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QPと恋するマリオネット  作者: ましだたけし
第十二話 さようなら。はじめまして。

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60/60

さようなら。はじめまして。 Eパート

最終話最終パートになります。

「糸尾さん、お入りください」


 無機質な白い壁が延々と続く通路のベンチに俺は腰掛けて頭を抱えている。既に何時間経ったのか覚えていない。

 握りしめた手を開き、色褪せたレジン製サッカーボールのキーホルダーを見つめる。

 自分の名を呼ばれてハッと顔を上げた。喉がカラカラで返事すら出来ない。

 緊張で膝が馬鹿になったかのように上手く動かず、ヨロヨロと立ち上がる。まるでPK戦のキッカーになった気分だ。まあ、選ばれた事は無いけど……。

 看護師さんが見守る中、俺は胸に手を当て深呼吸をしてから、一歩身を引いた看護師さんの前を通り抜けて開かれた扉から入室した。



***



「アヤちゃん!」


 バンと勢いよく扉を開けてQPが入ってきた。うるせえよ。ここは病室だぞ、ビックリして起きちゃうだろうが。

 QPに続いて麗華とマーくんも入室してきた。

 ベッド脇の椅子に座った糸尾はビックリして、剥いてる途中のリンゴを手に振り向いた姿勢で固まっている。


「よう、お前ら、高橋の見送りに行ったんじゃないのか?」


 手元の小皿に乗った切り分けられたリンゴにデザートフォークを差した。


「アヤちゃん、元気そうでよかったわ」


「ん。まあ、なんとかね」


 麗華が安堵の表情で笑った。リンゴを口に運びかぶりつく。美味い!


「糸尾くん、お疲れさん」


「え、ああ、おう」


 固まった状態でマーくんに声を掛けられ、思わずドモる紡久が笑えた。


「アヤちゃん、どうだった?」


「ウ~ン。長い便秘が解消されたような?」


「操乃〜、やめろよ、その例え……」


 QPの問いに正直に応えたら、紡久に嫌な顔をされた。


「そいえば高橋の見送りに行って来たんだろ? どうだった?」


 一応は高橋の事を聞いておく。


「いつも通りだったよ。糸尾くんには落ち着いたら洋輔の方から連絡するってさ」


「アイツらしいな。了解」


 マーくんと紡久のやり取りを聞きながら残念に思う。私も見送りに行きたかったなぁ。


「早速だけど見せて見せて!」


 QPと麗華が前のめりに詰め寄ってくる。お前らソレが目的で来たのかよ。

 私はベッド脇に備え付けられた新生児用の小さなベッドから、産まれたばかりの小さな命を優しく抱き上げる。


「はいどうぞ」


「かわいー! ほっぺたプニプニ〜!」


「やめろ、突くな。QP菌が移る」


 小さなほっぺたをツンツンするQPの手をペシっと叩いてシッシッと追い払う。


「いいなー、いいなー。私も欲しいなー」


 すると、叩かれた手を空いた手で擦りながらQPが爆弾発言をかました。


「ちょ、ちょっとQPちゃん。佐藤くんが困っているわよ!」


 麗華の言葉にマーくんを見ると、赤面して明後日の方向を向いている。お前ら、その歳でアオハルかよ!


「おっと、授乳時間だ。マーくん、悪いけど退室してくれる? 紡久頼むわ」


「オッケー。佐藤、コーヒー奢るぜ」


「分かった。行こうか」


 笑顔で“出ていけオーラ”を出して男性陣を追い出す。

 扉が閉まるのを確認して仕切りのカーテンをQPに引いてもらい、胸元を開いて我が子を抱き寄せた。


「アヤちゃん……今、幸せ?」


 私の授乳を見守っていたQPが天使の微笑みで聞いてきた。


「聞くなよ、そんな事……恥ずかしいだろ」


 私は笑いながら応えた。


「アヤちゃん、その子って男の子なの、それとも女の子?」


 麗華が性別を聞いてきた。産まれたばかりの赤ちゃんって可愛すぎて性別不明だよね。わかるよ。


「この子は女の子だよ」


「名前は決まっているの?」


 満足した赤子の背中をトントンと軽く叩いてゲップを出させる。名前を聞いてきたQPにニヤリと笑って我が子の名を告げた。


「この子の名前は糸尾真理。“マリ”って決めたよ」


 居なくなったあの子の様に、人と人の仲を紡ぐ子になりますように。

 あの子の分まで幸せになりますように。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

この物語はここで一区切りとなります。

何かが終わり、同時に何かが始まる。

その瞬間を描くことが出来ていれば幸いです。

「スマホDEマリオネット」は役目を終えました。

けれど、想いは形を変えて残り続けます。

それが人と人の間に紡がれるものであるなら、

きっとそれは無駄ではなかったのでしょう。

ここまで操乃たちの時間に付き合ってくださり、

本当にありがとうございました。

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