急ぎの客ありて心乱すべし Aパート
第十一話です。ラスト二話になります。
これまで積み上げてきた出来事が、少しずつ形を持って迫ってきます。
日常の延長線にあるはずの「来客」が、物語を思わぬ方向へ押し出していく回になりました。
静かな話ですが、ここから空気が変わります。
「世界平和、人類皆兄弟!」
大きな鈴がガランガランと空気を揺らし、柏手が響く。
朱が目に痛い大きな鳥居に一羽のカラスが止まり、小首を傾げる仕草をする。足の数は……良かった、二本だ。
吐く息が白くなる境内で、私たちは肩を寄せ合って並んでいた。
「アヤちゃん、毎年同じ事言ってる……」
「そもそもお参りの願い事としておかしくないかしら」
QPのツッコミに麗華が乗っかった。だって何も思い付かないんだもん。
「操乃先輩。普通は受験合格祈願すると思いますけど」
あ、それがあったか。……やり直していい?
鳥居のカラスがアホーと鳴いて飛び去った。
拝殿を降り、待っていた男子と合流し、おみくじ売場へと歩き始めた。
「桜ちゃん。その振り袖、素敵な柄だね。いいなあ」
QPの指摘通り、普段着の私たちに混じって桜の振袖が映える。
「ありがとうございます。高校生になったからと、お祖母ちゃんが買ってくれたんです」
うむ、“孫”にも衣装ってヤツだな。
チラチラと横目で糸尾を意識して、アピールするように袖を揺らす。
しかし、鈍感な糸尾はそれに気付いていない。肘で突いて催促してやった。
「え?……あ、うん。とても似合ってるぞ、桜」
「ムッちゃん、ありがとう〜」
弾けんばかりの桜の笑顔にほっこりする。笑う門には福来たるってね。
「おっと、凶だったよ」
「あら、元旦に凶を引くとか、逆に凄いわね。でも凶は悪い事ばかりじゃないし、気の持ちようよ」
お正月のおみくじには凶はほとんど入っていないって噂を聞いた事がある。ある意味それを引く高橋は、やはり持ってる男って事か。さりげなくフォローしてる麗華との仲も順調そうで何よりだ。
「マーくん、これ見て」
「どれどれ……お、いいね。今年はいい年になりそうだよ」
QPとマーくんは相変わらず仲がいい、あいつらは放っておこう。
「さてと、私のおみくじはっと……あれ?」
白紙だった。こんな事ってあるんだね。巫女さんに告げて新しいおみくじをもらった。
結果は末吉だった。うん、まあ世の中そんなもんだ。
「急ぎの客ありて心乱すべし?」
何だそれ。まあ、おみくじなんて皆似たようなもんか。
今日は私たち受験生もひと休み。見上げる空は蒼くどこまでも高い。そんな刻が、優しくも厳かに進んでいった。
***
「春風さん、これは私が目を付けてたんです。その手を離してくれませんか?」
「いいえ、私が先に掴んだのだから私のものです。麗華先輩こそ手を離してください」
「先輩がこんなに頼んでも駄目なの?」
「先輩ならかわいい後輩に譲るべきです」
おお、麗華と桜が笑顔で火花を散らしている。
一つの福袋を取り合っている様に、私は二人の背後に龍虎を幻視した。
「桜ちゃんはともかく、麗華ちゃんは意外な一面だねえ」
「アイツ、昔から特売とか半額ってのに弱いんだよ」
QPは“良いモノを見せてもらった”と言ってニシシと笑う。
今、私たちはいつものショッピングモールに来ている。さて、そろそろ二人を止めるべきか?
「麗華、桜〜。そろそろ止めなよ。新年からみっともないぞ〜」
「アヤちゃん、黙ってて!」
「負けられない戦いってあるんですよ!」
ダメだこりゃ。諦めた私は小さく息を吐く。すると――
「あのさ、二人でシェアして買えば良いんじゃないかな?」
「そうそう、福袋なんて好みの合わない品が何点か入ってるもんだろ?」
「桜も毎年、福袋の中身に文句言ってるじゃん。シェア出来るならそっちの方が得だろ」
マーくん、高橋、糸尾からの援護射撃が入った。やるじゃん、お前ら。
三人の提案を聞いて麗華と桜は視線で語り合った後、シェイクハンドして仲良く一つの福袋を二人で抱えてレジに向かった。
「ふう、無事に解決したようだね」
「三十分も取り合いしていたぞ。流石にこれ以上はな」
「アイツら、俺たちが居るの忘れていただろ」
男三人衆がなんか言ってる。……もしかして、待ちくたびれて、早く終わらせたかっただけなのかな? どっちにしろグッジョブだ。そして私も一つの福袋を手にした。
「QP〜。私らもコレ二人でシェアしようか」
「どうせなら麗華ちゃんたちが買ったのと合わせて四人でシェアしようよ」
「お、それイイかも」と言いつつ、二人で笑いながらレジに向かっていると後ろから糸尾の呟きが聞こえた。それ、多分正解だよ。
「あ、コレもっと時間かかるヤツだ……」




