幕間
「修道女・リウィア。あの人はどうして縛られているの?」
「彼は神のご意思に背いたのです」
あれは僕がまだ5つか6つの頃。
街の教会に行くというリウィアにくっついて行ったときのこと。
広場では大きな木の杭に両手足を縛られた男の人が、たくさんの人たちに囲まれていた。
「かみのごいし? そむいたって?」
「神のもたらした秩序ある世界を否定する、異端者ということです」
「……ちつじょ? ひてい? ……いたんしゃ?」
リウィアの説明は、あの頃の僕には少し難しかった。
今のリウィアならきっと、もっと子ども向けに易しい説法もできるのだろう。
けれどあの頃の彼女は、今のエリシアと同じくらいの年齢の見習い修道女で、幼い僕にどう説明したらいいのか困った顔をしていた。
「自分のやりたいこと、したいことばかり言っていると、ザンマも彼のように縛られて、火で焼かれるのですよ」
「え!? そんなことしたら死んじゃうよ!」
「そうですね。もちろん身体は灰となるでしょう。しかし、あの者の魂は神の炎によって浄化され、神の御許へと召されるのです」
リウィアは両手を胸の前で組み、静かに空を仰いだ。
「これはすべて、彼のための行いなのです」
「あの人のため?」
「もちろんです。人は神の子。神はあまねく人々を守り、正しい道へと導きます」
「……そっか。神様ってすごく優しいんだね」
「ええ。神の愛は偉大なんです」
そう言って、リウィアはにっこりと笑った。
それはとても誇らしげで、嬉しそうで。
僕は時おり、あのときの彼女の笑顔を思い出す。
その度に僕は、いつも同じことを考えるのだ。
神の敵であるモンスターに変身するという不可思議な能力を得た僕は、秩序ある世界を否定する存在なのだろうか。
もしも「そうだ」と言うのなら、僕はもう異端者となってしまったのだろうか。
異端者が神殿騎士になることはできるのだろうか。
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