誤解×和解×閉会 Dパート
「あ、久具津先輩。高橋元生徒会長が中で待ってます」
”文芸部展示会“と装飾された扉の横、簡易受付に座っていたのは工藤ちゃん。 約束の時間、私は文芸部室の前に立っていた。
「……そっか。ありがとう」
それ以上は聞かなかった。
答えは、たぶん最初から決まっている。
彼女は席を立って会釈し、この場を後にするその背中を見送った。
扉をノックしてから中に入る。
そして、待っていたメンツを見て苦笑いが出た。
呼び出した高橋は当選、後は麗華、そして――
「久具津さん、さっきはゴメンね」
――マーくん。
……やっぱり、QPはいないか。
「気にしてないよ。ここに居るって事は協力してくれるって事でしょ?」
マーくんは微かに笑って小さく頷いた。
「さて、じゃあ今後について話そうか」
高橋が役者は揃ったと言わんばかりに話し始める。生徒会長を引退しても、その場を仕切る空気は変わらない。
「雅史から連絡があってさ。久具津さんと話したいって」
私は黙って頷いた。
マーくんが一歩前に出る。
昼間とは違って、どこか覚悟を決めた顔をしていた。
「……ごめん、久具津さん」
真正面からの謝罪だった。
「僕も何とか橋渡し出来ないかと真夜ちゃんに言ったんだけど……」
「拒否られた、でしょ」
私が先に言うと、マーくんは小さく息を吐いて頷いた。
「まあね。でも、意固地になっているっていうより、話せない事情がある。そう感じでそれ以上は踏み込めなかったよ」
胸の奥が、少しだけ痛んだ。話せない事情……つまりスマホDEマリオネット関係って事だ。
でも、それ以上に不思議と納得している自分がいた。
「だからさ――」
マーくんは続ける。
「――後夜祭て真夜ちゃんと会ってほしい」
そんなに簡単に会ってくれるかな?
「……どうやって?」
「何で僕が真夜ちゃんと離れてここに居られると思う?」
質問に質問で返すとか……でも、それには意味があるって事だよね?
「喧嘩でもした?」
「残念。答えは“どうせなら待ち合わせした方がドラマチックじゃない?”だってさ。かわいい事を言うよね」
乙女かよ! いや、乙女だからいいのか。
「その待ち合わせ場所に君が向かってくれ」
その言葉に、私は静かに目を伏せた。QPゴメンね……
「アヤちゃん、お願い。私も2人を見てると苦しいよ」
麗華が視線を落として絞り出すように後押しする。
「事象は分からないけど、最近の君たちは”らしくない“と俺も思うよ」
高橋が労わるように麗華の肩を軽く抱き、私から視線を逸らさない。
「だから、俺はここで退場するよ。後は……任せる」
マーくんが手を掲げたのをハイタッチで返した。パンって音が文芸部室に響く。
「……任された」
逃げ道は、もう無い。
高橋が、短く言う。
「骨は拾ってやる。ドンと行け」
「……嫌な事言うなよ」
思わず四人で吹き出して笑った。
舞台は整った。後は私が演じきるだけだ。
さあ、満を持してマリオネットの出番だ。
文芸部室を出ると、廊下の窓からキャンプファイヤーに火が入るのが見て取れた。
後夜祭の準備が、もう始まっている。
私は一度だけ、深く息を吸った。
逃げる時間は終わった。次は、向き合う番だ。
誰もいない廊下に私の足音だけが響く。いざ、QPの待つ後夜祭へ……
「QP……お待たせ」
マーくんに指定された場所に、確かにQPが待っていた。
キャンプファイヤーの炎を背に建つQPの顔は深く濃い陰を落としていて表情は伺えない。まるで以前の洞窟での状況と同じだ。
でも今日はあの時とは違う。
私を見て一瞬驚いた顔をした後に苦笑いする様が目に浮かぶ。
「もう、マーくんも大概にお節介だよね……」




