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27.ぜんぶ行方不明のせいだ


(なんだろう。この声。すごく、気になる)


 ある日の夜中。

 マリウスは不意に目が覚めた。


 一度寝たら朝まで起きることがない彼にとって、それはとても珍しいことだった。

 隣のベッドでは、2つ年上のザンマが気持ちよさそうに寝息を立てている。


 マリウスがベッドから降り立つと、同じようにさらに二つ隣のベッドに寝ていた男の子がベッドから身体を起こした。

 さらにその隣。そして向かいの子も――次々とベッドから降りていった。


 しかし、それはマリウスが起きたことに気づいたからというわけではない。

 マリウスと同じように、彼らも何者かの声に起こされたのだ。


「だれかいるの?」

「どこにいるの?」

「もっと聞かせて」


 各々が声の主を探して歩き出す。

 部屋を出て、孤児院を出て、子どもたちは声の主を求めて歩いていく。


 村の中からも、家々から子どもが出てくる。

 一人、また一人と、声の主を求めて歩く子供たちの集団が大きくなっていく。


 夜の闇の中、彼らの足取りに迷いはない。

 何かに導かれるように、真っ直ぐに歩き続ける。


 村から出た子どもたちは、迷いも恐れもなく、魔の森へと足を踏み入れた。


「ああ、なんてキレイな声だろう」

「あたしもいっしょに歌いたい」

「ぼくも」「俺も」「わたしも」


 そうして、子どもたちは森の奥へと姿を消した。


Θ  Θ  Θ  Θ  Θ


 その日、村は早朝から異様な空気に包まれていた。

 いつもなら立ち上っているはずの、炊事の煙が一本も出ていない。

 どこの家にも人影が無く、ただ広場だけが騒然としていた。


 太陽が顔を出したばかりの頃。

 子どもが家にいないことに気づいた母親が、家の外へと探しに出ると、同じように顔を青ざめさせた親たちが何人も、子どもを探して家から飛び出してきた。


「うちの子がいないの! 誰か知らない?」

「うちの子もいないんだよっ」

「一体、なにがどうなってるの!?」


 親たちは村中を走り回り、家という家の扉を叩き、子どもたちを探して回った。

 しかし、村のどこを探しても、いなくなった子どもは見つからなかった。


 行方不明となった子どもの数は、村の子どもたちのほぼ半数。

 孤児も含めると十数人の子どもたちが一斉に、忽然と姿を消したのだ。


 とはいえ、彼らが向かった先は明らかだった。

 村から外へ出て、魔の森へと入っていく小さな足跡が、しっかりと残されていた。


「どうして子どもだけで魔の森になんか行ったんだ!?」

「それもこんなに大勢で」

「どいつだ? どいつが、うちの娘をそそのかした!?」

「おいおい。今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ」

「はっ、てめぇんとこにガキがいねぇからな! 気楽なこと言いやがって!!」

「なんだと!? うちだってなあっ――」

 

 とにかく村の中はもうめちゃくちゃだ。

 孤児院でも、マリウスを含む5人の子どもが行方不明になっていた。


「はい! そこまで!」


 今にも殴り合いがはじまりそうになっていたところに、凛とした声が響いた。

 声の主に視線が集中する。


「カルナ=ヴェリス、呼ばれる前にやって参りました」


 その名を耳にした瞬間、村人たちのざわめきは潮が引くように静まり返った。

 そりゃあ、“神の最終兵器”に諭されれば、おとなしく拳を下げるしかない。


 カルナは静まり返った村の広場を悠然と歩み、優しく、けれどしっかりと通る声で周囲をなだめる。


「皆さん。まずは落ち着いてください。子どもたちの失踪は誰のせいでもありません」

「…………じゃ、じゃあ。一体、どうして子どもたちは!」

「全ては『神の敵』の仕業です」

「え? そんな……、だって村は神石で守られているのに」


 カルナの言葉で、村の中に動揺が広がっていく。

 僕だって、神石が万能でないと聞かされていなかったら、同じような反応をしていただろう。


「もちろん。村は神石で守られています。しかし奴らは、卑劣にも子どもたちが自ら村を出るように仕向けたのです」

「なんてこと!」

「でも、どうやって……」

「すでに救出の算段はついています。子どもたちは、このカルナ=ヴェリスが必ず見つけ出してみせます。だから皆さんは心を落ち着かせて、お子様の帰りを待っていてください」


 拳で胸を叩き、自分に任せろと言う彼に、異を唱える者はひとりもいなかった。


「カルナさま。お願いします。子どもたちを、助けてください!」

「お願いします! お願いします!」

「どうか! カルナさま!」


 どんなに大勢の女性たちに囲まれても、いつも平気そうな顔で軽口を叩いてるカルナが、今日だけは雰囲気が違った。

 動揺する村の人たちを優しくなだめ、心配は要らないと安心させて回っている。


 その様子を僕は、広場の外れからエリシアと一緒に見ていた。


「……いつものチャラチャラした男と同じ人とは思えないな」

「同じですよ」

「え? ……どこが?」

「あの方はいつだって、周りの人を笑顔にしたいだけなんです。そのために人を不安にさせないようにしているんですよ。どんなときも」


 それはつまり。

 女の人に囲まれているとき、いつも歯の浮くようなセリフを投げかけているのも、彼女たちを笑顔にするためってこと?


 それは流石に考えすぎなんじゃないかな……。

 あの人は普通に女好きなだけだと思うよ。


「…………なるほど」


 でも、それを口にしてしまったら、なんだか男として色々と負けてしまう気がしたので、僕は言葉をグッと飲み込んだ。 



カクヨムにて先読み更新中

→https://kakuyomu.jp/works/16818792437653682620

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