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貧乏勇者、金の賢者に出会う  作者: やしゅまる


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第10話 『第三の教え ― “資産”を作れ』

冒険者ギルドに入った瞬間、アレンは空気の違いに気づいた。ざわめきが重い。視線が刺さる。


「おい、最近のスライム素材、アレンのが一番質いいらしいぞ」

「ドランのは水っぽいってよ」

「王都の錬金術師がわざわざ指名して買いに来たって噂だぜ」


 そんな声がちらほら聞こえてくる。


(お、俺の素材が……そんなふうに?)


 胸が熱くなりかけた、その時──


「てめぇええアレン!!」


 怒号がギルド全体を震わせた。


 ドランが大剣を肩に担いだまま、鬼の形相で突っ込んでくる。


「てめぇのせいで、俺のスライム素材が全然売れなくなったんだよ!!」


「な、なんで俺のせいに……!」


「ああ!? お前が“高品質のスライム素材”なんて言われ始めてからだ!」


 アレンが困惑していると、バルドルが杖でトントンと床を叩きながら歩いてきた。


「ドランよ。おぬし、焦っとるな」


「うっせぇジジイ! 黙ってろ!」


 ドランは怒鳴り返したものの、手が震えている。

 その震えを見て、アレンは初めて気づく。


(……ドランさん、もう相当稼げてないのか)



 翌日。

 ギルド前には異様な看板が立っていた。


 【ドランのスライム素材 大特価! 今なら半額!!】


 さらにその下には、

 【討伐代行セット──スライム10匹狩って素材10個サービス!】


 アレンは目を疑った。


「な、なんだこれ……!」


 リリアが顔を覆う。


「最悪よ……。こんな無茶な値下げ、絶対に市場が崩れるわ」


 案の定、冒険者たちは「安いなら」と飛びついた。


 しかし──


「うわっ、スライムコアが潰れてる!」

「粘液が薄い……これじゃ鍛冶に使えねぇ!」

「俺の工具が壊れたんだけど!? どうしてくれんだドラン!」


 怒号が飛び交い、ドランは弁償続き。

 素材代より修理費のほうが高くついて、逆に赤字が膨れ上がっていた。


(ドランさん……これはさすがに……)


 だが問題はそれだけでは終わらなかった。



「アレン、大変よ!」


 ギルドに戻ると、リリアが血相を変えて走ってきた。


「市場全体が“スライム素材は信用できない”って雰囲気になってる。あんたの定期注文、全部いったん様子見にされちゃった!」


「えっ……!?」


 アレンは心臓をつかまれたような感覚に陥った。


(俺がいくら品質を良くしても……市場そのものが壊れたら意味がないのか……?)


 その夜。

 アレンは沈んだ表情で川のほとりに座っていた。


 バルドルが静かに隣に立った。


「アレンよ。水を見よ」


 川の流れは穏やかで、光を反射してきらめいていた。

 草が揺れ、魚が流れに乗って進む。


「流れは逆らう者を押し流し、整えた者の元にすべてを運ぶ。市場も同じじゃ」


「市場の……流れ」


「うむ。“整える者”こそが最も得をする。流れを力任せにせき止める者──例えば値下げで暴れ回る者は、いずれ自滅する」


 ドランの姿が脳裏に浮かぶ。


「だがアレン……おぬしは違う。

 おぬしが作ったのは素材ではない。

 価値を生む“仕組み”じゃ」


 バルドルは杖を地面に突き、告げた。


「第三の教え。“資産”を作れ。

 働かずとも価値を生むものを持てば、

 流れそのものを変えられる」


「資産……って、俺の、牧場が……?」


「そうじゃ。餌、運動、魔力密度、品質管理……それらすべてが“価値を生む仕組み”。牧場そのものが、おぬしの資産となる」


 アレンの目が見開かれる。


(俺が作っていたのは……ただのスライムじゃない。

 “品質の仕組み”なんだ!)



 その頃──ギルド裏の薄暗い部屋。


「ドラン殿、良い話がありましてな」


 黒いローブを着た男たちが、ドランの前に金袋を置いた。


「我々“黒牙商会”は、スライム市場を独占したいのです。

 アレン・フォードを潰していただければ……報酬は弾みますよ」


 ドランの目が揺れた。


(俺を笑ってた奴らを……黙らせられる……)


 拳を握りしめる。


「……やってやるよ。アイツさえいなけりゃ……!」



 アレンは牧場へ向かう道を、一歩一歩踏みしめていた。


(流されるだけの冒険者じゃダメだ。

 俺自身が──“流れ”を作るんだ)


 夜空を見上げる。星が瞬いていた。


 バルドルはその背中を見て満足げに呟く。


「よいぞアレン……ここからが“金の勇者”の本当の旅じゃ」


 風が優しく吹き、川の流れは静かに未来を運んでいた。


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