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QPと恋するマリオネット  作者: ましだたけし
第十二話 さようなら。はじめまして。

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さようなら。はじめまして。 Bパート

「……おはよう“マリ”」


 スマホのアラームで目を覚ます。

 今日も夢を見た。昨日に引き続き内容は覚えていない。でもそれでいい。なぜなら今朝は心が凪いでいるのだから。

 いつもの机の上ではなく、枕元に置かれた”マリ“ことスマホDEマリオネットの受信アンテナにそっと手を伸ばす。冷たい表面を指先で撫でた私は「よし!」と気合を入れてベッドから起き上がった。




「――では今日の十六時にお待ちしています。……はい。はい、失礼します」

 スマホの画面に触れて通話を切ってポケットに仕舞った私は、階段を降りて朝食の準備をしていたお母さんに告げた。


「おはよう、お母さん。今日の夕方に斎藤さんがまた来るからよろしくネ!」


 朝食をいただき、コートとマフラーで武装したら“マリ”をポケットに入れて家を出る。通学路を一歩一歩踏みしめながら白い息を吐く。残された時間を愛おしむ様に……。

 ”マリ“との最後の一日が始まった。



***



「お母さん、ただいま」


 今日も昨日に引き続きQPを引き連れて帰宅した。

 一人で大丈夫だと言ったのだが、どうしてもついて来ると言って聞かなかったのだ。愛い奴め!

 三和土には、これまた昨日同様に綺麗に揃えられた革靴が。斎藤さんはもう来ているらしい。

 QPと頷き合い、和室の襖を開ける。


「やあ、もう大丈夫かい?」


 和室に入ると斎藤さんに気を使われた。私は畳に直に正座で座ると、頭を深く下げて謝罪した。


「はい、大丈夫です。昨日はゴメンナサイ。動転してご迷惑をお掛けしてしまいました」


 一晩たって落ち着いたら、憑き物が取れたように冷静になった。斎藤さんの要求は至極真っ当な事だった。要は私が感情で突っ走ってしまったのだ。息切れしてしまったのは当然の事であった。


「いやいやいや、頭を上げてください。僕も性急過ぎました。それどころか、僕が作った製品をそれだけ大切にしてくれていた事に感謝すらしていますよ」


 斎藤さんと二人、照れ笑いをして、平テーブルの向かいに移動して席につく。QPは斎藤さんの冷めたお茶を入れ直して私の隣に座り、無言で見守ってくれている。

 入れ直されたお茶を一口啜った斎藤さんが静かに湯飲みをテーブルに置き、私を正面から見据えた。


「……久具津さん。引き渡しに同意しもらえたと解釈してよろしいですか?」


「はい」


 私は短く返事をして“マリ”ことスマホDEマリオネットの受信アンテナをテーブルの上に置いた。


「確認させていただきますね。……シリアルナンバーは……無し。スマホDEマリオネット試作品で間違いないです」


 置かれたマリ“をそっと取り上げた斎藤さんは裏側を確認し、安心したかのように嘆息した。企業側としての心労を考えると相当なものだったのだろう。


「それでは確かにお預かりします。代わりの製品版(マスプロ)を置いていきますので……」


 斎藤さんが白いハンカチで“マリ”を大切に包み、傍らに置いたカバンから真新しいパッケージを取り出そうとしたのに待ったをかける。その必要は無いよ……


「……それは必要ありません。私にとって“マリ”は唯一無二です。代わりは、いま、せん。だから、だがら……」


 目頭が熱い。頬を熱い何かが伝わる。膝の上で握りしめた手の甲を何かが弾けた。


「分かっています。”マリ“と貴女の臨床結果は決して無駄には致しません。貴重な体験とデータをありがとうございました」


 斎藤さんが座布団から横に移動して座り直し、深く頭を下げた。あの子の事を“マリ”と呼んでくれるんだ。


「よ、よろじぐ……おでがいじばず……」


 ゴンッ


 思いっきり頭を下げて額がテーブルを打つ乾いた音が響く。それでも私は額をテーブルに押し当てながら頭を下げ続けた。

 和室には私の微かな嗚咽だけが続き、隣に座ったQPが視界の端で静かに頭を下げるのが分かった。

 対面で微かな畳の擦れる音に続き、障子の開閉音が静かに転がった。


「アヤちゃん、頑張ったね」


 濡れた手の甲の上にQPが手を重ねて来た。水浸しのテーブルに突っ伏したままの私は小さく、静かに別れを告げた。


「ざ、ざよう、なら……”マリ“……」


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