞳そして長い耳をもつ一族だ。

それは精霊に愛されし一族としての誇り。

稀に他種族と交わったことにより産まれるハーフエルフは耳がやや短く産まれるが色合いに違いはないとされている。

しかも少女が産まれた直後は目が虹色に輝いていたそうだ。

それは数刻もすれば黒い瞳になったそうだがバケモノと恐れるには充分だった。



「チッ、反応なくてつまらないな」

子供達の一人の少年は先程まで少女を馬鹿にしていたが反応のなさに飽きてしまった。

「そろそろ帰らないと忌み子に近づいたの大人にバレちゃうわ」

同じく飽きた最年長の少女は子供らに帰宅を促した。

本来里の子供は、大事にされ結界に近づく事も隔離されているはぐれ者達に関わることも禁止されている。

まあ、後者は大人であっても好んで行う者はいないが。

つまり今の状況が見つかれば大人達から叱られるに違いない。

子供達はそろそろ帰るかと里の方へと足を向ける。

が、その時彼らへ蛇の魔獣が襲いかかった。

そりゃそうだ彼らは結界の中にいるという過信から大声を出して騒いだ。

結界はほとんどの侵入を許さない。そう()()()()

大人達に習っていたはずだが忘れていたのかそれとも少女への悪意に気をとられすぎたのか。気付いたときには目の前に蛇の大きく開いた口が迫ったいた。

ドスッ

悲鳴すらあげる暇もなく蛇が迫った瞬間、蛇の頭上から刃が落ち、その口を閉じさせるように貫き、剣が地面に突き刺さる。

子供らはその場に尻餅をつくように倒れた。

わずかな間を置いて襲われた事実に悲鳴をあげ、里へと逃げていく。

その背を見送りながら少女は小さなため息をつき、先程投げた剣を拾いに蛇の元へいく。

頭を貫かれ身動きは封じられていたがバタバタとまだ動いていた。

「こいつは骨が多いのに」

剣を抜く前にとどめを刺す。

先程の猪とあわせると二人だけでは到底食べきれない量なのでおそらく傷みの早い蛇を今日食べて、猪は保存食に加工することになる。

保存食にするのはまぁまぁな手間。

それなのに味はさらに微妙に。

ようするに割に合わないのだ。

そのため少女は消費できる数しか基本的には狩らない。

知能の高い魔獣は結界には近づかないためそれでも十分な間引きとなる。

それが子供らのせいで余分に仕留めざる得なかった。

騒ぎ出した時点で嫌な予感がしたが注意したところで逆効果なのは目に見えている。

そのため少女は無視するしかなかった。

さっさと飽きて帰れと内心思っていたが嫌な予感は的中し、魔獣に襲われてしまった。

いや、正確には襲われる前に私が脳天突きしたが。

やれやれとため息をつきながら魔獣を抱え、少女は帰路につく。



「なんだい、今日はえらく仕留めてきたね」

家に着き、庭で解体していると調剤が終わった師匠が見に来た。

私は解体しつつ今日あった事を話す。

最後は師匠は眉間に手をあてていたが私に怪我はないか確認すると「次は見つかる前に隠れな」と言ってガシガシと私の頭を撫でた。

その後師匠も保存食作りを手伝ってくれたので思ったより早く済んだ。

夕食を食べ、日が暮れるとともに就寝する。

眠りにつくと同時に私の意識は身体から離れる。

ベットには私が寝ている。

それを空に浮かぶ私の精神体が眺めている状況。

私が初めてコレをしたのは産まれて間もなくだった。

周りがギャアギャアとうるさいなと思ったら出来た。

自分以外からしたら身体はただ寝ているだけに見え、意識だけとはいえ好きに動き回れる。

誰に教えられた訳でもないのに本能的に理解できた。

私を抱えて騒いでいるのは私の母の父?なるほど祖父というものか。

産まれたばかりで耳に入るただの音が数分聞けば言葉として理解できた。

銀髪の虹色の瞳の自分は母親すらバケモノと気を失う異質さ。

隣の赤子含め皆が金髪、翡翠の瞳だったのでそれが基準なのだろう。

けれど見た目以上に産まれてすぐそれを理解できる事が何よりおかしいのではないだろうか。大人達はアレやコレやと言い合っていた。

忌み子なら森に還すべきではないのか。

それでも子供なら育てるべきなのでは。

つまりは産まれてすぐに生死を論じられた。

もちろん死にたくない。けれど意識はあれど赤子に出来ることはない。

いっそ死ぬなら色んなものを見てやろうと自分の身体から離れ、小屋から飛び出した。

小屋の外にはたくさんの人間がいた。

その中を駆け抜け空へと浮かぶ。

初めて見た世界だが何故か懐かしい?という感情なのだろうか。何か感じる。

『おかえり』

声がした。誰にも見えてないはずなのに。

振り向くとそこには虹の輝きを放つ大樹があった。

いや、本当は光ってないのか?神々しい見た目ではあるが虹の輝きは目をこらさないと見えない。

先程の私の髪の色と同じだ。

『私達は形は違えど同じ存在だから当然ですよ』

ん?まさかこの声の主は。

『はい、貴方の目の前の精霊樹です』

喋ってないのに私の声が聞こえるの?

『精神体の時に限りますが聞こえていますよ』

まだ喋れもしない私にとってこんなに都合の良いことはなかった。

私は時間の許す限り精霊樹に様々な質問を投げかけた。


『おや?そろそろ身体に戻った方が良い』

確かに大人達の話し合いが終わった様だ。

ならば一度身体に戻るか。

『私は常に貴方とともに在ります』

安心してというように精霊樹は光る。

ありがとう。またね。


身体に戻ると祖父に抱きかかえられ先程の産婆、小屋にいなかった男が二人が連れてどこかへ向かっている。

里の灯りを背に向けて暗い方へ向かっている。

これは森に還される事に決定したのか。つまりは殺される。

産まれたばかりで生への執着というもの自体がまだ分からないが先程、精霊樹へまたねと言ってしまった。

だから死にたくはないな。

けれどどうすることも出来ずに私は運ばれていく。

予想外に私が運ばれて行った先は小さな家だった。

里から明らかに離されて造られたその家に住んでいたのが後に私の師匠となるメイラさんだった。

ドンドン

祖父が扉を叩いた。

少し待ち扉が開くと一人の女性が出てきた。

「こんな時間になんだ?」

見た目に似合わないぶっきらぼうな言葉遣い。

いや、夜にいきなり尋ねられたらこういうものなのか?

「メイラ、この赤子は忌み子としてお前が育てろ」

私がメイラと呼ばれる女性に渡された。

「はぁ!?」

彼女はとても驚いていたが雑に渡された私を抱きしめるその腕はとても優しかった。

その後少し言い合っていたが彼女は断れる立場では恐らくないのだろう。

しぶしぶ受け入れていた。

その後私達を残し、祖父・・・いや、里長達は帰って行った。

彼は去る前にメイラさんに「その赤子に名をつけることを禁じる。忌み子として里のためにのみ生きるように教育し、危険と感じれば処分しろ」と伝えていた。

確か精霊樹の話では、エルフの名前は母親から文字をとり名付けられるのが慣例らしい。

しかし私を産んだ母は私を受け入れることなど到底出来ない。

それに名を分け与えるのは一族との繋がりを意識することにもなるため忌み子の私にそれが出来るのを嫌ったのだろう。

そんなもの意味などないというのに。



「ほら、しっかり食べな」

「あぁううう」

ぶっきらぼうな態度は彼女の素なのだろう。

けれどその言葉とは裏腹に優しく育ててくれた。

ただ時折悲しそうに私を見ていた。

同情かなと思ったがそうではないようだ。私を通して誰かを見ている。

それは精霊樹が教えてくれた。

メイラさんと暮らしてからも夜には精神体となって精霊樹へと会いに行っていた。

今の私の言葉が分かるのは精霊樹だけだしね。

しかし聞いて後悔した。

勝手に知って良い事じゃないと私でも分かった。

里の薬師で重要な存在のメイラさんがここに隔離されている理由でもあった。

彼女はかつてこの里から出ていった。

それは薬草を森で探しているときに出会った人間の男に恋をしてしまったから。

しかも外で子を成してしまった。

エルフの尊んでいる純血への冒涜。禁忌に等しい行為。

それでも彼女は愛する家族との生活は幸せだった。

しかし刻は残酷に等しく彼女に降りかかる。

エルフの寿命は約1000年。彼女が男と出会ったのは250歳の時だった。

成人済みとはいえまだ若輩。だから想いのままに行動したのだろう。

娘が産まれたのがその3年後。

ハーフエルフは見た目はエルフとほとんど同じだが耳がやや短い。

しかしそれは大した問題でなく、寿命はエルフの四分の一。

その分成長は、エルフより早いが血が薄まったせいか精霊を感じれず人間に近かった。

夫は、50年ほどで亡くなった。

皺くちゃの老人を看取る今だ若々しい妻と娘。

最初から分かっていたことだ。

それでも流れる刻の違いは彼女にとって辛いものだった。

しかし悲しむ暇もなく娘が亡くなった。

人さらいにあったのだ。

エルフは閉鎖的で里の外にほとんど出ることはない。

老いず、美しい彼らは一部の人間にとっては喉から手が出るほど欲しい装飾品。

しかし精霊に愛され魔法に秀でたエルフを捕獲するのは容易いことではない。

結界の張られた里のエルフにいたっては不可能に近い。

メイラさんも何度も襲われたがその度にやり返し、娘が産まれてからは認識阻害の魔法で居場所ごと隠していた。

それからは平穏な日々を過ごしていた。

しかし彼女が夫の死によって僅かに魔法が緩んだ。

その僅かなときを獣は狙っていた。

エルフに近い見た目なのに魔法はほとんど使えない都合のいい餌を。

彼女は、すぐに助けに向かった。

自分の力ならすぐに助けれるはずだった。

けれど彼女は人間という生き物を甘く見ていた。いや、正確にはその悪意と進化を。

金の卵を目の前にその欲望の為に彼らは進化した。

長くを生きるためエルフは変化を起こさない。

エルフの禁忌を行ったメイラさんも根本的にはそうなのだ。

まさか人間がエルフの魔法の対抗するための魔術を生み出すとは思わなかった。

娘の痕跡を巧妙に散らせてその隙に姿をくらませた。

ハーフエルフで精霊を感じれない為、精霊を通じて場所を特定することも出来なかった。

数年かけて必死に探し出した場所は貴族の屋敷。

囚われていた娘は好き放題され、かつての面影もないほどやつれ、無数の傷を負っていた。

娘は母に気付いたのか、その意識さえなかったのか分からないが「ころして」とこぼした。

そこから彼女の記憶はなく。

娘の亡骸を抱え、里の外れで娘を弔わせてほしいと里長に願い出た。

エルフの遺体は死んでも価値がある。

自分が好きにされるのは耐えられてもこれ以上娘を穢されるなんて彼女は耐えれなかった。

里の結界の中で確実に娘を守りたかった。

人間というものから離れたかった気持ちもあった。

当然反対の声が多く。

禁忌を犯し、あろう事か穢れた娘を連れ出戻ってきた者など受け入れられないと。

けれどそれを覆したのは彼女が話した魔術という存在。

里でも有数の魔法の使い手だった彼女を部分的とはいえ上回った。

短命種と侮った人間がその欲望を糧に確実にこちらに迫る。

結界の強化と魔獣の間引き、薬師として里への隷属にも近い契約で里への帰還を許された。もちろん里からは隔離された外れに。

娘と仕方なかったとはいえ外に置いてきた夫を想いながら彼女はここで数百年過ごした。

里の者から蔑まれようと孤独な生活も傷つききった彼女にとっては都合が良かった。

彼女は、人間と生きることを選んだばかりに娘が苦しんだのだと思い。

自分自身を罰したかった。

そんな彼女の元に私が渡された。




娘を重ねてないと言えば嘘になる。

里長に渡された忌み子は確かに私達にない色合い。

けれど抱きしめたこの子は暖かく、娘を思い出す。

名はつけてはいけない。

いざとなったら私が手にかけなければいけない。

分かってる。

気持ちを割けば後悔すると。

だから一定の距離を置きながら暮らした。

ある程度過ごすとこの子の異質さは見た目だけでないと気付いた。

一聞いて十を知るどころか百も千もと言っても過言じゃなかった。

頭が良いで片付けて良いのか教えてないことも何故か知っている。

隠してはいるがすでに私の力などとうに超えている。

唯一の悩みは身体の成長が遅いというところくらいだ。

70歳の子供だがかなり小柄。

ただそれを補って有り余る身体能力に魔法の力。

本来ならこうなる前に始末しなければいけなかった。

里の者にバレれば私もタダでは済まない。

けれど頭の良さに気付いたときから私の気持ちは決まっていた。

私の知識も技術も全て注ぎ込み、誰にも縛られず好きに生きれば良いと。

そんな私の勝手な気持ちに気付いているだろうにあの子は目立たず今だ私とともにいる。

私の寿命はあと三百年程度。

私が老いれば里の者が彼女をどう扱うか分からない。

けれどその頃には彼女をどうすることも出来ないだろう。

せめて私とともにいるこのときを少しでも幸せと感じてくれていたらと願うばかり。

私と違って彼女にはなんの罪がないのだから。



「師匠、今までありがとうございました」

メイラさんが数日前から床から起き上がれなくなった。

意識はあるようだがうつらうつらとしている。

恐らく寿命だろう。

彼女と過ごして約400年ちかくなる。

私も成人した。

今だ身体は子供みたいに小柄だけど理由は分かってる。

師匠も途中でおかしさに気付いていたと思うが彼女は何も言わなかった。

産まれてすぐ母に捨てられた私を押しつけられたとはいえ育ててくれた師匠。

ぶっきらぼうで分かりにくかったが彼女は優しかった。

生きるための技術や知識。外の世界のこと。

私が一人になったとき困らない様に教えてくれた。

持ちうる自分自身の全てを教えてくれたのだ。

「・・・私はハイエルフです」

ならば私も最後に自分がなんなのか伝えたい。

文献にも残ってないから理解は出来ないかもしれないがそれでも。

部屋がシンと静まり、師匠の息づかいだけが響く。

「えっ?」

横になっていた師匠がかつての面影ない弱々しい腕をのばし、頭を撫でてくれた。

もう力もほとんど入らないのだろう。

かつてのようにガシガシとも出来ず、軽く添う程度だが。

そんなの関係ないと言うように。

「...の.....は.......メ.......だ.....」

「師匠?」

何か伝えたいのかと彼女の口元へと耳を持っていく。

『お前の名はメルーだ』

「・・・ありがとう・・・おかあさん」

その後彼女は眠るようになくなった。

遺体は彼女の娘の横に埋葬する。

「メルーか」

実母から名をつけられず、祖父から名をつけることを禁じられていた名前。

『メイラ』から『メルー』か。

確か亡くなった娘の名は『メラー』。

「まんま過ぎるでしょう」

小さく笑って生まれて初めて涙がこぼれた。

家を掃除するとだいぶ前から悩んでいたのだろう候補をあげたらしい紙くずが彼女の部屋の隠してあった箱の中に何枚もあった。



里を出る日私達の外れの家と精霊樹だけに結界をはる。

これはほとんどではなく私以外の全てを拒む完全保護の結界。

私の家族は守らなければならない。

それ以外はしらないけれど。


産まれたあの日精霊樹から聞いたのは『ハイエルフ』という存在。

エルフの上位互換というかエルフという種族の進化を決定するα体。

種族が進化する節目に誕生し、精霊樹の分身として全ての精霊の加護を受け虹の瞳を持つとされる。

5000年の寿命をもち、ハイエルフの誕生以降は彼女の血族と加護を受けている者以外は徐々に衰退する。

つまり私がこれからどうするかでエルフという種族の未来が決まるのだ。

現代のエルフにハイエルフという存在は忘れられている。

故意的なのか偶然なのかは分からないが本来なら伝えるべき伝承は消え、私の存在を異質としてしまった。

母の名の一部を子に授け、一族との繋がりというのも元はハイエルフとの繋がりをだっただろうに。

すでに里の衰退は始まっていた。

子の産まれる頻度がさらに減り、寿命を迎えず病で亡くなる者も増えた。

これは師匠がある程度食い止めていたがこれからさらに加速するだろう。

すでに私の祖父は亡くなり、実母も出産後に気をおかしくして亡くなっている。

里の異変には気付いているだろうが原因には辿り着けないだろう。

私に何かしようとしてもその頃には私は里にいないし、引きこもりの里のものたちに私は追えない。

復讐などする気はない。

いや、師匠・・・おかあさんの娘、つまり私の姉を殺した者を・・・もう亡くなっているか。

とりあえず世界を見てまわろう。

師匠の言っていた魔術も気になるし、うまいものも食べてみたい。

たまには家に帰って精霊樹と話をしよう。

里が滅びようと私の結界のはられた場所は無事なのだから。


『いってらっしゃい』


私の背を精霊樹が見送ってくれる。


「いってきます!」


私はメルーとしての人生をはじめた。

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― 新着の感想 ―
こういう一人旅、大好きです。 帰る家があり、寿命関係ない話し相手も居て。世界漫遊するっきゃないすねー。 色んな人の物語にチョイ役で関わったり時には追いかけられて引きこもったり、約4600年の時を過ごす…
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