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QPと恋するマリオネット  作者: ましだたけし
第九話 疑心暗鬼のオブソーバー

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疑心暗鬼のオブソーバー Dパート

「――要は彼女……白井さんが何に怒っているのか知りたいと」


 別荘村の自動販売機のある周辺は木陰になっており、山間を吹き抜ける風が心地よく頬を撫でる。垣間見える木漏れ日が、揺れる枝葉の演出か、キラキラと瞬いているようだ。

 蝉の合唱と小鳥たちのBGMを背に、斎藤さんは困ったような、懐かしむような、複雑な笑みを浮かべて私に質問してきた。


「久具津さんは白井さんにちゃんと“何を怒っているのか教えて”と言ったのかな?」


 言われてみて少し考える。どうだっけ?

 思い返していると、自然と手をパーカーのポケットに突っ込んでいた。あれ、なんか入ってる。これは……スマホDEマリオネットの受信アンテナ?


「あの……覚えていませんけど……多分聞いてはいないと思います。あの時、私は拒否されたことへの不満で頭がいっぱいだったから……」


 そうだ。あの時の私は不満ばかりで、歩み寄ることをしていなかった。


「なら、とりあえず聞いてみなさい。原因究明はエラー解決のための第一歩だよ」


 斎藤さんは簡単そうに言うが、結構ハードルが高い。果たして話を聞いてくれるのか、そもそも聞いて私が納得するのか……。聞いた結果、さらに関係が拗れるのが怖かった。


「そうですよね。でも、簡単じゃないですよ……」


 ベンチに座ったまま、俯いてポケットの受信アンテナを取り出し両手で弄ぶ。何かしていないと落ち着かない。そんな感じだろうか。受信アンテナを見つめながら続けた。


「怖いんですよ。何もかも。聞いても無駄だとか、意味が無いとか、そんな言い訳ばかり頭に浮かぶんです」


 そんな私を斎藤さんは「青春だねえ」と笑った。


「知っているかい? 誰かに素直に“分からないから教えてください”って聞けるのは人間だけなんだよ」


「……え? それって何の……」


「子に親が狩りを教えたり、泳ぎ方を教えたりと、ティーチングする行為は知られているけど、この地球上、幾千万の生き物の中で人間だけが“教えを乞う”という行動を取るんだよ。つまり、知りたいことがあったら素直に聞く。それは人間の特権であり、人間である証明なんだってさ」


 つまり、知りたいことを聞き返すのは恥ではなく、人なら当たり前の行為だと言いたいのだろう。ふふ、面白い考え方だ。逆説的に、QPに素直に聞けない私は獣と変わらないと言われているみたいだ。


「……まるで誰かの受け売りみたいな言い方ですね」


「事実、受け売りだからね。高校時代の同級生に言われた言葉だよ。僕はエンジニアでね、機械は正直で、こちらが誤った場合はエラーを返してくる。でも、どこが悪いのか聞いても教えてくれないんだ。その度に彼女から聞いたこの話を思い出すんだよ」


「彼女ってことは同級生は女性ですか。……つまり、“それが今のワイフさ”って落ちですね!」


「……え? 違うけど! ただの同級生だし! やめてよ、奥さんに聞かれたら空気悪くなるじゃない」


 違うんかーい! そこはお約束だろうに!


「ご、ごめんなさい。気を付けます」


「ふふっ、まあいいさ。ちょっとは元気が出てきたみたいで良かったよ」


 はたと気が付く。お馬鹿なツッコミが出来るくらいには回復しているってことだ。


「あ、そうですね。少し気持ちが軽くなりました。でも、恥ずかしいです。こんな旅先で初めて会った人に恥を振りまいた気分で……」


「そこは“旅の恥はかき捨て”と言うし、僕も気にしていないよ」


「あー、なんかその言葉って聞いたことあります」


 旅先では開放感で多少の恥も許容範囲、そんな意味だったっけ?


「これに関しても件の同級生が面白いことを言っていたね。江戸時代に旅が庶民の間で一大ブームになった時に出来た言葉とされていてね」


 江戸時代。そんな昔からあった言葉だったんだ。


「当時の日本は各藩で決まり事や習慣は治める大名によって違っていたんだよ。だから旅先で普段と同じ行動を取っても、非常識とか恥ずかしい行為って思われていたんじゃないかってね」


「なかなか面白い方だったんですね」


「そうだね、今は教師になって国語を教えているって聞いたよ」


「そんな先生が担任だったら面白そうですね」


「それはどうだろうね。結構面倒な人だったよ。ところで……」


「はい?」


「久具津さんが手に持っているのって……」


 あ、受信アンテナを弄んでいたままだった。ちょっとマズかったかな? いや、普通に売っているモノだし大丈夫か。


「ただのジョークグッズですよ」

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