誤解×和解×閉会 Cパート
「あ〜疲れた。終わり終わり」
クラスの軽食喫茶の担当時間は終わった。エプロンを外した頃には十五時を回っており、客足も落ち着きを取り戻していた。交代の引き継ぎを終えて、麗華と二人で教室を出た。
「アヤちゃんはこの後はどうするの?」
「……QPを探す。そして話をしてみる」
「私も高橋くんと探してみるわ。何か分かったら連絡する」
「ありがと。無理しない程度に高橋くんと楽しんで」
「……そっちこそ、無理しないでね」
小さく頷いて麗華と別れ、私は校舎の廊下へと足を向ける。
本来なら高橋ともっと文化祭を楽しんでもいいはずだ。幼馴染とはいえ、ここまで協力してくれる事には感謝しか無い。
後夜祭まで、まだ時間はある。あるはずだ。だから今、私も出来る事をしよう。
いい加減、ここまて放置していた自分に腹が立つ。結局は自分が傷付きたくなく、問題を後回しにしていただけ。
有耶無耶にして逃げるのは、もう終わりにするんだ。
歩きながら、頭の中で同じ問いが何度もリフレインする。
“私が何を間違えたのか”
“QPは、何に引っかかっていたのか”
夏の別荘。逆光の洞窟。疲れ果てて寝ているマーくん。
アンテナを外した、あの瞬間。
正直、私が何かをやらかした覚えは無い。どこかで何か誤解があるはずだ。
もし私がQPの立場だったら。
”自分の知らない所で親友が大切な人と二人きりで一夜を過ごす“
(……そりゃ、嫌だよな。でもそれだけじゃないはず)
私は何をした?
QPに対して。
マーくんに対して。
説明すべきだったのか。
それとも、触れない方が良かったのか。
頭の中で問答を繰り返しながら、ひたすら校内を探し回る。本日は外来のお客さんが多い。ただでさえ探すのが大変なのに困難を極めた。
屋上。
誰もいない。秋風が冷たいだけだ。
講堂。
出し物の準備で人は多いが、QPの姿はない。
グラウンド。
サッカー部の催しは相変わらず盛況で、歓声が飛び交っている。
QPどころか、糸尾と高橋の姿も見えない。
どこにいるんだよ……。
無作為に足が向いた先は、校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下だった。
中庭を見下ろせるその場所は、様々なクラスや部が出店を連ね、テーブルと椅子が所狭しと並んでいる。雑多と混雑で気分は“◯ォーリーを探せ”だ。
ふと、視線が止まる。
マーくんだ。
ベンチの傍に立ち、二つのカップの入ったドリンクケースを片手に誰かを待っている様子。
思わず声を掛けようとして――。
その瞬間、マーくんがこちらに気付いた。
彼は一瞬だけ目を見開き、すぐに人差し指を立てて口元に当てる。
そして、ゆっくりと首を振った。
(……今は、待て)
言葉はない。だが目が語っていた。
下唇をぐっと噛む。
待つ? 何で?
私は何も出来ず、身を乗り出し、渡り廊下の手すりを掴む手に力が入り指が痛い。
ほどなくして、出店の袋を手にしたQPが現れた。
「……あ」
彼女はマーくんの隣に並び、笑顔で何かを話しながら歩き出した。
こちらに気付いてて、あえて無視しているのか。
それとも、気付いてすらいないのか……。
結局QPは一度も顔を上げる事は無かった。
二人の背中が人混みを縫うように中庭の向こうへ消えていくのを、私は黙って見送る。
呼び止めることも、追いかけることも出来ないまま。
胸の奥が、じわりと重くなる。待つって何時まで?
その時、ポケットの中でスマホが震えた。高橋からのメッセージだった。画面を開く前から、嫌な予感と期待がない交ぜになる。
――逃げる時間は、もう終わりだ。
私は深く息を吸い、スマホに指をかざした。
「……一時間後に文芸部室?」




