33.せんぶ時間のせいだ
【のこり1ぷん】
頭の中で、無機質に響く神の啓示。
そういえば、さっき【のこり10ぷん】という声が聞こえていた気がする。
1分……。
残っているグリーンズリー三匹を1分以内に倒さなくてはならない。
いや、ここを何とか切り抜けたところで、村にたどり着くまでにモンスターと遭ってしまったら、生身の僕に勝ち目はない。
だったら、モンスターの身体がある今のうちに逃げた方が……。
いや、この身体でたったの1分逃げたところで大した距離は稼げない。
やばい。
やばい。やばい。やばいっ!
とにかく、今は目の前にいるグリーンズリーを倒すしかない。
そのあとは全力で走って村を目指す。それ以外にできることなんてない。
(ああああああっ!!)
全身の骨が震えるほど、力を込めて剣を握る。
気迫に押されたのか、一匹が後ずさった。
すかさず飛び込んで剣を振るう。
さっきまでのように、がむしゃらに振るうのではなく、眉間と鼻を狙って振り下ろす。パッシブアビリティ<剣術(初級)>が身体を導き、剣閃がグリーンズリーの鼻頭を裂いた。
「ぐぎゃっ」と短い悲鳴を上げて、グリーンズリーが両手で鼻を覆う。
その姿はどこからでも急所を狙えるほど、隙だらけだった。
(混沌より伸びいずる真なる影よ)
「ごおおおぉぉぉっ!!」
もう一匹のグリーンズリーが吼え声を上げて走りこんでくる。
それを横目でとらえつつ、僕はトドメの呪文を紡いでいく。
(黒き刃となりて我が敵を貫け)
真っすぐに剣を突き出し、隙だらけのグリーンズリーの喉笛を貫く。
同時に、僕に飛び掛かってきたグリーンズリーに向かって左手を向ける。
(ラーミナ・テネブラールム!)
完成した呪文の効果が発動し、闇の刃がグリーンズリーを襲った。
その頑丈な身体をいとも簡単に斬り裂いていく。
これで二匹。
グリーンズリーを仕留めることができた。
【しゅぞく<スライム>れべる8 まっくす】
【<ハードスライム>にへんしんか】
【アビリティ<こうしつか>をかくとく】
レベルアップの啓示が響く中、残るもう一匹が唸り声をあげて僕を睨んでいる。
だけど、もう……時間がない。
せめてこっちに飛び掛かってきてくれていれば、ギリギリで間に合ったかもしれないんだけど。
ダメだ、時間切れだ。
身体が元に戻っていく。
人間の身体でグリーンズリーと戦うなんて、ただの自殺行為だ。
いちかばちか、とにかく村に向かって走る。
僕は変身が解けると同時に地面を蹴って――、
「我が剣は神の雷光なり。裁きの雷よ、その輝きで我らが敵を焦がし尽くせ」
声が聞こえた。
良く知っている声だった。
「――フルグル・デイ!」
そのとき、蒼白く輝く閃光が奔った。
見覚えのある神の雷光は、一瞬のうちに最後のグリーンズリーを焼き殺した。
きっと、何が起こったのか理解もできないまま、グリーンズリーの身体が前のめりに地面へと斃れる。ズンッと大きな音がして、森の木々が揺れた。
「こんな時間に何をしてるんだい?」
まるで散歩の途中で子猫を見つけたかのような気軽さで、カルナが微笑んだ。
だけど、僕は何も答えられなかった。
まだ13歳の子どもが、こんな時間に魔の森をうろついているだけで十分怪しいはずだ。あの爽やかな笑顔が、今は怖い。
いや、それよりも――、彼は見たのだろうか。
僕がモンスターから人間の姿に戻るところを。
知りたい。だけど、どう聞けば……、ああ、何も良い手が思いつかない。
無言のまま突っ立っていることしかできず、気まずい時間が流れていく。
「夜の散歩もいいけど、あんまり無茶しちゃダメだよ」
小さく震える僕の肩に、カルナがポンと優しく手を置いた。
「前にも言ったでしょ。――村を守れるかどうかは君にかかってる、って」
「……えっ?」
それは一体、どういう意味――、
「さあ。村に帰ろう」
目を丸くしている僕の手を引っ張って、カルナが歩き出す。
空の端が青白く光りはじめている。
「日が昇る前に部屋に帰っておかないと、修道院長からものすごーく怒られちゃうんじゃない?」
その言葉に思わず僕は、ひゅっと息を飲んだ。
まさしく、カルナの言うとおりだった。
ちょっと前にも、夜中に孤児院を抜け出していた罰として、教会(修道院と孤児院が併設されている)のだだっ広い庭を一人で掃除する羽目になったばかりだ。
今回はもっと重たい罰が……ううっ、ちょっと想像しただけで寒気がしてきた。
僕はカルナの目を見て、ブンブンと首を縦に振った。
一刻も早く、僕を村まで連れて帰って欲しい。
その気持ちが伝わったのか、カルナは僕の目をみてニッコリと笑った。
カルナの笑顔が、僕の胸の奥をザワつかせた。
カクヨムにて先読み更新中
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