恋に臆病ならスマホであやつればいいじゃない! Bパート
「まぁまぁ。飲み物でも奢るからさ。お願い、手伝って、真夜チャン」
「普段、アタシのことを真夜なんて呼ばないくせに、調子いいよね」
最初に出した紅茶はとっくに飲み終えていた。まだ夜は長い。そろそろ追加の飲み物を用意する時間だ。「え〜嫌だなあ」とぶつぶつ言いつつも、頭に受信機をつけているQPは相変わらずノリがいい。
「じゃあコンビニまで買い物お願いしよっか。QPは何が飲みたい? さっき言ったけど奢るし」
「ん〜……アタシはペペシNAXがいいかな」
「おけおけ、これ財布ね。ほんじゃ……『近所のコンビニまで買い物。午前の抹茶とペペシNAXを急いで買ってくる』っと。よし、メッセージ送信!」
スマホから命令メッセージを送った瞬間、QPの体がビクンと反応した。最初はゆっくり立ち上がったように見えたが、瞬時にものすごい勢いで部屋を飛び出し、階段を駆け下りていく。階下でバタンと玄関が閉まる音が響いた。
「操乃! こんな遅い時間に何やってるの、降りてきなさい!」
お母さんの声が聞こえる。相当にお冠のようだ。冷や汗をたらりと流し、恐る恐る時計を見ると夜の十一時を回っていた。
一階で軽くお母さんに説教され、廊下に出たところでQPが戻ってきた。静かに二階の部屋まで二人で戻る。
「いやぁ、『急ぐ』なんて書いたら酷い目にあったわ」
眉をハの字に寄せてQPが「たはは」と笑う。いやいや、ひどい目にあったのは私の方だ。さっきお母さんに怒られていた話をしながら、午前の抹茶と預けていた財布を受け取る。
「あれ、なんか残金がずいぶん減ってるんですけど……」
財布の中身を確かめると、お札が崩されていた。
「……あー、うん。まぁ、タクシー使ったから……」
「な、ど、どういうこと?」
私はガシッとQPの両肩に手をかけ、かっくんかっくんと揺さぶって問いただす。
「あわわわ、知らないよ。勝手に体が動いてタクシーを止めたんだもん。必要以外全然喋れなかったし。アタシだって五十メートルぽっちの距離のコンビニにタクシー使うとは思わなかったよ。しかも往復!」
QPが親指を立ててピキーン!とサムズアップする。お母さんに怒られ、お金を散財し、私の心と財布にクリティカルヒットが入り、崩れ落ちそうになるのを必死で堪えた。
「く、いやいや、これはこれでオッケー。この程度の被害で弱点を把握できた。ある意味ラッキーだ」
「アヤちゃん、ポジティブ! かっきー」
QPに冷やかされながら、なんとかモチベーションを保つ。とにかく私は様々な命令パターンをスマホに打ち込み、QPに実行させて検証していく。そして一つの結論に至った。
これは思ったより深刻だ。どうやらこのスマホDEマリオネットというガジェットは行動を細かく設定してやらないと、手段を選ばず最効率で動くらしい。ある意味優秀で、ある意味お馬鹿だ。扱いが難しい。
「よし、次のミッションいくよ。今度は私が受信側をやる」
「いいよ、何やるの〜」
「明日の英語の授業、リーディングの番が回ってくるんだよね。私って英語が苦手でしょ? いつもなら憂鬱になるところだけど、今回はスマホDEマリオネットを使って無事にクリアするつもり!」
「え〜、だってさっきアタシ、命令中は自由に喋れなかったよ?」
「セリフに該当する言葉は鍵括弧で括れば喋らせられるんだよ。それでね——」
「ふむふむ——」




