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7.ぜんぶイノシシのせいだ


 慌てない。慌てない。

 どうせアントラービットは直線に突撃することしかできないんだ。

 まずは横に跳んで回避!


 スライムのときより、ちょっとだけ動きが素早くなった気がするのはパラライムに進化したおかげかな。


 落ち着いて麻痺液を生成しつつ、もとの場所――麻痺したアントラービットの顔の上――に再び陣取る。


 仲間を助けようと、もう一度こちらに走ってきたアントラービットに、今度は真正面から麻痺液を噴射。しっかり頭部に直撃。

 脚が麻痺したらしいアントラービットは、ふらふらと酔っぱらったように減速し、そのまま地面に滑り倒れた。


 もう一匹が戻ってきたときのため、黙々と麻痺液を生成しながら、順番にアントラービットの顔の上に乗っかっていく。


 よいしょ。よいしょ。

 ふぅー。ひと休み。ひと休み。


 結局、4匹目が戻ってくることはなかった。

 きっと3匹目がやられたのを見て諦めたんだろう。

 モンスターたちの判断はドライだ。


 そして!

 そしてそして!


 ついに3匹目で新たな神の啓示が、キターーーーーッ!!


【しゅぞく<スライム>れべる3】

【<ポイズライム>にへんしんか】

【アビリティ<どくえき>をかくとく】


 淡い黄色だった視界が、一瞬にして半透明の紫色に変わった。

 なんかちょっと暗い。ただでさえ森が暗いのに、視界まで暗くなってしまった。


 見づらいってほどではないんだけど、気分的には明るい方が良かったなあ。


 新しいアビリティは……毒液か。

 この身体の中で毒を作れちゃうわけだ。

 今さらだけど、進化すればするほど、どんどん人間じゃなくなっていく気がする。


【――りじゅっぷん】


 えっ?

 今なんて?


 さっき啓示があったばっかりだから、すっかり油断してた。

 だって、このタイミングでもう一回くるとは思わないじゃん。


 もう一度!

 お願い、もう一度だけでいいから!


「ぐあああっ!」


 どこかで野太い声がした。

 ずっと静かだった森の静寂を破る、生々しい苦悶の叫び声。


 いったい、今度はなに!?

 こっちは神さまにもう一度だけ啓示を貰えるよう、真摯にお願いをしているところなんだけど。


「きゃあああああああっ!」


 今度は女の子の悲鳴!?


 もしかしたら、モンスターに襲われているのかもしれない。

 あー、もう! 神の啓示なんか後だ! 急いで助けに行かなくちゃ!


 僕は声のした方に跳んで向かう。

 うん。やっぱりスライムのときより軽快だ。

 一度のジャンプで進める距離が1.5倍くらいになってるもん。


「グオオオオオオオォォォォッ!」


 現場はすぐ近くだった。

 魔の森を抜けた先、街から僕らの村へと向かう街道に大きなイノシシがいた。


 あれ、いつの間に!?

 ずっと森の中にいたから気づかなかったけど、太陽がずいぶんと高い位置にある。


 まばゆい陽の光に照らされているのは、鎧ほどにも硬質な外皮を持つイノシシ。

 アーマードボアだ。


 恐らくは、この鎧イノシシにやられたのだろう。

 ピクピクと痙攣している馬が2頭と、キャビンごと横転している馬車が1台。

 御者はいない。どこか遠くに吹っ飛んだのか。それとも逃げてしまったのか。


 街道とはいえ、モンスターだらけの森の横を通ればこういうこともある。というか、よく起こる。

 だから、街道を移動するときは護衛をつけるのが常識なんだけど……あっ、いたいた。

 ちょっと離れたところにある木に、武装した男性がもたれるように座り込んでる。どうやら気絶してるっぽい。


 そっか。さっきの野太い『ぐあああっ!』って悲鳴は彼のものだったのかも。

 アーマードボアの突進をもろに喰らって、吹っ飛ばされたのかな。ご愁傷様です。


「フゴッ、フゴッ!」


 鼻を鳴らすアーマードボアが、後ろ足で地面を蹴りながら、馬車のキャビンに照準を合わせている。


 だけど、そんなことはこの僕が許さない。

 華麗にジャンプした僕は、アーマードボアに麻痺液を発射。

 足がもつれて倒れたところに近づいて、毒液を顔面に吹きつけてやった。


 みるみるうちに顔色が土気色に変わっていく。

 動けない状態で、毒に蝕まれていく恐怖を思い知るがいい!

 フハハハハハッ!!


 しまった。これじゃ僕の方が悪役みたいじゃないか。

 モンスターには違いないけど。



 キャビンの方を見ると、かわいい服を着た可憐な少女が、大人の男性に手を引かれて出てくるところだった。


 ブロンドの長い髪に、蝶の髪留め。透きとおるような白い肌。

 村では見たことのないほど、美しい少女だ。


【のこり1ぷん】


 再び、神の啓示が頭に響いた。

 もちろんレベルアップの通知ではない。

 目の前にいるイノシシはまだ息がある。


 そして今回はハッキリと聞こえた。

 これは【残り1分】だ。


 なにが!?

 なにが残り1分なんだよ。


 なんだか嫌な予感がする。

 ひとまず、どこか人目のつかない場所に行こう。


 ブロンドの美少女と、一瞬、目が合った気がした。

 今の僕には核しかないから気のせいだ。わかってる。


 ピョンと草むらに入って、魔の森の中へと戻った数秒後。

 僕の身体に、異変が起きた。


 ぐんぐんと目線が高くなる。

 紫がかっていた視界が、鮮明に見えるようになった。


 右手、ある!

 左手、ある!!


 右足も! 左足も!

 目も、鼻も、口も、ぜんぶある!!


 喜びの感情が、胸の奥からこみあげてくる。

 なんと僕は、スライムから人間の姿に戻れたのだ。

 ……本当に、…………元に戻れたんだ。


カクヨムにて先読み更新中

→https://kakuyomu.jp/works/16818792437653682620

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