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貧乏勇者、金の賢者に出会う  作者: やしゅまる


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第7話 『初めての売上』

「よし……今日こそ仕上げだ!」


 アレンはスライム小屋の前で拳を握りしめた。

 最初の一匹──あの“瀕死寸前だったスライム”は、今では元気にぷるぷる跳ね回っている。


 そして今日ついに、そのスライムが商品になる日が来た。


「ほら、今日は掃除訓練ね。角の埃、ちゃんと取るのよ!」


 リリアが箒を片手に指示すると、スライムは嬉しそうに「ぷるん!」と鳴いた。

 そして壁に飛びつき、吸盤のように張り付きながら、するすると汚れを落としていく。


「すごい……! 本当に“掃除特化スライム”ができたんだ!」


「まあ……アタシの訓練の賜物ね」


 リリアは鼻を鳴らしたが、頬はほんのり赤い。


 数日前まで資産扱いすらできていなかったアレンが、今はスライムの生態、餌、適切な温度や湿度まで把握している。


(これが……育てるってことなのか)


「さあアレン、商人ギルドに持っていきましょ。初めての査定よ」


「お、おう……!」


 緊張で手が震える。

 スライムが商品として売れるのか、値段はいくらなのか……未知の世界だ。



 商人ギルドは、冒険者ギルドとは違う緊張感が漂っていた。

 計画書を抱えた商人たち、金勘定に厳しい受付員……。


「アレン・フォード? 新人か?」


 査定窓口に座っていたのは、細い目をした初老の男。

 名札には“査定員・ゴードン”とある。


「は、はい! スライムを訓練して……掃除ができる個体です!」


「掃除スライムねぇ……新人がよく持ち込むやつだ。大抵は質が悪い」


 ゴードンは露骨にため息をついた。


(うっ……初見で舐められてる)


 アレンの喉が渇く。

 するとリリアが一歩前へ出た。


「まあ、いいから査定してもらいましょ。文句があるなら結果を見てからにしてね」


 ゴードンは眉をひそめつつ、スライムを見下ろした。


「ほう……見た目は悪くない。色艶もいい。吸着力は……」


 壁に張り付かせる。

 スライムは安定した動きで、するすると壁の汚れを落とした。


「ほう……悪くない。だがこれくらいなら──」


「まだ終わりじゃないぞ!」


 アレンは胸を張って叫んだ。


「スライム! 角掃除だ!」


「ぷるっ!」


 スライムは一瞬で柱の裏側へ滑り込み、埃を絡め取って戻ってくる。


 ゴードンの目が見開かれた。


「……これは……訓練された動きだ。こんな精度は普通出ないぞ」


 次に、机の裏のゴミ、床の細かい砂粒、窓枠の汚れまで確認される。


 すべて完璧。


 査定員の顔色が変わった。


「ま、待て……! この吸着力、動き、判断……まさかここまでとは……!」


 ゴードンは震える手で書類を広げた。


「これほどの品質は……中級商家でも欲しがるレベルだ。値段は……」


 アレンの心臓が跳ねる。


(いくらなんだ……売れるのか……!?)


「……金貨三枚だ」


「き、金貨三枚!?」


 アレンの叫びがギルド中に響いた。


 リリアも目を丸くし、口をぱくぱくさせる。


「そ、そんなに……!?」


「新人のスライムでこの品質は異例だ。大量に作れるなら、正式ルートに乗せてもよい」


 ゴードンの視線が、アレンを初めて“商人として”見た。


「アレン・フォード。お前はスライム調教師として一流の素質がある。続けなさい」


「……っ……!」


 胸が熱くなった。


 毎日働いても赤字で、誰にも認められなかった。

 笑われ、馬鹿にされ、怪我ばかりして。


 でも今──


「……売れた……本当に、売れたんだ……!」


 アレンは拳を握りしめ、涙をこぼした。



 外に出ると、夕日が街を染めていた。


 バルドルがいつの間にか門の前で待っていた。


「どうだった?」


 アレンは金貨三枚を見せた。


「バルドル! 俺、売れた! 本当に……“金が働いた”んだ!」


 バルドルは静かに頷いた。


「忘れるな、アレン。

 いま得た金は、おまえの労働の結果ではない」


「え?」


「これは、“育てた資産”が働いてくれた金だ。

 その瞬間を覚えておけ。

 多くの者は一生、ここに辿りつけん」


 アレンの胸が熱くなる。

 スライム牧場が、人生を変えるかもしれない。


「アレン」


 リリアが横で肩を軽く叩いた。


「……よくやったじゃない」


 顔はそっぽを向いているが、耳が真っ赤だ。


「リリア……!」


「でも調子に乗らないでよ。次のスライムも同じ品質に育てなきゃ意味ないんだから」


「うん! もちろんだ!」



 アレンは金貨を握りしめ、夜空を見上げた。


(これが……俺の“最初の収入源”……)


 その小さな一歩が、未来への道を確かに開いた。


 スライム牧場は、ここから本格的に始まる。


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