第19話(最終話) 『勇者の資産 ― 金では買えない価値』
黒牙商会本拠の崩れた倉庫。
瓦礫の山の中心で、アレンはゆっくりと目を開けた。
(……生きてる……?)
視界の奥、金色の魔力が渦巻く。
その中心で、大賢者バルドルとラグスが睨み合っていた。
「お前さえいなければぁぁ!!
俺の“搾取の仕組み”は永遠に回り続けたんだ!!」
ラグスの怒号が響く。
金の牙が光り、膨れ上がった筋肉がさらに肥大化する。
魔力を喰らった結果、もはや人の姿ではない。
“金を奪うことだけ”を繰り返し続けた怪物の成れの果てだった。
「愚かじゃな、ラグス。
奪うだけの仕組みは、いつか必ず破綻する。
価値を生まぬ者に、人はついてこん」
バルドルは静かに言う。
「黙れええええっ!!」
ラグスが地を踏み鳴らす。
地面が裂け、金色の魔力が噴火のように噴き上がる。
その力は、街一つを焼き払うほど。
「アレン!」
リリアが駆け寄る。
アレンはボロボロの体を引きずり、バルドルの背中を見つめた。
その時――バルドルが振り返った。
「最後の教えじゃ。
“お前が何者かを決めるのは、お金ではない。行動だ。”
アレン……お前の答えを見せてみよ」
その言葉が、胸の奥に火を灯した。
◆
アレンは立ち上がった。
「……僕は……逃げない。
守るんだ。
奪わせないための“仕組み”を……僕が作る!!」
スライムたちがアレンの周囲に集まり、
淡い光を放ち始めた。
「みんな……僕に力を貸して!!
“資産を守るネットワーク”を最大展開だ!!」
スライムたちが一斉に伸縮し、
粘液が金色の魔力に反応し、巨大な膜となり――
ラグスの暴走魔力を飲み込んだ。
「なっ……なんだこれはぁぁ!!??」
「これは僕たちの“資産”だ!!
仲間と積み上げた、仕組みだ!!
奪われるためじゃなく、守るために作ったんだ!!」
魔力が吸収され、ラグスの肉体が縮んでいく。
「こんな……搾取しねぇやり方が……
搾取特化の俺に勝つ……だと……!?」
ラグスは崩れ落ちた。
黒牙商会を支えていた
“奪うためだけのシステム”はその瞬間、完全に壊れた。
◆
戦いが終わると、アレンはその場に座り込んだ。
「ふぅ……終わったんだ……」
リリアが駆けつけて抱きしめる。
「アレン……ほんと、バカ……!
死ぬかと思ったんだから……!」
ドランは照れ隠しにそっぽを向く。
「まぁ……悪くなかったぜ」
「素直に褒めてくださいよ!」
その空気の中、バルドルは静かに立っていた。
「さて……わしは行くとするかのう」
「えっ……?
まだ教えてほしいことがあるのに!」
アレンがすがるように言うと、
バルドルはゆっくり振り返る。
「もう教えることはない。
賢く稼ぎ、築き、守れる者は……
自ら学び続けるものじゃ」
そう言って、彼は古びた杖を差し出した。
「これは“金を生む杖”ではない。
“思考を正す杖”じゃ。
行き詰まったら軽く叩け。
たいていは、お前の思い込みが間違っとる」
アレンは杖を受け取り、深く頭を下げた。
「……ありがとうございます。
バルドルさんのおかげで、僕は変われた」
「いいや、アレン。変わったのは――
お前自身の行動じゃよ」
そう言って、賢者は風のように消えた。
◆
王都は黒牙商会の支配から解放され、
人々は自由に商売をし、互いに協力し合い始めた。
アレンの牧場は“価値を生む場所”として評判になった。
スライムの粘液は薬屋、職人、料理屋にまで需要が広がる。
「アレン、今日も注文がいっぱいだよ!」
「うちの経済、マジで動かしてるな……!」
「へへ、嬉しい悲鳴ってやつ?」
アレンは青空を見上げる。
(働けば報われる……じゃなかったんだ。
正しく働き、賢く仕組みを作れば……
未来は変えられるんだ)
リリアが笑う。
「アレン……これからどうするの?」
「決まってるよ。
勇者業も、牧場も……どっちも続ける。
僕が作るんだ。
“みんなが豊かになる世界”を!」
仲間たちが笑い、スライムがぼよんと跳ねる。
その中心でアレンは、確かな歩みを始めていた。
――そして、物語は幕を下ろす。




