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QPと恋するマリオネット  作者: ましだたけし
第二話 クリスマスは誰がために

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7/30

クリスマスは誰がために Bパート

「紹介します! 地域猫のミケちゃんです!」


 この公園には野良猫が住み着いており、地域の住民に可愛がられている。いわゆる“地域猫”ってやつである。


 両脇を支えられ、ぶらんと脱力しながら「にゃ〜」と鳴くミケちゃんを前に、QPは怪訝な顔をした。


「ミケちゃん?」


「そう、ミケちゃん。可愛いでしょ?」


「うん、可愛いけど……三毛じゃなくて茶虎だよね」


「そうだね。でも、大人から子供までみんな“ミケちゃん”って呼んでるんだよ」


「……それで、ミケちゃんをどうするの?」


 そう、そこが今回の肝だ。人が操れるなら、犬や猫を操れても不思議はないよね作戦!


 ミケちゃんの背中に受信アンテナを取り付け、スマホから指示を送る。


【糸尾紡久の家の前で待機。糸尾紡久が出てきたら後をつけて、出かけ先を私に報告する】


「よーし、行ってこいミケちゃん!」


 私が命令文をスマホから送信すると同時に、QPがミケちゃんを解き放つ。一直線に公園を駆け抜けて見えなくなったミケちゃんを、QPはシャキーン!と親指を立てて見送っていた。


 冬の公園のテーブルに座り、QPと話しながらミケちゃんの帰還を待つ。QPの話題は、彼氏のマーくん絡みの話が多い。あれ……私も一応は彼氏持ちのはずなんだけど、話題が無いぞ。考えてみれば、糸尾とそこまで深く関わっていなかったことに気づいた。


 テーブルスペースを囲む空の藤棚を吹き抜ける北風が、私の心にも吹き荒ぶ。私、この二ヶ月、何やってたんだろ。


 小一時間ほどして、ミケちゃんが小走りで戻ってきた。


「よし、ミケちゃん。報告したまえ!」


「にゃ〜」


 うん? スマホのアプリを見るが、報告のフィードバックは無かった。


「……報告したまえ!」


「にゃ〜」


「…………」


「アヤちゃん、猫語わかるの?」


「わかるわけないっしょ。ダメかぁ」


 その後、QPと問題点を洗い出した。そもそも、ミケちゃんが糸尾紡久とその自宅を知っているのか。そして肝心の糸尾が家に在宅していたのか。さらに、出かけた先が電車やタクシーなどでの移動だったら、ついて行けるのか。


 次々と浮かぶ問題点。猫語がわかるかどうか以前の問題だ。すでに作戦としては崩壊している。無駄な時間を過ごしたと打ちひしがれる私をよそに、QPは「バイバーイ」と言って受信アンテナを回収したミケちゃんをリリースしていた。その能天気さが羨ましい。


 やはり、人間を操作しないと問題は大きそうだ。よし、ひとつ賢くなった。

 本来なら糸尾に直接、電話するなりメールを送れば済む話なのは分かっているが、それだとなんだか負けた気分になるのは何故だ。そうなると次に私が出来ることは限られている。次にやることは……


「こうなったら、直接乗り込むか!」


「え、どこに?」


「糸尾の家に決まってるじゃん。用事があると言ってたし、たぶん糸尾はもう出かけてると思うんだ。なら、家の人に行き先を聞くしかないっしょ」


「それはそうだけど、誰がやるの? アタシは嫌だよ?」


「……わかってるわよ。私がやるよ。でも保険は使わせて」


「保険?」


***


 今、私は糸尾の自宅前に立っていた。ゴクリと生唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえる。少し離れた場所で、QPが私のスマホを持ってスタンバっている。


 ハッキリ言って、私は糸尾の親の前でまともに話せる自信がない。だから、スマホDEマリオネットを使って、事前に決めた質問だけして、さっさと切り上げる。用意した会話は……


【一礼して最初に挨拶。「糸尾くんのお母さんですか? はじめまして、クラスメイトの久具津といいます。糸尾くんは出かけていると思いますが、用事があるので行き先を知りたいのですが、ご存知でしょうか」相手の返事を聞いたら「ありがとうございます。それでは失礼させていただきます」と挨拶して撤収する】


 緊張しながらインターホンに指を添える。ちらりと後ろを振り返ると、物陰から見守るQPが親指を立てていた。心臓の音がやけにうるさい。意を決して、インターホンをポチッと押した。


『はい、どなたですか?』


 しばらくして、インターホンから優しそうな男性の声が聞こえた。糸尾のお父さんだろうか?


 身体がピクリと反応して、自然と会釈をする。QPが命令文を送信したようだ。あとは勝手に喋ってくれるはず。


「糸尾くんのお母さんですか? はじめまして、クラスメイトの久具津といいます」


 はい? お母さん? いや、ちょっと待ってくれ!


『い、いや、私は紡久の父ですが』


 わかってます! でも止まらないんです! ごめんなさい、ごめんなさい!


「糸尾くんは出かけていると思いますが、用事があるので行き先を知りたいのですが、ご存知でしょうか」


「あ、はい。ちょっといるかどうか確認してくるので、少し待っててください」


「ありがとうございます。それでは失礼いたします」


 いやいや、肝心な情報を聞いてないじゃん! 心とは裏腹に、身体は勝手に会釈し、踵を返してスタスタと足が進む。背中越しにインターホンから何やら声が聞こえるが、頭が真っ白で耳に入らない。


 QPの元まで戻った私は、膝からガクっと崩れ落ちた。


「……私、第一印象最悪じゃん」

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