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QPと恋するマリオネット  作者: ましだたけし
第七話 すぷらっしゅ・いん・ぐらす

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33/60

すぷらっしゅ・いん・ぐらす Cパート

「ムっちゃーん、あと一点!」


 インハイ県大会準決勝、後半残り時間わずかでの高橋の同点ゴールで試合は振出しに戻った。応援スタンドに春風桜の声援がこだまする。――アイツ、元気だな。

 ピッチの気温も観客席の熱気も共にヒートアップ。選手たちは汗だくで泥まみれ、必死の形相で走る姿は過酷そのものだ。現在、同点に追いつかれた相手校の猛攻に防戦一方である。


「このまま同点で試合終了したらどうなるの?」


「たしか延長戦は無しでPK戦だったと思う。それでも勝敗がつかなかったら、サドンデス方式のPKかな」


 疑問をQPにぶつけると、スラスラ答えてくれる。サドンデス……なんか強そうな名前だな。口から炎でも吹くのか?

 PKってのはたしか、交互にゴール前で蹴り込むヤツだったはず。


「もうPKとかってヤツでよくね?」


「高橋くん達の考えは違うみたいだよ。動きからしてカウンター狙ってるもん」


「でしょうね。PKだとウチの方が不利そうですものね」


 疲れているだろうし、もうPKでいいじゃんと思ったのだが、QPと麗華の意見は違った。

 PK戦になると運要素は強いが、ゴールキーパーの力量や決定力を考えると、向こうの方が一枚上手で不利には違いない。だから、このままオンタイムで決勝点を決めてしまいたいのだろうとの事。よく分からんが、二人が言うならそうなのだろう。


 胸前で指を組み祈るように見つめる麗華の視線の先には、泥だらけでセンターラインと自陣の間を行ったり来たりする高橋。黄色い声援が凄まじい。それでも疲労の色は遠目に見ても分かるくらいに濃い。それに比べ、先程投入された糸尾は元気そうに走っている。だけど――


「マズいね。糸尾くんがゾーンと上手くかみ合っていない」


 私の疑問を察したようなQPの呟き。ゾーンが何だかは分からないが、やはり周りと連携が取れていないようだ。


 そしてチャンスは訪れた。

 ワッと歓声が一際大きくなる。相手校のシュートを我が校のゴールキーパーが懸命に弾き、それを守備陣がキープして大きく前線へ蹴り出した。

 太田キャプテンがボールを収め、ゴール前を見据える。高橋は走っているが、相変わらずマークが硬い。そこに再び前えと走り込む糸尾。すかさず太田から糸尾へのパス――


 ピー!


 笛の音と共に審判の旗が上がる。

 どよめく歓声。 味方応援団の悲痛な叫び。

 悔しそうな顔の後、項垂れる糸尾。


「えっと、今のは?」


「オフサイド。早い話が反則」


「糸尾、反則したの?」


「糸尾くんが反則をしたってより、反則させられた?」


 意味が分からん。QPから麗華に視線を送ると……


「オフサイドトラップといって、ルールを利用した防御テクニックの一つね」


 つまり糸尾は罠にかかったわけか。


「今の近代サッカーはゾーンディフェンスが主流だからね。リベロ的な動きを求めていた糸尾くんとは相性が悪いんだよ。万年補欠だったのはそれが理由だろうね」


「さっきは意表を突いた形でチャンスを作れたけど、バレたからにはもう……」


 三人の視線の先、糸尾の動きは急に精彩を欠いてきていた。なんだろう、アイツから既に諦めムードが漂っている。

 スタンド前からは桜の「惜しい、あと少し!」や「まだまだいけるよ!」といった声援が飛んでいるが、当の糸尾には届いていないようだ。


 その時、ピッチの糸尾と目が合った気がした。私の場所が分かっている? いや、まさかそんなことは無いだろう。ただの偶然だ。だが、その顔は縋るような、助けを求めるような――雨に濡れた子犬のような表情に、なぜか腹が立ってきた。

 甘えるな、このまま終わってもいいのか! ――と怒鳴りつけたいが、公衆の面前でそれをやる勇気は無かった。その間もプレーは続いている。葛藤している時間は無い。意を決して私はスマホをポケットから取り出した。


「あ、アヤちゃん……まさか!」


 慌てて止めようとするQPを振り切る。私に出来ることなんて、これしか無いんだよ!



***



「こらーー! 糸尾、いつまでヤサグレてるつもりだ!」

「お前が今、一番元気なんだよ! 落ち込むのは試合が終わってからにしろ!」

「残り時間、死ぬ気で走れ!」


 スタンド最前列。フェンスにしがみついて私は大声で叫んでいた。隣の桜が目を丸くしてポカンと驚いているが、気にする余裕は無い。

 ピッチを走る糸尾がこちらを見て一瞬呆けた顔をしたが、ニヤリと笑って猛烈に走り出した。――そうだ、それでいいんだ。

 言いたいことを言い切った後、身体が弛緩して、スマホDEマリオネットの支配から解放された。う、周りの視線が気まずい……桜が何か言いたそうな素振りを見せるが、私は苦笑いを浮かべて肩をすくめた。

 恥ずかしくなった私は、逃げるように最前列から元の席へ戻るべく階段を昇る。背中越しに一際大きな歓声が聞こえるが振り向かない。涙を堪えて私は小さく呟く。背中の向こうで懸命に走っているであろうアイツに届けとばかりに……


「頑張れ、糸尾……頑張れ……」

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