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QPと恋するマリオネット  作者: ましだたけし
第三話 バレンタイン?そんな場合じゃねえ

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15/30

バレンタイン?そんな場合じゃねえ Eパート

第三話最後のパートになります。

「姉さん、友達に上がってもらうから、後はよろしく!」


 私とQPとジュニアは、口を開けたまま玄関先に突っ立っていた。ジュニアは舌まで出てるけど。  誘拐されたはずの高橋が、目の前で普通にスリッパを出して家の奥に声をかけている。いや待て、まだ分からん。私はQPにこっそりと耳打ちする。


(コイツ、本当に高橋かな? 誰かの変装で私たちを騙しているとか?)


(ええ、何それ、怖い。つまりアタシ達の事も調べが付いてるって事?)


「えっと? 外は寒いから、とりあえず入って。俺は荷物を取りに学校に戻るから」


 ジュニアを庭先に繋ぎ、私たちを家に招き入れた高橋は、私たちの態度に困惑していたが、さっさと外出していった。まあ、ジャージ姿で着替えもカバンも学校だしね。 呆然と半信半疑で見送る私たちの背後から、朗らかな声が響く。


「あら〜、可愛らしいお客さんね。洋輔のお友達? いらっしゃい!」


 そう言ってリビングに通してくれたのは、上品なワンピース姿の女性。そしてソファに座る大柄な外国人の男性と――麗華だった。  意外な展開に、一瞬言葉を失う。


「え、れ、麗華? なんでここに?」


「えっと……それは、その……」


 麗華が言いづらそうに視線を逸らすと、女性がにこやかに続けた。


「私は洋輔の姉の瀬里香。普段はアメリカに住んでるんだけど、ちょっと前から休みで夫と帰国してたの。彼が夫のジェイソンね」


「ジェイソンデース。ヨロシクゴザイマス」


 変なカタコト日本語のジェイソンさんが立ち上がって、握手を求めてきた。


「つい先日、洋輔から紹介してもらった麗華ちゃんとショッピングモールでバッタリ会ってね。バレンタインのチョコを買いに来たって言うから、連れて来ちゃった」


 テヘペロする姉。いや、いい大人がやっても可愛くないし!  麗華のことは分かった。だが、高橋拉致問題はどうなってるんだ?


(アヤちゃん、これ……もしかして誘拐した外国人って……)


(そうか! ジェイソンさん!?)


 ヒソヒソと話す私とQPを、不思議そうな眼差しで小首を傾げる瀬里香さん。いっそのこと、正面から聞いてみようかな。


「あ、あの〜、私たち洋輔くんが誘拐されたって聞いてて……もしかして犯人はジェイソン……さん、ですか?」


「誘拐? 何それ。私は洋輔を迎えに行ってってジェイソンにお願いしただけだけど?」


「オー! ヨスケ、オモチカエリ、イタシタヨ!」


「学校に迎えに行ったんでしょ?」


「オウ、ヨスケ、リバーサイドランニング。ブカツブカツ、イテタヨ」


「ジェイソン! あなた、無理やり連れてきたの?」


 夫婦のやり取りに、場の全員が固まる。 まさかのカルチャーショック。単なる認識違い? てか、私たちの心配や苦労は何だったの?

 でもなんだろう、大きな身体を小さく縮めて瀬里香さんに怒られているジェイソンさんの姿がコメディみたいで内心笑いを堪えるのが大変だ。


 そんな私たちの前で、麗華が小さく手を挙げた。


「あの、その……私が洋輔くんにチョコを渡したいって話をしたら、瀬里香さんが『なら一緒に手作りしよっか』って誘ってくれて……まさかそんなことになってるとは……」


「ジェイソンが迷惑かけちゃったみたいね……ほんとごめん!」


「ソーリー、ソーリー!」


 三人が頭を下げる。怒る気にもなれず、私はため息をついた。


「つまり、誘拐の真相は“姉の善意と旦那の暴走”ってことね」


「イエス!」


「黙ってて、ジェイソン!」


 ついにQPが笑いをこらえきれずに吹き出した。


「ぷっ……なにこの展開。映画化できるよこれ」


そんな中、姉が手を叩いて明るく言う。


「じゃあせっかくだし、みんなでチョコ作りましょうか!」


「あ、私ちょっと糸尾に電話するわ」


「あー、糸尾くんまで巻き込んでたのね。本当にごめんね」


 糸尾に電話し、事情を簡単に説明すると、笑いながら「無事でよかった」と言ってくれた。糸尾は学校で高橋の無事を確認してから帰宅するとのこと。チョコレート渡せなかったな……


 電子レンジでチョコレートを溶かしていく。私が買った安物のチョコレートも砕いて、一緒に混ぜさせてもらった。 溶けたチョコの甘い香りが立ちこめ、ボウルの中に反射する白いライトが眩しい。


 私はQPを連れてキッチンの隅に陣取る。


「……アヤちゃん、何するつもり?」


「スマホDEマリオネットを使ってチョコを強制的に撹拌したら、エアインチョコができないかな?」


「マジ? それいいね、夢にまで見たエアインチョコ! ぜひやってみよう!」


 超乗り気でQPが命令文を書き込んでいく。私が受信アンテナを頭に装着すると、「いっくよ〜」と言ってQPが命令文を飛ばした。


(うおおおお、やばい、これかなり腕がキツイ! でも止まれない! QP、ストップストップ!)


「ぐふふふふ、エアインチョコ、エアインチョコ……」


(ヤバイ、完全に目が逝ってる! お願い、止めてー!)


 結局三分くらい、全力で泡立て器を回し続けた。腕は乳酸でパンパンになり、急性筋肉痛まっしぐらだ。


 結論を言うと、そんなことでエアインチョコはできないらしい。瀬里香さんいわく、お酢と重曹を使って擬似的なのは作れるけど、分量の調整が難しいらしく断念。


 「エアインチョコ製作の野望が霧散した〜」


「エアーだけにね(笑)」


 QPがかなりガッカリしていたが、そんなこんなでチョコレートは完成した。




「ただいまー」


「洋輔が戻ったみたいね」


 玄関の方から高橋の声がして、ドタドタと足音が近づく。何やら話し声が聞こえる。あれ、一人じゃない?


「お邪魔します。……って、なんか甘い匂いすんな」


「糸尾! 帰ったんじゃなかったの?」


「ああ、帰ろうとしてたのを俺が誘ったんだよ。糸尾から聞いたよ。まだチョコレート渡してないんでしょ?」


 糸尾が「馬鹿、言うなよ」と高橋を肘で小突いている。いや、私の方こそ恥ずかしいじゃん!  するとQPがニマニマしながら言ってくる。


「アヤちゃん、よかったじゃん。当日に渡せないってしょんぼりしてたし〜」


「し、してないし! まあ、せっかく来たんだしやるよ」


 チョコをぶっきらぼうに差し出す手が震える。これは筋肉痛のせい? それとも……。糸尾の目が見れない。心の準備ができてないのに……なんだろ、胸がギュっと締め付けられて苦しい。

 隣では、私たちと違って自然な感じで高橋にチョコを渡す麗華。ねえ、麗華……アナタは苦しくないの?


「いやあ、微笑ましいですなあ〜」


「本当ね。まさに青春ね」


 さらに横でQPと瀬里香さんが好きなことを言っている。くうぅ、ただチョコを渡すだけなのに、めっちゃ恥ずかしい!


 こうして私たちのチョコレート手渡しイベントは無事に終了した。高橋の件は驚いたけど、麗華の幸せそうな笑顔を見ていると本当に高橋が無事でよかったと思えた。

 今回の事件で私たちの絆は少しだけ強まったのかもしれない。


 今日は聖バレンタインデー。春を前にまだ寒いけど、少しくらいはアツアツな日でありますように――。

というわけで、第三話はこれにて完結です。

結果的に“誘拐”ではなく“誤解と善意の連鎖”だったというオチでしたが、操乃たちにとっては貴重な一日になりました。

高橋姉夫妻の登場で世界が少し広がり、麗華と操乃、そしてQPとの距離も一歩近づいた感じです。

次回からは、バレンタインの余韻を残したまま新しい動きが始まります。お楽しみに。

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