◆ 第18話 『黒牙商会の本丸へ ― 資産を守る戦い』
夜風が冷たく肌を刺した。王都の裏通り、誰も近づかない廃倉庫群。その奥に――黒牙商会の本拠地はあった。
「ここが……黒牙の巣窟……」
アレンは唾を飲み込んだ。膝は震えている。しかしその背中には、リリアとドランが立っていた。スライムたちも、ぼよん、と控えめに跳ねる。
――ガレスを倒した翌日。
彼は去り際にアレンへ最後の言葉を残した。
『黒牙の会頭ラグスは……資産を食い尽くす怪物だ。
行くなら、お前の“勇気の資産”が試される。』
その言葉が胸に刺さったままだ。
「アレン、本当に行くの……?」
リリアの声は震えている。
「行くよ。
僕が牧場を守るためにも……みんなの資産を奪わせないためにも」
ドランは鼻を鳴らした。
「ビビってる暇はねぇぞ。行くならさっさと行くぜ」
三人は巨大倉庫の中へと足を踏み入れた。
◆
暗い通路。
異様な静けさ。
そして――。
カツン。
アレンが足元の板を踏んだ瞬間、通路が唸った。
「アレン! 下!!」
リリアの叫び。しかし一歩遅い。
矢の雨が四方から飛び出し、落とし穴が口を開け、天井の毒ガス瓶が落下し始めた。
「ちょ、ちょっと!? 罠多すぎでしょ!!」
ドランが叫ぶ。しかし罠は止まらない。
(落ち着け……落ち着け……バルドルの教え……)
アレンは深呼吸し、すべての罠を“一つの流れ”として見た。
――バルドルの言葉がよみがえる。
『リスクは避けるものではない。
“コントロールして味方に変える”んじゃ』
「……そうか!」
アレンはスライムを二体飛ばした。
「スライム、通路全面に粘液膜展開!!」
ぼよん!!
スライムの粘液が床に広がり、
矢の着弾点をずらし、
落とし穴の縁を滑らせ、
毒ガス瓶の落下を弾いた。
罠は――逆に黒牙の私兵へ降り注いだ。
「ぐあぁぁ!?」
「な、なんで俺らの頭に矢が!!」
私兵たちは自滅し、通路はあっという間に静寂に包まれた。
ドランが呆れたように笑う。
「お前……マジで、頭おかしい使い方するよな」
「褒めてるのか分かりません!」
◆
黒牙本拠・中央倉庫。
そこは異様な空気に満ちていた。
「来たか、小僧ども」
闇の奥から、熊のような巨体が姿を現す。
全身に金属の装飾をまとい、口には“金の牙”をはめ込んだ男。
「黒牙商会会頭――ラグス」
アレンは無意識に後退った。
圧倒的な威圧感。
自分とは“階層が違う”存在だった。
「お前らがワシの商売の邪魔をしてくれたそうじゃなぁ?」
ラグスは笑う。その牙がギラリと光る。
「資産? 牧場? 仲間?
笑わせるな。
金なんぞ“奪った者の勝ち”なんだよ」
その言葉に、アレンの拳が震えた。
「奪うだけじゃ……何も残らない!」
「残るさ。“力”という資産がなァッ!!」
次の瞬間、ラグスの魔力が爆発した。
倉庫全体が震え、床に巨大な魔方陣が浮かぶ。
「倉庫ごと焼き払ってやる。
お前の資産も、牧場も、全部な!」
「アレン!!」
「クソッ……抑えきれねぇ!」
爆発魔法が暴走を始めた。
倉庫全てが光で満ちる。
(ここで負ければ……全部終わりだ!)
「みんな!! 全ネットワーク展開!!」
アレンの叫びに応じ、
スライムたちが粘液ネットワークを最大化して魔方陣を包み込んだ。
魔力の暴走が“粘液膜”で遮断される。
「ぐぬうう……なぜ止まる……!」
「資産は……守るためにあるんだ……!!
力で奪わせないために……仕組みを作るんだ!!」
アレンは必死に耐えた。
しかし魔力の逆流は止まらない――。
「アレン、離れて!!」
「オレが代わりに食らって――」
「だめだ!!」
次の瞬間――大爆風。
アレンは吹き飛ばされ、
ドランも壁に叩きつけられ、
リリアも倒れ込んだ。
倉庫は崩れ、空気には砂煙が舞う。
(……僕は……守れたのか……?)
視界がぼやける。その中に、ゆっくりと歩く影があった。
「よくやったのう。アレン」
「……バルドル……さん……?」
金の賢者がそこに立っていた。
古びた杖で床を軽く叩きながら、アレンを見下ろす。
「第七の教えじゃ。
真の資産は“築いた思考”じゃ。
それは誰にも奪えん。」
アレンの目に涙が滲んだ。
そして――最終章へ、舞台は動き出す。




