誤解×和解×閉会 Bパート
「じゃあ、後はお願いね」
昼を告げるチャイムが校舎に響き渡る頃、交代で戻ってきた後輩ちゃん二人とバトンタッチで受付を離れる。
桜と工藤ちゃんが文化祭の散策に向かった後、文芸部展示会には一人として客は来なかった。一人で過ごす時間は虚しさと寂しさのハイブリッドだ。こんな時にQPが居てくれたら……。
「あ、アヤちゃん」
凝った肩と首を回しながら歩いていると後ろから声が掛かった。QPかと思い、一瞬ドキっとしたが声が違う。この声は……。振り向くと麗華だった。
背中まで伸びた髪を緩くまとめ、只の制服、茶のブレザーにエンジのリボン。私と同じ服装のはずなのにやけに眩しい。文化祭の華やかさの中でも、相変わらず目を引く存在だ。
「あれ、高橋くんは?」
「さっきまで一緒だったわよ。サッカー部の催しの様子を見てくるって」
サッカー部はグランドで昔流行ったキックして的を撃ち抜きビンゴするゲームをやっているらしい。
午前の拘束が終わった解放感と、次の仕事への小さな憂鬱が同時に押し寄せる。ゴゴイチからはクラスの催しの手伝いだ。
「じゃあ、教室に行こっか」
私たちのクラスは安直に軽食喫茶をやっていた。
教室の扉を開けると、鉄板の焼ける音と甘い匂いが混じり合い、文化祭らしい雑然とした空気が流れ込んできた。
「いらっしゃ……なんだ、操乃と麗華か」
クラスメイトの声に迎えられ、私と麗華は苦笑いする。
「お疲れさん。裏でお昼ご飯食べたらホールに入るよ」
「待った待った! ならこっちで食べてよ。麗華は美人だしサクラにはピッタリだよ」
私は?ねえ、ワタシは?
「しょうがないわね。アヤちゃん、付き合わせてゴメンね」
「ドンマイ。しかし、こうして座ってると文化祭って感じするね」
二人で手近なテーブルに腰を下ろし、適当に注文する。
「QPちゃんは?」
「あさイチのホール担当だったはずなんだけと、その後は……」
注文した軽食をつつきながら、取り留めのない話をする。
その時だった。
「……あれ、糸尾くんじゃない?」
麗華の視線の先。
入口から入ってきたのは糸尾と、見覚えのある男子が五人ほど。たしか……
「“彼女居ない者同盟”の面々か……」
「え、何その安直な名前」
「いや、知らんがな」
彼らは私達の横を通り抜けて奥のテーブルへ。通り際に糸尾が小声で聞いてきた。
「久具津。ホール出るのいつから?」
「あん? お昼食べ終わったら出るよ」
「そっか。ナイスタイミングだな」
糸尾の背中を見送り、ナンノコッチャ?と疑問符を浮かべる。おっと、さっさと食べてホールに入らねば。
お昼ご飯を食べ終えた私と麗華は、裏の控室に設置した簡易更衣室でブレザーを脱いでブラウスの上からエプロンを着用し、頭におそろいのカチューシャを装着してホールに出た。
ふと見ると、”彼女居ない者同盟“の連中は既に注文の品が届き食べ始めているのに、糸尾だけはメニューとにらめっこしていた。何してんだアイツ。
「すみませーん。注文いいっスか?」
私を目ざとく見つけた糸尾が手を挙げて呼んでくる。そ~ゆう事か……。
「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか?」
糸尾の席に近づくと、彼は待ってましたとばかりに顔を上げた。
「えーっと……オススメをお願い」
結局決めてないんかーい!
私が出てくるのを待ってたくせに何やってんだと心の中で毒づく。
調理場にオススメ一丁!と投げやりなオーダーを通して嫌がられたが無視だ無視。
私たちは呼ばれるまで端に立って控えているのだが、例の同盟者たちのヒソヒソ声が確実に聞こえていた。
「やっぱ田中さんが抜けてるな」
「……あの子、結構アリじゃね?」
「エプロンの胸の膨らみがたまりませんな」
「点数つけるなら――」
おい、聞こえてんだよ!
作り笑顔を崩さないまま、私は嘆息した。
隣に立つ麗華も苦笑い待った無しだ。
しばらくして料理を食べ終えて、飲み物も空になった段階で、なんちゃら同盟者らは席を立った。
「ごちそうさま」
糸尾が私を見て、少しだけ笑う。
「……おいしかったよ、久具津」
一瞬、言葉に詰まる。
「……ご来店ありがとうございました」
それだけ返すのが精一杯だった。
男子たちはぞろぞろと店を出ていく。
その背中を見送りながら、私は小さく息を吐いた。
「疲れた顔してる」
いつの間にか隣に来ていた麗華が、からかうように言う。
「文化祭、まだ半分だよ?」
「でもこの後はフリーでしょ?」
「それが一番の悩みどころなんだけどね」
戯けるように肩をすくめる私を麗華が心配そうに見つめてくる。今日という一日は、まだ何も始まっていないし終わってもいない。
いい加減、この状況にはウンザリだ。何としても今日中にQPとケリを付ける。
「さて……その為にも、もうひと踏ん張りしますかね」




