幕間
初めに、神は天と地を分かち、秩序の理を刻んだ。
神は言われた――「混沌たる影は、永遠に退けられねばならぬ」と。
だが、影より生まれし存在は、神の言葉を拒んだ。
影は深き闇に潜んで呻く。
呻きはやがて身体を持ち、神の敵となってこの世界に解き放たれた。
それは牙を剥き、爪を振るい、光を呪い、混沌の声を掲げて秩序を嘲った。
ゆえに神は、人を創り、己が息吹を与えた。
そして告げた――「汝、我が子よ。剣を執り、祈りを掲げ、我が敵を討ち、我が秩序を護れ」
人は応え、祈りを捧げ、神の加護を受けて剣を振るった。
神の御名の元に、奇跡は鋼を裂き、神の敵を砕いた。
血戦の末に、秩序は地に根づいたが、影はなおも抗い続ける。
されど、神は語らず。
その沈黙の狭間に影は息づき、深淵より世界を蝕まんと欲す。
ゆえに教義は告げる。
「神の敵を討つこと、すなわち神への奉仕なり。異端なる者、火により贖うべし」
光はすべてを照らす。
――神聖の書 退魔の節 第一章より
Θ Θ Θ Θ Θ
我は、テラグナス。
眠くなったら寝る。
陽が落ちてから起きる。
暴れたいから暴れる。
腹が減ったら好きなだけ喰らう。
我は、我が思うままにしか生きられない。
自由こそが何よりも尊い。
光の神は秩序を重んじる。
秩序とは自由を縛る鎖である。
ゆえに、影の神こそが我らの神。
影の神は、欲望を咎めぬ。
傲慢であろうと、強欲であろうと、憤怒に駆られる者も、嫉妬深い者も、色欲に溺れる者も、暴食に怠惰まで、全てを赦す。
影の神がもたらす混沌の中にこそ、我の求める自由がある。
さて。
ずいぶんとぐっすり眠っていたようだ。
そろそろ、腹も減ってきた。そんな気がする。そうだ、減ったのだ。
目覚めたついでだ。
なまった身体を動かすために、狩りにでも行こう。そうしよう。
光の神の眷属共が集まっている巣。
あれがいい。
あの光の残り香がする巣を。
忌まわしき秩序の臭いが染みついた巣を。
秩序を尊び、混沌を拒絶する愚か者どもよ。
我が血肉となれることを、震え喜ぶがいい。
狩りの前には腹ごしらえが必要だ。
まずはこの辺りにいる獲物で、小腹を満たすことにしよう。
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