表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貧乏勇者、金の賢者に出会う  作者: やしゅまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/19

◆ 第12話 『勇者と乱暴者 ― 盗みに来た理由』

夜のスライム牧場は、月光に照らされて銀色に輝いていた。

 その静寂を破ったのは──


カランカランカラン!!!


「き、来た……本当に来た……っ!?」


 アレンは喉を鳴らしながら、罠が発動した方向へ身構えた。

 物音とともに草むらが揺れ、影がよろめき出る。


「ぐ、ぐおお……! な、なんだこの糸は……!?」


「ドラン、さん……?」


 罠に引っかかったのは、あの粗暴な中堅冒険者だった。

 足は蔦縛り罠で地面に固定され、腕には“心理罠”の監視灯が照りつけ、まるで罪人のように浮かび上がっている。


「アレン……テメェ……これはどういう……」


「ど、ドランさんこそ……なんで、盗みに……?」


 問われたドランは、最初は目をそらし、乱暴に舌打ちした。


「違ぇよ。盗みに来たんじゃねぇ……その……様子を見にだな……」


「先に罠にかかってるのに……説得力ゼロですよ?」


「ぐぉぉぉッ!! 黙れ!!」


 罠の中で暴れようとするが、縄罠と魔法墨の追跡結界が絡み合って、びくともしない。


「ふぬ……ぐ……ッ……! なんで動けねえんだよこれ!!」


 バルドルが顎を撫でながら言う。


「それはの、ワシとアレンで作った“守りの仕組み”じゃ。力ずくでは破れぬ。」


「ちくしょうがぁッ!!」


 ドランは暴れ疲れ、ついに崩れ落ちた。


 アレンはゆっくりと一歩踏み出し、声を落として言った。


「……ドランさん。ほんとうの理由を……聞かせてください。」


 沈黙。

 そして、罠に捕まった男はついに折れた。


「……黒牙商会だよ。」


 低い声。


「“アレン・フォードさえ潰せば、市場をまた取れる”ってな。

 それに……『お前がアレンを潰したら、兄貴より評価される』……とか言われた。」


 アレンは目を見開く。


「兄……?」


「……俺には……完璧な兄貴がいたんだよ。なんでもできる天才だ。

 俺は、どんだけがんばっても……何一つ勝てなかった。」


 ドランの声は怒りでも威嚇でもない。

 ただの、疲れ切った本音だった。


「だから……証明したかったんだよ。

 力があれば……兄貴より上に行けるって……

 俺は……俺はそれしか価値がないって……

 ずっと……そう思ってきた」


 アレンは胸が痛くなる。

 自分と似ていた。努力の方向が違っていたあの頃の自分と。


「……でも本当は、金に困ってただけなんだろ?」


 ドランはギッと睨んだが──


「……修理費、払えなかった。

 あれだけスライム倒してるのに……毎月赤字で……

 ほんとは、生活が……限界で……」


 最後は呟きのようにこぼれ落ちた。


 アレンは静かに答える。


「ドランさん……計算、苦手なんですね。」


「うっ……!!」


 見事に図星だったようだ。

 怒る余力もないほど、肩が落ちる。


 バルドルが口を開いた。


「人はな、“力”に価値を見出すと、永遠に奴隷となる。

 お前はずっと……評価されるための力に縛られとった。」


 ドランの拳が震える。


「じゃが、価値はひとつではない。

 経験も、知識も、工夫も、責任も──

 すべて価値じゃ。」


 アレンは息を吸って、まっすぐにドランを見た。


「ドランさん。罠、解除します。」


「……は? なんでだよ。」


 アレンは罠の結界に触れ、解除の呪を唱える。

 光がほどけ、蔦が緩む。


「言ったはずです。僕は……戦うつもりはありません。」


 自由になったドランは、よろめきながら立ち上がる。

 だが、殴りかかってはこない。

 代わりに、ただ困惑した顔をしていた。


「ドランさん。

 俺の牧場の“守りの仕組み”には……ひとつだけ足りないものがあります。」


「……なんだよ。」


「“人の目”です。

 スライムの扱い……慣れてますよね?

 俺、見張り役を雇いたいんです。」


「……………………は?」


 完全に理解不能な表情。


「なんで……なんで俺なんか……!」


「力があるのも価値です。

 でも……経験も価値なんだって、バルドルさんに教わりました。」


 ドランの喉がひくついた。


「……給料、出るのか?」


「もちろん。計算苦手なら、一緒に覚えましょう。」


 ドランは顔をそむけ、小さく呟いた。


「……盗みに来た相手に……雇うって……

 バカかよ……お前……」


「はい。よく言われます。」


 その瞬間、リリアが遠くから全力で走ってきた。


「アレン!! 夜中に何やってんのよ!?

 うわっドラン!? なんで牧場にいんの!!?」


「いや、その……面接中……?」


「面接ぅ!?!?」


 深夜の牧場に、リリアの絶叫が響いた。


 バルドルは満足げに笑う。


「よきかな、アレン。

 “守りの仕組み”とは、罠でも結界でもない。

 ──“人”じゃ。」


 アレンは、スライムたちのぷるぷるを見つめながら頷いた。


「はい!」


 そして──

 その日、アレンの牧場に“初の従業員”が誕生した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ