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貧乏勇者、金の賢者に出会う  作者: やしゅまる


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第9話「第二の教え ― “お金の流れ”を読め」

スライム牧場ができ始め、アレンは胸を高鳴らせながらギルドに入った。腕にはスライム素材の袋、背中には淡い期待。


「リリア! 見てくれ、初の……」


 受付カウンターの向こうで、リリアが険しい顔をしていた。


「アレン……今日のスライムの買い取り、値段下がってるわよ」


「え?」


 差し出された帳簿を覗くと、確かに数字がいつもより低い。


 アレンは思わず叫んだ。


「なんでだ!? 俺、ちゃんと育てたのに!」


「王都で“スライム素材の大量投げ売り”が起きてるらしいの。量が増えすぎて、相場が落ちてるのよ」


 アレンは呆然とした。


(せっかく管理も慣れて、品質も安定してきたのに……!)


 すると背後から、杖をついたバルドルがゆっくり近づいてきた。


「第二の教えじゃ、アレン。“お金の流れを読め”。市場を知らずに素材を持ち込むのは、嵐の中へ舟を出すようなものよ」


「……俺、嵐の中へ……舟?」


「そうじゃ」


 アレンは頭を抱えた。



 ほどなくして、噂の“投げ売りの犯人”が誰かも浮上した。


「ドランが大量にスライム素材を納めたらしいわよ」とリリアが言った。


 アレンはそのままギルド裏の訓練場へ向かった。


「ドラン!」


 振り返ったドランが、にやりと凶悪な笑みを浮かべる。


「ああ? 貧乏勇者が何の用だよ」


「なんであんなに大量に素材を……!」


「テメェに説明する義務はねぇよ。オレ様の縄張りにスライムが増えすぎただけだ」


 アレンは言葉を失った。だがバルドルは肩をすくめる。


「増えすぎたら値段が落ちる。落ちたらさらに狩らねば赤字。だが狩ればもっと供給が増えてさらに値が落ちる……」


「……悪循環だ!」


「そうじゃ。市場の流れを読めぬ者は、自らの稼ぎ場を壊す」


 ドランは聞き捨てならぬとばかりにバルドルをにらんだ。


「うるせぇジジイ! 売り方はオレの勝手だろ!」


 虚勢を張る声が震えていたのを、アレンは見逃さなかった。



 翌日。アレンはバルドルに連れられ“市場調査”なる冒険に出た。


 商人街。薬師通り。鍛冶工房。農家。


 様々な人から話を聞くたび、アレンの表情は変わっていく。


「最近のスライム素材? 安いけど質が悪くてねぇ」と薬師。


「低品質品が多すぎて、加工効率が落ちてるんだよ」と錬金術ギルド。


「むしろ上質なスライムコアが不足してる」と老魔導士。


 アレンは息を呑んだ。


(需要があるのは……安物じゃない!

 “ちゃんと魔力が整った、良いスライム素材”だ!)


 自分の牧場のスライムは、餌も運動もきっちり管理している。自然と魔力密度が高い。


(だったら……俺の素材は“強み”になるじゃないか!)



「用途を考えよ」とバルドルは告げた。


 アレンは考えに考え、錬金術街の奥にある古びた店へ入った。


「失礼しま──」


 カウンター奥にいた老人が、アレンの持つスライム粘液を一目で凝視した。


「おい……その粘液、触ってもいいか?」


「は、はい!」


 老人は慎重に粘液をすくい、指で弾く。


 ぷるん、と静かに光った。


「……密度が段違いだ。こんな素材、いつ以来だろうな」


 そして──


「ギルドの買い取り額の三倍で買おう」


「さ、三倍!?」


「品質が良ければ高くて当然だ。安く買って安く売るだけが商売じゃない」


 アレンは震えた。


(俺は……ただ“売り方”を知らなかっただけなんだ……!)



 ギルドに戻ると、リリアが駆け寄る。


「アレン! さっきの錬金術師から大量注文が入ったわよ!」


「た、大量!?」


「高品質の粘液と、魔力の濃いスライムコア。それに鍛冶用の研磨粒まで全部まとめて、定期契約したいって!」


 アレンの脳がぐるぐるし始める。


(これが……市場を読んだ結果……!

 俺のスライムが、価値を生んだ……!)


「よくやったな、アレン」


 バルドルが静かに微笑む。


「おまえは今……“お金に働かせる勇者”への第一歩を踏み出したのじゃ」


 アレンは胸を熱くした。



 しかし──その光景を、ギルド隅の影で誰かが見ていた。


 ドランである。


 ぎり、と奥歯が軋む。


「……チッ。調子に乗りやがって」


 その目はまるで、狩り場を奪われた獣のようだった。


 アレンはまだ気づいていない。


 ここから先、スライム市場を巡る

“冒険者 vs 勇者(自称)”の経済バトル

が始まることを──。


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