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QPと恋するマリオネット  作者: ましだたけし
第七話 すぷらっしゅ・いん・ぐらす

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32/60

すぷらっしゅ・いん・ぐらす Bパート

「あ……ああ、点取られちゃった」


 競技場に長く尾を引く笛の音が響き渡る。

 0対0で迎えた後半戦。雨上がりのフィールドは完全に泥仕合と化し、両チームとも泥だらけになりながら死力を尽くしていた。

 慣れない芝、重い足場、転がりづらいボール。気温も上がり、濡れたピッチからは蜃気楼のように水蒸気が立揺らめき、まるでサウナのようだ。


 頼りのエース・高橋には三人ものマークがつき、自由に動けない。

 相手チームは交代枠を使い切り、我が校も残り一枠。まさに総力戦の様相を呈していた。

 そんな中、相手校が先制点を奪った。応援団からは悲壮な呻き声が漏れる。


「残り時間はアディショナルタイムを除くと十分くらいしか無いよ。厳しくなってきたね」


 QPが手に汗を握り、唸るように呟く。アディ何とかは分からないが、試合終了が近いのは理解できた。


「糸尾、結局出てこなかったね。ベンチウォーマーって前にアイツから聞いたけど、どこのポジションなん?」


 私の何気ない問いに、QPと麗華が固まって肩を震わせた。周囲の生徒たちまで同じ反応だ。なぜ?


「あ、アヤちゃん……ぷっ、ククク。それ補欠って意味で、ポジションじゃないわよ。ぷふっ」


 麗華が笑いを堪えながら教えてくれる。決勝点を奪われて重く沈んでいた雰囲気が少しだけ和らいだ。結果良し。……悪かったね、知らなかったんだよ!


 私の無知が効いたかどうかは知らないが、試合再開のタイミングで我が校は最後の交代枠を使った事で、応援団のザワつきが大きくなる。


「あ、アヤちゃん。糸尾くんが出てきたよ!」


 QPが嬉しそうに指をさす。ピッチに元気よく走り出た糸尾は、高橋とキャプテンの太田に何やら伝え、そのままポジションに着いた。

 大声援の中、応援スタンド最前列から「ムっちゃん頑張れー!」との大きな声援が響く。桜も懸命に応援しているようだ。


「監督の佐々木先生……勝負に出たわね」


「たしか糸尾くん、リベロ寄りのポジションだよね。密かに攻撃陣を一枚隠して、相手の裏を突く狙いかな」


 麗華とQPの言うことはよく分からないが、ここはウンウンと頷いておこう。


 試合再開の笛とともに、高橋が軽くボールを蹴り出す。攻撃陣が一斉に相手陣地へ雪崩れ込む。残り時間は少ない。まさに背水の陣だ。

 パスを繋ぎながら徐々に相手ゴールへ迫るが、守備を固められ、攻め手が足りない。高橋も厳しいマークに苦しんでいる。時計の針だけが無情に進む。


「行けー、ムっちゃん!」


 桜の絶叫とともに歓声が沸き起こる。相手守備陣の裏を狙ってオーバーラップした糸尾が、ゴール前へフリーで走り込んだ。

 慌てて高橋のマーク三人のうち二人が動く。一人は糸尾に寄せ、もう一人はコースを塞ぐ位置へ。

 キャプテン太田から鋭いライナー気味のセンタリングが放たれた。


 走り込む糸尾。そこに身体をぶつけながらカットに入る相手選手。

 一瞬早く伸ばした糸尾の足が――空を切った。

 歓声と悲鳴が入り混じる。スローモーションのように、糸尾の足先をすり抜けていくボール。


 ピーーーー!


 笛の音。スタンドが爆発した。

 同点ゴールが決まった瞬間、私とQPと麗華は思わず抱き合っていた。


 はっきり言ってスタンドからは全体はよく見渡せるのだが、細かいプレーは全くみえない。

 私からは糸尾がボールに向かって足を伸ばしたが空振りした後、ボールを見失っていた。気が付いたらスタンドが揺れるような大歓声と笛の音。見るとボールが転々とゴールポストの中を転がっていた。

 高橋がガッツポーズを掲げてチームメイトが駆け寄りてんやわんや。そして私の両側からQPと麗華に暑苦しくも抱きつかれている状況だ。

 一瞬の出来事で、私には何が起きたのか把握できていなかった。


「今のどうなったの?」


 困惑する私に、抱きついていたQPが説明してくれる。


「糸尾くんが相手を引きつけてスルーしたから、フリーになった高橋くんが決められたんだよ。……多分」


 ピッチの中央で揉みくちゃにされる高橋と糸尾。詳しくは分からないが、糸尾が同点ゴールの立役者になったことだけは理解できた。最前列の桜も大騒ぎしているのが見える。


 なんだろう、胸の奥から熱いものが込み上げてきて、自然と笑みがこぼれた。


「やれば出来るじゃん、糸尾……」

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