表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
QPと恋するマリオネット  作者: ましだたけし
第三話 バレンタイン?そんな場合じゃねえ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/31

バレンタイン?そんな場合じゃねえ Cパート

「確かあれは……ワイルド・リースの車だと思う」


 高橋洋輔がサッカー部の活動中、校外ランニング中に誘拐された。離れて走っていた他の部員たちは急いで現場に駆けつけたが、足元に落ちていた高橋のタオルを残して、車は走り去ってしまったらしい。


 日差しは少しずつ春めいてきたとはいえ、まだ二月。夕方が近づくにつれ寒さが増してくる。冷たい風が吹き荒ぶグラウンドで、私はQPと共に糸尾の案内でサッカー部員たちから話を聞いていた。


 犯人は黒い国産車を使っていたことと、男の外国人だったこと等、確定情報は少ない。そんな中、複数の部員が口を揃えて言及したのが「ワイルド・リース」。最近流行っているカーシェア型レンタカーのステッカーが貼られていたという。


 さらに、一人だけナンバープレートの末尾二桁が“00”だったと覚えていた。


 QPがスマホを取り出して何かを調べ始めたので、私は気になっていたことを糸尾に尋ねた。


「糸尾、高橋くんのスマホに電話はしたの?」


「部活中だぜ? スマホは部室のロッカーだよ。それより、実は高橋が連れ去られた時……」




『俺は大丈夫だから、皆は先に帰ってくれ!』




「って叫んでたんだよ」


「何それ?」


「分からん。アイツなら強引に突破できたと思うんだけどな。多少抵抗しただけで、車に連れ込まれたように見えたのも気になる」


「アヤちゃん、この近くにあるワイルド・リースのステーションは五箇所だね。回ってみる?」


 お、QPのやつ、そんなこと調べてたのか。偉いぞ! 五箇所なら、この時間でも何とか回れそうだ。


 私はサッカー部の面々に礼を言い、少し調べてから警察や学校にはこちらから連絡すると約束して、解散させた。


「車を探すんなら俺も手伝うよ。部室で着替えてくるから、校門で待っててくれ」


「分かった。その間に麗華に話をしてくる」


 糸尾がレンタカー探しを手伝ってくれると言ってくれた。ちょっとした気遣いだが助かる。糸尾が着替えている間に麗華と話をしよう。麗華のヤツ、卒倒しないだろうか?


 高橋が落としたとされるタオルに付いた泥を、パンパンとはたき落として綺麗に畳んで抱えたQPと一緒に、生徒会室へ向かった。






「田中副会長なら、今日はもう帰りましたよ。ショッピングモールでチョコレートを買うとか言ってました」


 ドアをノックした私たちを出迎えてくれたのは、書記の後輩ちゃんだった。麗華のヤツ、珍しく早く下校したと思ったら……チョコレートか。


「レーカちゃん、まだ買ってなかったんだ」


「アイツにしては珍しいな。今日はバレンタインデー当日だぞ?」


「あはは……卒業式を控えてて、生徒会は忙しいんですよ。それに私たち一年が不慣れで、副会長の負担が大きくて……」


 申し訳なさそうな後輩ちゃん。あれ、生徒会長はどうした?


「そんなに忙しいのに、なんで高橋くんは部活を?」


「それが……会長はスポーツ特待生なので、学校から生徒会活動は週二日って言われてるんです」


 シュンとしながら、後輩ちゃんが乾いた笑顔で教えてくれた。君も疲れてそうだね。ありがとうと礼を言って、私たちは生徒会室を後にした。


 校門へ向かう足取りは妙に重い。心の中で色々と葛藤していて、胸の奥がシクシクとする。


「麗華に連絡するのは、もう少し様子を見てからにしよう」


「そだね〜。幸せ気分で高橋くんのためにチョコ選んでる最中に、谷底に突き落とすようなことはしたくないよね〜」


 早く知らせた方がいいと思う一方で、麗華の気持ちを考えると躊躇してしまう。どっちが正解かなんて、私たちには分からなかった。


「そういえばさ、アヤちゃんはチョコもう買ったの?」


「ん〜、まあ安物の板チョコを一枚だけな」


「ムフフ、やっぱ糸尾くんにあげるの?」


「さ、さあね〜。自分で食べようかな〜……でもなんか、それどころじゃなくなったよね。QPは?」


「マーくん他所の学校だから、渡せるのは週末かな〜。本当はエアインチョコを買いたかったんだけど、売り切れてたのでガッカリ〜」


 昇降口で靴に履き替え、夕暮れの校舎を出る。一瞬冷たい風が吹き抜け、身を縮めた。見据えた先の校門で待っていた糸尾が、手を振りながら「お前ら、遅いぞー」と叫んでいた。

 西の空は徐々に暗さを増し、胸の奥の不安をそっとかき立てた。

 それでも――今は出来ることを、やるしかない。


「そっか。……高橋、無事だといいな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ