恋に臆病ならスマホであやつればいいじゃない! Cパート
翌日。英語の授業が始まると、予定通り私はリーディングに指名された。予めQPに預けておいたスマホからの命令メッセージを受け取り。スマホDEマリオネットによる自動読み上げ作戦は無事に完了した……はずだった。
「ばかばか、QPのバカ~! 大恥かいちゃったじゃない。important《重要》の所をimpotenz《勃起不全》って間違えて入力するとか、狙いすぎでしょ!」
「ゴメンゴメン。でも男子には超ウケてたし。特に糸尾くんとか笑いすぎて腹筋崩壊してたし、つかみはバッチリだったよ!」
授業直後の休み時間、ポカポカと叩かれながらもシャキーンと親指を立てるQPの後頭部を、私は履いていた上履きでスパコーン!と張り倒した。
昨晩、私とQPはスマホDEマリオネットの自動読み上げに備えて命令メッセージの打ち込み作業に没頭していた。指定ページ分の入力は大変な作業で、試しに平仮名や片仮名で入力したところ、粗悪な読み上げツール顔負けの棒読みになってしまった。よって全ての英文を直接打ち込む必要があり、その結果、二人で交互に休憩しながら二時間もかかった。
QPは後半、ウトウトと船を漕ぎながらの作業。その際に神の悪戯か、それとの悪魔の囁きか。あってはならない綴りミス。その結果、今回の不幸が起きたのだ。
「あなたたち、危ないから廊下で騒がないでくれる?」
背後の声に振り向くと、学校でも有名な美少女が困った顔で立っていた。
「あ、生徒会副会長さん」
「麗華……。相変わらず真面目ぶりっ子だな」
彼女は私の小学校からの幼馴染、田中麗華。我が校の聡明な生徒会副会長だ。しかし幼馴染が親友というわけではない。どちらかというと、私は彼女が苦手だ。
「久具津さん、あなたも相変わらず騒がしいわね。Q……白井さん、この人とのお付き合いも程々にしないと痛い目に遭うわよ。私みたいに」
「なるほど。確かにアタシも今日の英語の授業で馬鹿やってる人を見ま――はう!」
シャキーンと親指を立てたQPを、私はローキック一発で黙らせた。余計なことを言ってんじゃないし。
「で、とても立派な人格者である副会長さまが、卑しいワタクシめに何のご用ですか?」
「別に。教室移動で廊下を歩いていたら、騒いでいるあなたたちを見かけたから注意しただけよ。自意識過剰ね」
ああ、やだやだ。昔からこうだ。品行方正で私と正反対だ。こんな完璧超人のどこがいいのか、告白して振られた男は数知れず。我が校の撃墜王だ。まったく羨ましい……じゃない、ムカつく。
「そうですか。失礼しました。お手を煩わせて申し訳ない。さあ、どうぞ行ってください。もうすぐ予鈴が鳴りますよ」
「あはは、ごめんねー、副会長さん。気をつけるよ~」
「以後気をつけてください。……あなたが少し羨ましい」
去り際、小声で何か言っていた気がしたが、どうせ碌でも無い事だろう。私は麗華の背に舌を出して見送った。横でQPは能天気にいつまでも手を振っている。むむむ、なんだか気になる。
「アンタ、アイツとそんなに仲良かったっけ?」
「え~? 普通だよ、普通」
「お前は相変わらず仲悪そうだけどな」
誰だ、乙女の会話に割り込む無粋なやつは。肩越しに振り返ると、クラスメイトの糸尾紡久が笑いながら「よ!」と手を上げていた。
「あ~、糸尾くんだ~ お腹大丈夫?」
「なんだよ。どうせ糸尾も麗華の肩を持つんだろ?」
「そんなことはない。田中もお前に対して当たりは強いよな。まあ、仲良くやれよとは思ってるけどさ」
「男はどうせ美人の味方だ。信用できるか」
「いや、俺は……まあいいや。それよりさっきの英語の授業は最高だったな。また面白いこと頼むぜ」
笑いながら立ち去る糸尾の背中めがけて、手に待っままだった上履きを振りかぶった。
廊下にスパーン!って音がやけに響いた。




