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貧乏勇者、金の賢者に出会う  作者: やしゅまる


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第4話 『自分のビジネスを持て』

翌朝。

 アレンは、昨日教えられた“資産と負債”の二つの丸が頭から離れず、ベッドの上で転がり続けていた。


「資産は勝手に金を生む……

 負債は金を奪う……

 俺の装備は全部負債……

 ギルド依頼も負債……

 人生が負債……!」


「落ち着け、若造。朝からうるさいわい」


 勝手に窓から入ってきたバルドルが、パンをかじりながら言った。


「なんで俺の部屋にいるんだよ!?」


「弟子の監視も師匠の務めだ。ほれ、行くぞ」


 アレンが文句を言う暇もなく、バルドルは杖で床をつついて外へと促す。



 二人が向かったのは、王都外れの古い交易路だった。

 人通りは少ないが、周囲には低い草原が広がり、小さな魔物がちらほら顔を出す。


「ここで何するんだ?」


「お前に“最初の資産作り”を教える」


 バルドルは草原にしゃがみ込み、赤い果実のようなものを摘み上げた。


「これは“スラピの実”。小型スライムの好物だ」


「スライムかよ……俺、スライム狩りは得意だけど……金にはならないぞ?」


「だから狩るなと言っておる」


「……え? じゃあ、どうすんだよ?」


 バルドルはにやりと笑った。


「育てて売るのだ」


「……育てる!?」


 アレンは耳を疑った。


 スライムは弱くて価値がなく、冒険者の初歩訓練に使われるだけの存在だ。

 そんなものを“育てる”など、誰も考えたことがない。


「だってスライムなんて売れないだろ……?」


「無知め」


 バルドルは杖の先で地面を叩いた。


「スライムは家畜として使える。

 荷物の緩衝材、掃除、汚水の処理……用法はいくらでもある。

 だが、質のいいスライムは市場で高値になるのを知らんのか?」


「……初耳だ……!」


 バルドルは続けた。


「それに“訓練済みの小型スライム”は、商人ギルドが高く買う。

 飼育の手間が省けるからな」


 アレンの目がみるみる輝いていく。


「じゃあ……俺、スライムを買いたたく側じゃなくて……売る側になれるのか……?」


「そういうことだ。

 お前が狩るのは、素材ではない。

 “仕組み”を作るための最初の材料だ」



 バルドルは、草原に簡易の図を描いた。


『小型魔物牧場(スラピ小屋)』


・材料:木材少し、ロープ数本、餌となる果実

・必要人員:アレン1人

・維持費:ほぼゼロ

・売れる商品:訓練済みスライム(高値)


「これが、お前の最初の“ビジネス”だ」


「ビ、ビジネス……」


 アレンは喉が渇くほど興奮していた。


「でも……待てよ。

 小屋作るにも材料がいるし、餌も大量に必要だし……」


「そうだな」


「俺……お金ないぞ……?」


「知っとるわい!」


 バルドルが杖でアレンの頭を小突いた。


「資産作りには“最初の投資”が必要になる。

 だが、金がないなら──方法を変えればいい」


「方法を……?」


「そうだ。金がない者は、知恵で払うのだ」


 バルドルは指を鳴らした。

 すると近くの木の陰から、ある人物が現れた。


「やっほ、今日も赤字のアレン」


「リリア!? なんでここに!?」


「賢者様に呼ばれてね。

 あんたの“お金の冒険”に協力してほしいってさ」


「協力……って?」


 リリアはギルド帳簿をバサッと広げた。


「あなた、王都の冒険者の中で“素材仕分けの精度”が一番高いのよ。

 これ、昨日のギルド会議で話題になったから」


「え……俺が……?」


「問題は、本人がそれに気づいてないこと」


 バルドルが顎髭をさすりながら言った。


「お前の強みは“素材の見極め”。

 品質と鮮度を判断する目は、訓練すれば店主並だ」


 アレンは思わず拳を握る。


「……俺、そんな才能あったのか」


「才能など、探せばいくらでもある。

 問題は“金になる形に変えていない”だけだ」


 リリアがメモを取りながら口を挟む。


「で、アレン。

 材料の木材なんだけど……私の親戚が材木屋でね。

 余り物の端材なら、ただで譲ってもらえるよ」


「ま、マジで!?」


「その代わり、スライム牧場が軌道に乗ったら……

 ギルドに優先出荷してよ?」


「もちろんだ!」


 アレンの顔がぱあっと明るくなった。



 バルドルは満足げにうなずいた。


「これが“自分のビジネスを持つ”ということだ。

 誰かの仕組みに働かされるのではなく──

 自分の仕組みに他人と金を働かせる」


「仕組み……俺が作る……!」


「そうだ。明日から牧場作りを始めるぞ」


「よっしゃああああ! 

 貧乏生活から抜け出してやる!!」


 興奮で叫ぶアレンを見て、リリアが苦笑する。


「ほんと単純なんだから……」


「単純でいいのだ」

 バルドルは空を見上げた。


「行動する者にだけ、富は近づいてくる。

 ──若造、ここからが本番だぞ」


 アレンは深くうなずいた。


「もう戻らない。

 俺は……俺の“資産”を作るんだ!」


 こうして、貧乏勇者アレンの“最初のビジネス”が動き始めた。


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