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QPと恋するマリオネット  作者: ましだたけし
第八章 夏のアバンチュール。川の流れに身を任せ

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夏のアバンチュール。川の流れに身を任せ Eパート

「(マ、マズい。滝だ! ど、どうしよう)」


 ――耳が痛い。滝の音って、こんな爆音だったっけ?


 恐怖が全身を貫く。来る途中の車窓から見た群青色の滝壺が脳裏に蘇った。ヤバすぎんでしょ! 渦を巻く流れの中を、私はただ必死に掻きむしられるように流されていた。目を開けても水しかなく、息を吸おうにも水が口に入ってくる。上下も分からない。


 もう駄目だ……そう思ったその時、マーくんが最後の力を振り絞ったのが分かった。彼は私を自分の背中側に回し、体勢を無理やり変えた。そして、何か硬いものに激しく体を打ち付けた。


「そこ! 掴まって!」


 マーくんの声が、水の壁を突き破って届く。流されていない? 視界の端で黒い影――いや、倒れた木が川に突き刺さっていた。私は必死にしがみつき、マーくんは強引に倒木の上に自らの身体を引き上げて私の腕をつかみ、ぐいっと引き寄せる。


「絶対に離さないで!」


 水圧で倒木に押しつけられて、よじ登ることもままならない。マーくんの手を死ぬ気で握り返し、必死に耐える。そしてマーくんが力を振り絞って、大根を引っこ抜くように私の身体を倒木の上まで引きずり上げた。二人で肩で息をしながら倒木上で崩れ落ちる。


――生きてる。生きてるんだ、私。


 でも、喜んでいる暇なんてなかった。滝の近くは霧のような水煙が立ちこめ、時間的にも夜が迫っている。雨は弱まる気配もなく、体温がどんどん奪われていくのが分かる。


「ここから動くの、危険だな……」


「ですよねー……」


 マーくんが周囲を見回し、少し上流側を指差す。


「あそこ、岩の陰……小さい穴、見える?」


 言われてよく見ると、岩肌がえぐれていて、確かに小さな洞穴が口を開けていた。


 二人で慎重に移動し、その中に転がり込む。奥行きは五メートルほど、高さは座ってなんとか、というくらいの小さな穴。でも雨は防げるし、奥の地面は濡れていない。


「助かった……」


 そう言っても、身体は震えて止まらない。寒い。服が重い。心臓がまだ暴れている。 皆と連絡を取るにも、スマホは水没を避けるために荷物と一緒にまとめて置いてきたので手元にはない。


 マーくんは腰に巻かれたウエストバッグを漁り、小さな金属片を取り出した。


「ファイアースターターか。さすが真夜ちゃん」


「QP?……それ何に使うの?」


「簡単に言えば濡れても使えるマッチ。真夜ちゃんが持ってて今朝、出かける時に腰に巻いてきたんだけど――」


「え、そんな便利な物がえるんだ……」


「――他には小型懐中電灯にロープ……ああ、非常食は駄目になってるね」


 QP……やっぱりアイツ、なんだかんだで準備が良すぎる。しかし非常食が水で駄目になったのは痛い。


 洞穴内に散らばる乾いた木片を集めていると、指が震えて思うように掴めない。マーくんが私の分まで拾い集めてくれたので、私はなんとか落ち葉を掻き集めた。それらで小さな山をつくり、マーくんが金属片を擦ると火花が散って、数回目で小さな炎が生まれた。


 その光が、妙に綺麗に見えた。


「……あったかい……」


「火があるだけでこんな違うんだな」


 二人で丸くなりながら、揺れる橙色をじっと見ていた。心臓の音が少しずつ落ち着いていく。雨音はまだ外で暴れているけど、この穴の中だけは別世界みたいだ。


「真夜ちゃん怒ってるだろうな……」


「だろうね。アイツ、心配しーだから」


マーくんがふっと笑った。


「君たちって本当に仲が良いよね」


 火の光がマーくんの横顔を照らし、私を見つめる。私はその視線に恥ずかしくなり、そっぽを向く。


「別に〜。普通だよ、普通。それよりなんでウチの学校に入学しなかったの? 高橋も居るし、サッカーも上手いって聞いてるよ」


「あ〜……まあ、家の事情ってヤツだよ。養われている身としては、親の要望を断るには理由がいるんだよ」


「ふ~ん。でもそれで良かったんだよ」


「よかった? なんで?」


「おかげでQPと付き合えた。仮にウチの高校に来てても、QPとは知り合いにはなれても付き合ってたかは不明じゃん」


「ぷっ……くくく。なるほど。一理あるね。……君は確かに真夜ちゃんが言っていたとおりだよ」


「んな! アイツ……私の事なんて?」


「さあね。真夜ちゃんに直接聞いてごらん」


「嫌だよ、恥ずかしいし」


 思わず二人で吹き出した。会話は途切れたり、また思い出したように続いたり。怖いのに、変に落ち着いてきている自分がいた。


「服が乾いてきたね」


「ホント、死ぬかと思った」


 互いに笑いながら焚き火の炎を見つめる。揺れる炎って、なんでこんなに落ち着くんだろうね。


「ねえ、QPとの馴れ初めってヤツを聞かせてよ」


 私のおねだりにマーくんが「それは勘弁」と笑った。炎の影が揺れて、洞穴の中が温かさで満たされていく。


 外の雨音は絶えず強い。でも、ここだけは――二人が生き延びるための時間が存在した。


「QPたち、今何してるんだろ……」

お読みいただきありがとうございました。


タイトルが少しロマンチックな方向へ連想させるところもありますが、実際には自然相手のスリリングな展開へ転びました。

操乃とマーくんが“流れに身を任せる”とはどういう意味だったのか、読んでくださった方の解釈で楽しんでいただけたら嬉しいです。


次回は、夜を越えた後のパートへと進みます。

今日の出来事が二人に、そしてQPたちにどんな影響を残すのか、引き続きお付き合いください。

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