急ぎの客ありて心乱すべし Dパート
「操乃、操乃。アナタにお客さんが来てるんだけど……」
バタバタと慌てて出迎えに出てきたお母さんが不安げに来客を告げてきた。
QPと帰宅した私は玄関に見慣れない革靴が綺麗に並んでいるのに気が付いた。お客さん?
「私に?……もしかしてサイトウハジメさん?」
「そう、その人! 一体誰なの?」
お母さんの返答に私はQPと顔を見合わせた。
「どうする? 鈴木先生に電話する?」
「ウ~ン。有無を言わせず犯罪者扱いもちょっとなあ……とりあえず会ってみるか」
「え!何、何? 危ない人なの?」
お母さんが動揺している。無理もない。
「いや、多分大丈夫。……だと思う。どこに居るの?」
「和室に案内しているわ。本当に大丈夫?」
話が進まないので、大丈夫だとお母さんに言ってリビングに下がらせた。
「QP、鈴木先生への電話の用意をしといて」
無言で頷いたQPは懐からスマホを取り出して操作を始めた。それを確認して私は、深呼吸をし、意を決して和室の襖を開ける。
「お待たせしました――え?」
「やあ、久しぶりだね」
和室の平テーブルに向かって座布団に正座して座っていたのは夏の別荘で知り合った斎藤さんであった。
「もしかして、鈴木先生の同級生って斎藤さんだったんですか?」
「あ、彼女に何か聞いた? そうなんだよ。世の中狭いよね」
マジか。って事は例のウンチクを語ってたのも鈴木先生か。“担任だったら楽しそうですね”なんて思った私が恥ずかしい。
後ろで様子を見ていたQPも安心したのか、スマホをポケットに戻した。
「さっき鈴木先生から聞きました。サイトウハジメさんって同級生が家を訪れる可能性があると。名前を聞いても誰の事か分かりませんでしたけどね」
「あ〜、やっぱり悟られていましたか。参ったなぁ」
苦笑いで頭を掻く斎藤さん。別荘で話を聞いてくれた頃と変わっていなくて安心する。
「それで、斎藤さんはなんでウチに? まさか私とQPの仲が気になったとか言わないですよね?」
「ああ、確かに気にはしていたよ。無事に仲直り出来たようで何よりだね。とりあえず立ちっぱなしも何だし、座ったらどうだい?」
私の家なのに席を勧められることに笑いつつ、テーブルを挟んだ席にQPと並んで座った。
「まずは自己紹介をしておこうか。僕は斎藤肇。”ガジェットの宝箱“って会社の開発主任をしている」
ガジェットの宝箱?なんか聞き覚えがあるな……。
「……それって何の会社ですか?」
「あ〜……まあ、そんな反応だよね」
QPの問いに斎藤さんは苦笑いして衝撃の事実を教えてくれた。
「久具津さんの所持する【スマホDEマリオネット】の販売元と言ったほうが分かりやすいかな?」
あ、そういえば……どうりで聞き覚えがあるはずだ。
「それは分かりました。どうやってウチの住所を?」
「それは簡単だよ。名前が分かっているのであれば顧客名簿を当たれば一発です」
言われてみれば当然の話だ。斎藤さんは別荘で私がスマホDEマリオネットを持っていたのを見ていたのだから。
「えっと、開発主任って事はもしかして?」
「はい、スマホDEマリオネットは僕が作りました」
この話の流れならそうだろうな。その開発主任さんが何の用事で私に?
「えっと……結局、斎藤さんは何しに?」
「実は久具津さんがお持ちのスマホDEマリオネットは試作品が手違いで発送されたモノなんです」
え? 試作品? 何が違うの?
私とQPの理解していない事を察した斎藤さんは続ける。
「商品を開発する際に試作品を作るのですが、あらゆる技術と予算を使って出来うる限りの最高スペックで作るんですよ」
「え、それって商売として割に合わないのでは?」
「おっしゃる通り。まず、どこまで何が出来るのかを確認して、製品版に向けて安価に抑えてスペックも調整するのですよ」
そういえば、クリスマスに食べた桜の作った試作品のクッキーは美味しかったな。試作品だから高い素材で作っていた可能性が高い。
一人で納得していると、斎藤さんから思いがけない事を言われた。
「そこで、僕はその試作品を回収しに来たのです」




