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29.ぜんぶ騒音のせいだ


 そこからは、まさにカルナの独壇場だった。


「皆さんは子どもたちをお願いします」


 5人の神殿騎士たちに一言告げると、凄まじい速さで駆けだした。

 だが、それを遮るかのようにヒドい騒音が森の中に轟いた。

 子どもたちを攫ったモンスター、カンタリスの仕業であろうことは明白だった。


「なんだ、こりゃ!?」

「ひ、ひどい、音だ」

「耳は痛いし、頭はクラクラするし……おえっ、気持ち悪っ」


 神殿騎士たちは揃いも揃って、頭を抱えながら荷車の壁面に身体を寄せ、ぐったりとうずくまってしまった。

 これで子どもたちを守ることなんてできるんだろうか。んー、無理そう。


 でも、この騒音にはそれだけの威力がある。

 影の中にいる僕でさえ、ものすごく不快に感じているのだ。

 直接、音を浴びせられている彼らは何倍も苦しいはずだ。


 一方のカルナはというと、一瞬だけ顔をしかめただけで、すぐに祈りの言葉を唱えはじめた。


「大地の底で眠る力よ、今こそ目覚めのとき。全てを焦がす風となりて、空を裂け! ……アウルス・インフェルヌス!」


 唱え終わると同時に、カルナが剣を抜いた。

 次の瞬間、周囲の空気が一気に熱を帯びた。


「あっづ! 今度はなんだぁ!?」

「カルナ様が熱き風の神剣技アウルス・インフェルヌスを使ったんだよ」

「なんでだよ! いつもみたいに神の雷光の神剣技(フルグル・デイ)でいいじゃねえかよっ。こっちまで熱風が飛んできて、あっづぅいっ!! くそっ!!」


 さっきの察しも口も悪いおじさん騎士が悪態をつきながら、剣の鞘を杖代わりにして立ち上がる。


 ん? 立ち上がってる?


 うずくまっていた他の4人もそれぞれ頭を横に振りながら、荷車の縁に捕まりつつも何とか身体を起こしている。


「あれ? なんか、騒音が弱くなったような……」

「頭痛も吐き気もかなりマシになったな。……なんでだ?」

「うむ。わからん」

「わからんことを考えても仕方ない。とにかく、子どもたちを守るぞ!」

「「「おう!!」」」


 自分たちの身に何が起こっているのか、ちんぷんかんぷんな様子のおっさん騎士たちだけど、それでもちゃんと役目を果たそうと頑張っている。

 ちょっと頼りないおじさん達だけど、僕らはいつも彼らに守られているのだと実感した。


 カルナが剣を振ると、熱波が飛んでいく。

 その先で「キィッ」と悲鳴が上がり、どさりと何かが地面に落ちる音がする。


「次はそっちか」


 カルナが遠くをにらみ、再び剣を振るった。

 悲鳴と落下音。


 見えなくてもわかる。

 彼が剣を一度振る度に、カンタリスが一匹倒されている。


 でも、どうやって敵の場所を見つけているんだろう。

 そんな疑問に答えてくれたのは、意外にも神殿騎士の皆さんだった。


「おいおいおい。マジかよ」

「騒音が飛んでくる方に熱波を飛ばして、的確にモンスターに当ててやがるぞ」

「どんな耳と腕してんだよ」

「こりゃあ、確かに『神の最終兵器』だわ」


 ウソでしょ。

 そんなことできる人間がいるの?


 いや、いるんだけどさ、目の前に。

 実際に見せられても信じられないものってあるんだな。


 不意に、ガサッと草葉がすれる音が聞こえた。

 視線を上にやると、1メートルくらいの大きさの、こげ茶色のリスが木の上に立っていた。


 リスは自らの腹に弓の弦を当てると、音楽を奏でるように弦を動かした。

 響き渡る騒音。


「ぐわっ!」

「まただっ、どこからだ!?」


 少し離れたところにいるカルナは、こちらの惨状に気づいていない。

 どうやら、あのリスが“カンタリス”で、騒音の元凶のようだ。

 しかも、カルナではなく5人のおっさん騎士たちをピンポイントで狙っている。


 この騒音、2回目ということもあって、おっさん騎士たちもさっきよりは動けるようにはなったみたいだけど、カルナほど自由に動き回るのは難しいようだ。

 耳を塞いで姿勢を低くし、キョロキョロと辺りを見回してはいるものの、一向にカンタリスを見つけられずにいる。


 ああっ、ダメダメ。

 そっちじゃないよ。

 どこ見てるんだよっ!


 あーーーーっ、もう!


 いつまでもカンタリスを見つけてくれないおっさん騎士にしびれを切らしてしまった僕は、影からにょきっと姿を現し、おっさん騎士の背後を這うように登る。


 そのまま顔をつかむと、ぐいっと無理やりカンタリスの方へ向けた。


「なっ、なんだぁ!? あっ! いたぞ!!」


 強引に顔を動かされて驚いたおっさん騎士も、カンタリスを見つけてしまえば細かいことを気にしている余裕はなくなる。


「光まといて神の刃となす。神の敵を照らせ! ……ルクス・グラディウス!」


 その詠唱は、口の悪い騎士から放たれた。

 抜かれた剣の刃が煌々を光を放つ。


 そうなんだよ。

 神剣技は神殿騎士に伝授される技だから、あの人たちも使えるんだよ。

 ちょっと頼りないから、神殿騎士だってことを忘れそうになるけど。


「キッ!」


 眩しさにたじろいだのか、カンタリスが小さく悲鳴を上げる。

 その隙をおじさん騎士は見逃さなかった。


「ぬぅん!」


 見た目とは裏腹に敏捷な動きを見せた神殿騎士が、カンタリスがいる木を思い切り蹴り飛ばした。


「キキィッ!」


 カンタリスが枝から滑り落ちた。

 さすがに体勢は立て直して、きれいな着地には成功したようだけど、そこはもう神剣技の射程範囲だ。


「神の敵、成敗!」


 光る剣が振り下ろされ、カンタリスの身体が斜めに斬られた。


「キィィィ」


 カンタリスが息絶え、おじさん騎士はふぅと息を吐く。

 凄い。カルナだけじゃない。神殿騎士はやっぱり凄い。


 そこにパチパチパチと拍手の音が。


「お見事です」


 もちろん、カルナだ。

 5人の神殿騎士たちが何とか1匹を仕留めている間に、残りのカンタリスを全てひとりで倒してしまったらしい。


 先ほどまで森を騒がせていたカンタリスたちの演奏も、今はすっかり止んでいる。

 子どもたちは糸が切れたように地面に倒れ、すやすやと寝息を立てていた。


「それでは、子どもたちをご家族の元に帰してあげましょう」


 カルナたちは寝ている子どもたちを荷車に乗せ、慎重に村へと戻っていった。



カクヨムにて先読み更新中

→https://kakuyomu.jp/works/16818792437653682620

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