表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貧乏勇者、金の賢者に出会う  作者: やしゅまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/19

第13話 『ドラン、初仕事 ― 労働者と雇い主の違い』

翌朝のスライム牧場は、晴れているのに空気が最悪だった。


「アンタねぇぇぇ!! なんで勝手に従業員なんて雇ってんのよ!!」


 怒声とともにリリアが畑までずかずかと歩いてくる。

 アレンは完全に縮こまっていた。


「い、いや、その……勢いで……?」


「勢いで人一人雇うバカがどこにいるのよ!? 資金は!? 計画は!? 給料は!? ねぇ!!」


 そこへ、あくびをしながらドランが現れた。


「おー……おはよ。で、今日は何やりゃいいんだ?」


「ぐあああああアーーッ!! なんで当たり前みたいに出勤してんのよ!!」


 リリアは爆発寸前。しかしバルドルがゆったりと制した。


「まぁ落ち着けリリア。

 アレンよ、これは“試練”じゃ。従業員を雇うとは責任を背負うこと。

 お主、覚悟はあるか?」


「……はい! たぶん!」


「たぶんって言うな!!」


 朝の牧場に、スライムより湿った空気が漂った。



 気を取り直し、アレンはドランに仕事を説明した。


「まずはスライムの見張りと掃除をお願いします。逃げられやすいので、丁寧に──」


「チョロいチョロい。こんな雑魚相手、鼻歌で終わるわ。」


 ……数分後。


「ぎゃああッ!? おいコラピョンピョン逃げんな!!」


 スライムが三匹同時に跳ねて逃げる。


「ドランさん雑すぎます!! 手ぇ荒いんですよ!!」


「うるせぇ!! こんくらい力づくでやりゃ──」


「スライムは優しく扱わないと破裂するんですってば!!」


 ドランは必死に追いかけ回すが、スライムはぬるぬる滑って逃げまくる。

 アレンがため息をつきながらサッと捕獲していく。


「……なんでだよ……なんでこんな地味なのにムズいんだよ……」


 ドランが悔しそうに呟いた時だった。


「兄貴なら……こんなの余裕でやるんだろうな……」


 その一言に、アレンの胸がぎゅっと痛んだ。


(……ドランさんも、ずっと誰かと比べられてきたんだ……)



 昼。リリアが帳簿をチェックした瞬間、悲鳴が上がった。


「アレン!! 給料、もう払ってるじゃない!!?」


「えっ!? あっ……昨日渡した銀貨3枚……あれ、前払いです……」


「バカァァァァァ!!」


 リリアの怒号でスライムが震えた。


「給料は“仕事の後”よ!! アンタ雇用主なのにルールわかってる!?」


「ルール……?」


「ないの!? この牧場、ルールないの!? うそでしょ!!」


 アレンは完全に涙目。

 その横でドランが小声で呟く。


「……銀貨もらったけど、なんか、悪いな……」


 そこへバルドルがため息混じりに歩み寄ってきた。


「さてアレン。第三の教え、そろそろ聞く時じゃな。」



「よいかアレン。

 従業員を雇うとは、“作業”ではなく“仕組み”を作ることなんじゃ。」


「仕組み……?」


「教える仕組み、任せる仕組み、報告する仕組み。

 それがなければ……雇い主はただ搾取されるだけじゃ。」


 アレンはハッとする。


(僕、ドランさんに、ただ丸投げしただけだ……)


 隣でドランがぼそっと言う。


「まぁ……教え方、下手くそだったよな……お前。」


「ぐっ……!?」


 図星だった。


 バルドルは静かに続ける。


「アレン。“仕組み”を作れ。

 ドラン。“作業”をやれ。

 この区別こそ、雇い主と労働者の本質じゃ。」


 その言葉が、二人の胸に静かに刺さった。



 アレンは即座に動いた。

 メモ紙を取り出し、ドランに差し出す。


「これ……今日からの作業リストです!」


《スライム牧場・朝の作業手順》

1.逃げスライムのチェック

2.餌の補充

3.フェンスの点検

4.液体スライムの採集(量を決める)

5.破損箇所の報告


 ドランは目を丸くする。


「……これ、おれでもできる……!」


「一つずつでいいんです。

 僕も、一つずつ覚えてきたから。」


 リリアも腕を組み、ふっと笑う。


「……意外とちゃんとしてるじゃない。

 アンタにしては、やればできるじゃない。」


 ドランは少し照れたように鼻を鳴らす。


「……なんだよ。アンタ……ちょっとカッコいいじゃねぇか。」


「えっ!? い、いやそんな……!」



 同じ頃、黒牙商会の隠れ家では重苦しい空気が漂っていた。


「アレンという小僧……潰せなかったか。」


「ならばいい。次は“刺客”を送るまでよ。」


 ろうそくの炎がゆらりと揺れ、黒い影が動く。



 夕暮れの牧場。

 片付けを終え、ドランがぽつりと口を開いた。


「……なぁアレン。」


「はい?」


「……今日、俺……ちゃんと仕事……できてたか?」


 不器用な問い。

 アレンは満面の笑みで答えた。


「はい! すごく助かりました!」


「っ……ちょ、調子乗るなよ!!」


 耳まで赤くしてそっぽを向くドラン。


 その様子を、少し離れた場所でバルドルが見守っていた。


「よきかなアレン。

 “仕組み”を持つ者だけが、仲間を得られる。」


 アレンは大きく頷いた。


「はい! 次は……もう少しちゃんとした雇用主になってみせます!」


 夕陽の中で、スライムたちはぷるぷると揺れていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ