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『刻を超えた握手』 ~末裔たちの宝探し、僕らの先祖は盗賊と処刑人~  作者: 徳崎 文音


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第二話 ルイ・ヴェルリーナ

 この数か月弟が進路に悩んでいるのは気付いていた。俺としては優秀な弟が店を継ぎたいと言えば、俺が補佐役に回る事だって構わないと思っていたし、そういう意味で「好きにすれば良い」と伝えていた。もちろん親父も同じ気持ちだった。だが、弟の中では俺が店を継いで弟が出ていく事だけは決まっていたそうだ。変な所で頭の硬い弟に呆れてしまう。


 この数か月難しい顔をしていた弟が機嫌よく帰って来た。母さんは弟の笑顔に浮かれながら買い物に出て行った。今日の夕食は期待できそうだ。母さんの料理は機嫌が味に直結するからな。帰ってきた親父も食卓を見て母さんの機嫌を察して嬉しそうだ。

 そんな和やかな夕食の席で弟は意味不明な発言で家族に沈黙を落とした。


「兄さん、あの箱を俺に譲ってくれない?」


「箱?なんの事だ?」


「ほら、子供の頃に父さんが見せてくれた、ご先祖代々の箱。海賊の財宝の隠し場所の地図と暗号が入ってたやつ。俺、学園を卒業したらトレジャーハンターになろうと思うんだよね」


 家族全員が絶句し動きを止めた。目の端で父さんのフォークからカボチャが落ちるのが見えた。ボトっとテーブルとカボチャがぶつかる音で父さんと俺は気を取り戻した。


「お前、まさかとは思うが、アレを信じるのか?我が国に海賊の記録なんてないのに?」


「うちの国にはないけど、ウヴァーラ帝国には有るんだって。今日たまたま図書室で留学生の子と出会って、教えてもらったんだよ。彼の国では大盗賊の財宝伝説があって、トレジャーハンターって人たちが探索をしているらしい」


 機嫌良さげにニコニコと話す弟に驚いた俺と親父は顔を見合わせた。そして親父の向こう側にプルプルと肩を震わせる母さんが俺の視界に入った。カツンとカボチャを突き刺して、キッと顔を上げた母さんがレオを真正面から見つめ、いや睨んだ。その勢いと迫力に俺は気圧されて息が止まりそうになった。


「レオ、その暗号をあなた解けるっていうの?」


「多分解ける。まぁ解けてもそれだけでは終わらない気はするけど」


 母さんの問にも弟はニコニコと答えていたが、この時になって俺は思い出した。初めてあの箱を開いた日、暗号を見た弟が宝探しに行くと行って出かけて拐われかけたんだった。弟はなぜ忘れて、いや俺も今までどうして忘れていたのだろう?それと弟が言う、それだけでは終わらないとはどういう事だ?


「レオ、本当に読めるのならトレジャーハンターになっても構わないが、表向きの、ちゃんとした金を稼げる仕事も必要だ。解るね?その事も十分に考えて卒業までに計画を立てなさい。まずは、その暗号解読を見せてくれるか?」


 トレジャーハンターになる条件が安定した収入を両立させる事だと言った親父は実に親父らしい。俺と同じように気が動転していると思ったが、冷静だった様だ。いや、もしかしたら親父もあの暗号と地図に夢を見た事が有ったのかもしれない。


「分かりました。その話は食後にゆっくりしましょう」


 いつもより少し声の低い母さんの一言でその後は静かな夕食になった。

 夕食後、俺が片付けをした。少しでも母さんの機嫌を直してもらわないと明日の食事が危険すぎる。この後の話次第では明日の朝食の準備も俺がしよう。片付けをしながら、ポットにテインの葉を入れて湯を注ぐ。香りが立つと同時に水色が青くなっていく。四つのカップと粉っぽいにおいの湯気が上がるポットを持ってリビングに入った。


 俺が入ると両親とレオは例の暗号文を囲んで睨んでいた。ポットからカップにテインのお茶を注ぐ。晴れた日の昼空より濃く夜空より薄い色合いの青がカップの中で揺れる。カップの中の水色と弟の瞳を見比べると、ほぼ同じ色だ。今日は上手く淹れれた。

 カップを配ってから、テーブルに広げられた記号の羅列された布が二枚と羊皮紙の地図が一枚を改めて見つめた。地図はいびつな形をしていて、破れて欠けている様に見える。布の方は俺の目には相変わらず記号の羅列にしか見えなかったが、弟の目にはそれが呪文と設計図に読める様だ。


「やっぱりそうだ。古代魔術の魔術言語で書かれてる。それとこの地図はわざとちぎったんだろうね。多分地図の千切り取られているどちらかに行って、この魔術を発動する事で隠匿の魔法が解除される。けど、魔術の発動には道具が必要でその設計図がこれか。あぁ、知らない素材名だらけだ……」


 最初は説明していた弟の声がだんだんと小さく独り言のようになっていく。所構わず自分の世界に没頭していく弟の悪い癖が出た。俺は一口お茶を飲んで、息を深く吐く。テインには鎮静作用があって、商会では薬草として取り扱っている。テインのお陰で少し冷静になると弟の言葉に疑問が沸く。


 古代魔術ってなんだ?魔法は便利だから日常的に使っている。だけど隠匿の魔術なんて知らな……いや、それはもしかして禁術というやつではないのか?魔法が発展しすぎて戦争が苛烈になった時代に禁じられた物では?


「レオ?あなたまさか、禁術に手を出しているの?」


 母さんも俺と同じ考えに辿り着いたらしい。親父は言われてからハッとした顔をしていたけれど。まぁ親父は金にしか興味のないタイプだから仕方ない。

 母さんの静かな問いかけは、思考に没頭した弟に届かない。俺が頭を掴んで、ぐわんぐわんと揺らしてこちらに気を向けてからもう一度聞いた。


「禁術ではないと思う。図書館の閲覧できる本で調べれる範囲の事だし。あぁでも読み解くのはかなり苦労したから、もしかしたら禁術と気付かれずに公開されてる可能性もあるのか。うん。禁術かどうか確かめてみる。もしこれが禁術なら諦めるよ」


 母さんはホッとした様な顔をしているけど、弟のこの口調は自分の思う方向に物事を進める自信がある時の物だ。母さんはなんで分からないんだろう。お陰で明日の朝食の心配はなくなったけど。


 一月後、弟は魔法協会から表彰された。古代魔術を解明し生活に便利な魔法を発明の上、誰しもが使える道具に仕上げたそうだ。その道具の特許料で安定収入って、親父の出した条件までクリアした。弟は優秀なんじゃなくて天才だったらしい。

 その日の夕食の席では両親が泣き笑いで弟の表彰を褒めながらも呆れ嘆いていた。その夜弟は俺の部屋にやってきた。嫌な予感しかしない。


「兄さん、俺に馬車の運転を教えてくれない?」


「うん?もしや、お前財宝探索に馬車で行くのか?」


「うん。荷馬車で色々積んで行商でもしながら行こうかと思ってさ。担いで行っても良いけどもしかしたら行った先ですごく大きな物を取引するかもしれないでしょう?」


「あぁ、なるほど。レオの言いたい事は判ったけど、なんで俺に言う?父さんに習えば良いじゃないか?」


「うーん。そこは気分?もう何年も兄さんに構って貰ってないし、最近、兄さん冷たくてちょっと寂しいし?」


 軽く俯いた角度から上目遣いに悲し気な表情を作って俺を見上げた。青い瞳を軽く潤ませて、瞬きを繰り返す整った顔を数秒睨んで諦めた。クソ。この天才な弟は自分の顔の使い方もよく分かってやがる。そんな顔で頼まれて断れるわけないだろう。


 それから約半年、俺は仕入れにレオを連れ回した。馬車の運転を教えるつもりが、気が付けば仕入れの交渉とか、品物の査定のポイントなんかも聞かれるままに教えていた。


 あの日から一年も経たないうちに、弟は準備を整えて旅立ちの日を迎えた。


 荷馬車の馭者席に座り手綱を握る弟レオの表情は今まで見た中で一番晴れやかで、楽しげなものだ。透き通る様な青い瞳もいつも以上に輝いている。儚げな印象を与える薄い色素と華奢な体つき。小さな頭にシャープな顎先の輪郭に目鼻口が整然と配置されて弟ながら美しいと惚れ惚れする。

 普段の何を考えているか分からない無表情でも惚れ惚れする美しさなのに、あんな晴れやかな笑顔なら魅力が倍増して見える。まぁ俺はこの数ヶ月であのキラキラ笑顔にも慣れたけどな。


 そして一緒に暮らしていたのに、あの笑顔に慣れてない両親。なぜこうなったんだろうという思いが隣に立つ親父からは滲み、母さんは寂しさでいつまでも弟から離れられずにいる。いや、帰って来る約束をしているじゃないか!そんな今生の別れみたいに大げさな。


「母さん、そう泣かないで下さい。一年後には顔を見せに来る予定でいますから」


 両親に困り果てた弟が珍しく口をへの字に曲げて俺を見つめている。珍しい表情も見れたし助け舟を出してやろう。


「いつまでも大通りで立ち往生していては迷惑ですよ。いい加減子離れしてください」


 俺が声を掛けると父が弟と同じ様に口をへの字に曲げた表情を向けてきた。弟は可愛いけど親父がその顔すると、おっかなく見えるから勘弁して欲しい。四角い顎にツリ目のオッサンだって自覚はないのか。


 俺がそっと母の肩を抱いて道の端まで下がると、弟は軽く手を振って荷馬車を発進させた。砂埃の向こうに小さくなっていく弟の姿を見ながら、昨年の晩夏の食卓を思い出した。そう言えば母さんはあの時からずっと弟の旅立ちに反対していたんだったか。

 そりゃそうか。弟は、顔も能力も両親の良いとこ取りだもんな。母さんの可愛らしい輪郭と口に父さんの凛々しい目元。頭脳は母さん似で身体能力は父さん似。そら俺より弟に家に残って欲しいわな。


「ルイ?貴方もわたくしの可愛い息子ですよ。レオだからこんなに寂しがっているなんて事はありませんからね」


 母さんは、人の心でも読めるのかな?あー迂闊にも俺がそんな表情をしていたのか。普段は激情家でちょっと短気な母さんに冷静に見られていたのか。帰ったら母さんと一緒にテイン茶を淹れて飲もう。レオの瞳と同じ色のお茶を飲んで落ち着かないとな。


「子供じゃないんだから、そんな事で拗ねたりしないんで、どうぞお気遣いなく」


 不愛想に答えながら、俺は小さくなっていく荷馬車を見つめ続けた。まぁ、本音を言えば、優秀な弟に家を任せて俺が財宝探しに行きたかったな。


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