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貧乏勇者、金の賢者に出会う  作者: やしゅまる


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第3話 『資産と負債の違い』

アレンは朝からずっと混乱していた。

 “金持ちはお金のために働かない”という昨日の教えが、脳みそのど真ん中でくるくる回っている。


「仕組み…学ぶ…金の流れ…。

 くそっ、考えるだけで頭痛ぇ……」


 ぼやくアレンの横を、バルドルは涼しげな顔で歩いていた。


「安心せい。今日はもっと頭が痛くなるぞ」


「やめてくれ!」


「はっはっは」


 バルドルは笑いながら、街の外れに向かって歩いていく。


「さて。今日は“資産と負債”を教える」


「しさん……ふさい……?」


「予習してなくても問題ない。そもそもお前は予習などしたことがないだろう?」


「ぐうの音も出ない!」



 しばらく歩くと、立派な石畳の道に出た。

 王都レギオンでも屈指の高級住宅街──“白金区”である。


 その中心に、やたら派手な屋敷がそびえていた。


 巨大な門。

 金の装飾。

 庭には意味不明な噴水が三つ。


「ここは、エリート騎士ローガンの家だ」


「ローガン!? 王国最強クラスの……?」


「ああ。給料も高いし地位もある。だが──」


 バルドルは門の隙間から屋敷の奥を指さした。


 そこではローガンが執事に怒鳴っていた。


「なんでまた税金が上がってる!?

 馬小屋の維持費も払えんぞ!

 新しい甲冑のローンも残ってるんだぞ!」


 アレンはぽかんとした。


「あいつ……めちゃくちゃ金持ちじゃなかったっけ……?」


「金持ち“に見える”だけだ。

 実態は、金が出ていく“負債まみれ”だ」


「ふ、負債……?」


 バルドルは手を上げ、指を一本ずつ折って見せた。


「この屋敷──毎月の維持費がデカい。

 庭師、執事、メイド……雇っている者も多い。

 馬も数頭飼っているし、鎧も最新式だ」


「でも……いい生活してるってことじゃ?」


「いい生活が“資産”とは限らん。

 見栄のために金が出ていくなら、それは負債だ」


 アレンの顔に浮かぶ “???” は消える様子がない。


「わかったような……わかってないような……」


「いい、次を見るとさらに分かりやすい」



 バルドルは白金区を抜け、今度は庶民街へ向かった。


 狭い路地、古びた木造建物。

 そこに一軒、小さな酒場があった。


 看板には『ミーナの酒場』とある。


 中の窓からは、朝だというのに客の笑い声が聞こえてくる。


 バルドルが戸を開けると、老婆ミーナが元気に声をあげた。


「おやっ、バルドルじゃないかい! 今日も飲んでくかい?」


「いや、今日はこいつを連れてきただけだ」


 ミーナはアレンを見て、ニコッと笑う。


「はじめまして。ミーナおばあちゃんよ」


「ど、どうも……」


 酒場は狭いが、どこか落ち着く空気があった。


 客がミーナに銅貨を渡し、勝手に酒をついで飲んでいる。


 それを見てアレンは首を傾げた。


「あれ……? ミーナさん、全然動いてなくない?」


「そうだ。儂の酒場は“勝手に稼いでくれる”」


 ミーナが笑うと、バルドルが補足する。


「ミーナの店には常連が多くてな。

 客が勝手に酒を注ぎ、勝手に金を置いていく。

 店主はたまに話し相手になれば十分」


「すげぇ……!」


「そして店はアレン、お前の収入とは違い──

 “働かずとも金が入る資産”なんだ」


 アレンはぽかんと口を開けた。


「資産って……働かなくてもいいのか……?」


「正確には、資産が働いてくれるのだ。

 店、家賃、畑、技術、知識、仕組み……

 これらは全部、“金を生む者”」


 バルドルはアレンの胸を指差す。


「逆に、お前の持っているのは何だ?」


「……ボロい剣と鎧……」


「それらは資産ではない。

 修理代を奪う“負債”だ」


 アレンは震えた。


 昨日の痛み、赤字の帳簿、リリアの怒った顔が一気に蘇る。


「……俺……負債しかない……!」


「気づいたか。

 資産と負債の違いが分からぬ者は、一生貧乏だ」


 バルドルは歩き出し、アレンもそれに続いた。



 酒場を出てすぐ、バルドルは振り返った。


「アレン。今日の教えだ」


 杖で地面に “二つの丸” を描く。


『資産』

『負債』


「資産とは、お前のポケットに金を入れるもの。

 負債とは、金を奪うものだ。」


 アレンはじっとその二つの丸を見つめた。


「……俺の人生、全部“負債側”にある……」


「そうだな」


「じゃあ……俺も資産を作れるのか?」


 バルドルは満足そうに目を細めた。


「作れる。

 だが、まず頭を変える必要がある。

 ──頭が変われば、行動が変わる」


「行動が変われば、人生が変わる……か」


「ようやく理解してきたな」


 アレンは拳を握った。


「やるよ、バルドル。

 負債生活なんて、もう嫌だ!」


 バルドルは笑った。


「では明日から、“最初の資産作り”に入るぞ」


「最初の……!?」


「そうだ。まずは、小さくてもいい。

 お前のポケットに金を入れる“仕組み”を作る」


 アレンの心臓が高鳴った。


 ──貧乏勇者アレンの反撃が、ついに始まる。

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