6.ぜんぶ神の啓示のせいだ
頭に響いた神の啓示をきっかけに、夢の中で聞いた声もハッキリと思い出した。
【しゅぞく<スライム>れべる1】
【<スライム>にへんしんか】
【アビリティ<ようかいえき>をかくとく】
そして、今回の啓示がコレだ。
【しゅぞく<スライム>れべる2】
【<パラライム>にへんしんか】
【アビリティ<まひえき>をかくとく】
比べてみると、どうやら僕はレベル1から2へと上がったらしい。
その結果、ただのスライムから<パラライム>とやらに進化したようだ。
視界が薄い青色から淡い黄色になったのも、身体の色が変わったせいみたい。
もしかして、レベルが上がれば上がるほど、より強いスライムに変わっていくのだろうか。それは……正直、ちょっとテンション上がるかも。
ともあれ、レベルが上がったということは強くなったってこと。
ただのスライムとして生きていくことに大きな不安のあった僕としては、レベルアップによって強くなっていける可能性を知ったのは大きい。
もちろん人間のままの方が良かったけど、どうにもならないならスライムとして強くなっていく道を突き進むしかない。
さてさて。アビリティの<まひえき>は<麻痺液>だよね。きっと。
じゃあ『へんしんか』は……変身のこと? 進化のこと?
……あのさあ、神さま。
啓示はありがたいんだけど、声だけだとちょっと分かりづらいんだよね。
というか、そもそも全体的に説明不足だと思う。
でもって、質問したって答えてくれたりはしないじゃん。
いつもの『神は語らず』ってやつだ。
もっとアントラービットを倒したら、もっともーっとレベルを上げられるかな。
そしたら次はどんなスライムに進化するのか、期待に胸が膨らんでいる。
ちょっと前まで、この世の終わりみたいな気持ちだったのに、我ながらポジティブな性格をしていると思う。
スライムの胸はどこにあるのかって? 知らないよ。神さまにでも聞いてくれ。
きっと新しいアビリティも獲得できるんだろうし、とにかくやるしかない。
そうさ。木の上から獲物を探して、不意打ちでアントラービットを窒息死させていけば、レベルアップはそれほど難しくはない。そんな気がする。
いや、きっといける!
そうと決めた僕は、さっそく木の上へと登っていく。
さらに枝から枝へと移っていき、次なる獲物を探しはじめた。
お目当てのウサギちゃんは、すぐに見つかった。
そこまでは良かったんだけど……、ちょっと数が多い。
家族なのか、仲間なのか、4匹が群れをなしている。
僕がこの身体で包み込めるのは1匹が限界だ。
しかも、そいつを仕留めるまで僕はとくに動くことができない。
その間に突撃されれば、大ダメージどころか核を破壊されて死んでしまう可能性まである。
でもまあ、今回は考えるまでもないな。
早速だけど使ってみよう。新アビリティ【麻痺液】を!
モシャモシャと草を食んでいるアントラービットに気づかれないよう、ゆっくりと移動していく。移動するときに音がしないのはスライム種のメリットだね。
奴らもまさか上から狙われているとは思ってもいないようで、僕が真上に来ても悠長にお食事中。ふっふっふ、これが最後の晩餐となるとも知らずに。
はいはーい。それじゃ、お食事中に失礼しますよ、っと!
圧縮、収束。ずいぶんと慣れてきた。
今回は溶解液じゃなく、麻痺液として調合する。
これも自分のアビリティとして意識していれば、すんなりと出来てしまう。
もうすっかりスライムなんだなあ。
生成した麻痺液を、真下にいるアントラービットを目掛けて、容赦なく発射した。
これでもくらえっ!
キュッと小さな悲鳴を上げて、アントラービットの身体が弛緩した。
不審に思った一匹が近寄ってきたところにもう一発!
あっという間に二匹を無力化。
残りの二匹は、さすがに自分たちが置かれている状況を把握したみたいで、痺れて動けなくなっている仲間たちを置いて、草むらの中にサッと逃げていった。
木からぴょんと飛び降りて、ぷにゅっと地面に着地した僕は、痺れて動けなくなった無力なアントラービットの頭部をやさしく包みこんだ。
呼吸を塞ぐためだから、やっていることは全然やさしくない。むしろ残酷。
ジタバタと暴れていた1匹目とは違って、麻痺で動けなくなっているコイツは鼻と口だけ塞げば十分。
念の為、そばで倒れているもう一匹にダメ押しの麻痺液をぶっかけておく。
麻痺が解けて、急に襲いかかられても困るしね。
いーちー、にー、さーん、しー、ごー。
覆いかぶさっている間、ピクピクと動いていたアントラービットが力尽きたのは、だいたい1分くらい経った頃だった。
残念ながら、神の啓示は聞こえてこない。
2回目のレベルアップには、1回目よりも多くの経験が必要みたいだ。
もっと神の敵を斃しなさい、ということですね。わかります。
続けて、隣で倒れているアントラービットの頭部へと飛び移る。
そのときだった。
ザザッと草むらが揺れ、さっき逃げたはずの一匹が勢いよく飛び出してきた。
うそっ!?
まさか仲間を助けに戻ってきたの?
今後は僕の方が、お食事中に失礼されてしまった。
カクヨムにて先読み更新中
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