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26.ぜんぶ伊達じゃないせいだ


「我が剣は神の雷光なり。裁きの雷よ、その輝きで我らが敵を焦がし尽くせ。……フルグル・デイ!」


 詠唱と共に剣から放たれたのは、蒼白く輝く雷だった。

 上から下に落ちるはずの雷が、大地を奔り、森の木々を白く染め上げる。

 断末魔の悲鳴など上げる間もなく、何頭ものコカトリスが焼け焦げていく。


 僕があれほど苦戦した相手が、次々と地面に倒れていった。

 辺りには鶏肉が焼けたような匂いが充満していて、こんな時になんだけど……妙に食欲をそそった。じゅるり。


「またコカトリス。やっぱり、ずいぶん山を下りてきてるみたいだね」


 こんなに凄まじい技――神剣技というらしい――を放ちながら、カルナはまるで何事もなかったかのように剣を鞘にしまいこむ。


「なんで、僕を連れてきたの?」


 魔の森の、僕がコカトリスを見つけた場所よりもさらに奥。

 神殿騎士ともあろう人が、こんな危険地帯に子どもを連れていくなんて、何か理由があるに決まってる。


 昨日の夜、急にカルナが孤児院に現れたと思ったら、


「明日は朝から、魔の森の奥まで現地調査に行くんですけど、ザンマを借りていってもいいです?」


 なんて、まるでちょっとそこまで買い物に、みたいなテンションで修道院長アッバスに許可を取りに来た。


 それに対して、「どうぞ、どうぞ。この子がカルナ様のお役に立てるのでしたら!」と、僕の不安なんか一つも気にせずに、二つ返事で了承してしまう修道院長アッバス修道院長アッバスだ。



 僕の質問に、カルナはちょっと空を見上げて言った。


「だって、ザンマが行きたそうにしてたから」

「え? そんなこと……」


 なんのことだろう。

 別に魔の森なんて、何度も夜中に(こっそりと)行ってるし、行きたいなんて別に……。


「ほら。図書室で『森に行かなくていいの?』とか聞いてきたでしょ。あれはそういう意味だと思ったんだけど……違った?」

「……あっ!!」


 確かにカルナの言うとおり、あのときは森に行きたかった。

 でもそれは、彼らが探しているのが僕(というか、コカトリスを倒して森に並べた犯人)だと思っていたからで。全てがうやむやになった今となっては、どうでもよくなっている。


「神の敵を退治するのに憧れるのは、男の子の宿命みたいなところもあるしね。実は一度、ザンマには私の戦うところも見せておきたいなって思ってたんだ」

「僕に? なんでさ」

「だってザンマ、僕のこと『モンスターと戦うのが嫌で図書室に引きこもってるビビリのザコ騎士』って思ってたでしょ。ほら、正直に言ってみ? 正直に」

「そんなことっ……ない、こともない、けど」


 なんなの、この人。

 人の心を読めちゃうタイプのモンスターかなにかじゃないの。


 確かに図書室ではそんなことを考えてたし、それが間違いだったってことは、今日だけで十分すぎるほど《《わからせられた》》けど。


 事実、神剣技でモンスターを倒すカルナはすごく強くて、格好良かった。

 これまでに出会った誰よりも。


「それに、村を守れるかどうかは君にかかってる」

「え?」


 いま、なんて? 

 聞き間違い、でなければリップサービスだろう。

 きっと、「子どもにだって出来ることはある」みたいなニュアンスを大げさに言ったんだ。


 でも、そうとわかってはいても、“神の最終兵器”に頼られれば誰だって嬉しい。

 もちろん僕だって。


 村を守るために、僕は僕に出来ることをやろう。

 数日ぶりに、コカトリス退治のときの気持ちを思い出した。


 誰にも認められなくたって、みんなを救うことができれば百点満点。

 そのときのために、今は――。



 その日の夜。

 僕は久しぶりに孤児院を抜け出した。


 カルナたち、神殿騎士の面々が村に来てからは、万が一にも見つかってしまうことのないように我慢していた“いつもの夜遊び”だ。


 村を救うために、僕にできる準備はただひとつ。

 このモンスター化の能力をパワーアップさせることだ。


 種族<不死>レベル4、レイス。

 ゴーストの上位種族であるため、浮いたり透けたりと部屋をこっそり抜け出すにはぴったりのモンスターだ。


 いつものように林を抜けて、魔の森の方へと向かっていくと、驚いたことに人影が動いているのが見えた。夜の闇の中で仕事をするような人間は、この村にはいないはず。


 でも、人影の正体にちょっと心当たりがあった。

 ゆっくりと近づいていくと、僕の予想はやっぱり的中していた。


 正体は神の最終兵器、カルナ=ヴェリスだった。


 胸の前で手を組み、夜空に向かって祈りを捧げている。

 かと思えば、流れるように剣を抜き、目にも止まらぬ一閃を放って鞘にしまう。


 繰り返される、祈りと抜剣。

 その動きは舞い踊る妖精のように流麗で。

 僕はいつの間にか、目的を忘れて見入ってしまっていた。


「私になにか用かい?」


 誰もいない闇に向かって、カルナが問いかけた。

 どこからも返事はない。一体、彼は誰に話しかけているのだろう。


「まあ、こんなもので良ければ好きなだけ見ていくと良いよ」


 そう言って、カルナは再び祈りを捧げはじめた。

 もちろん、そこには誰の姿もない。


 僕と彼以外には。


 もしかして……。いやいやいや、まさか、ね。

 だって、僕の身体は透けていて、闇に完全に紛れているんだよ。

 それに気づく? 気づけるわけがない。


 それももし、彼が僕に気づいていたとすれば、ひとつおかしなことがある。


 だって、僕に斬りかからなかった。

 今の僕は“神の敵(モンスター)の姿”をしている。

 神殿騎士であるカルナにとって、今の僕は“神の敵”に見えるはずなのに。


 わからない。怖い。

 この姿でなければ、きっと背中には冷や汗が滝のように流れていたに違いない。


 魔の森でレベルアップだなんてとんでもない。

 僕はすぐさま回れ右して、大急ぎで部屋まで帰った。


 剣の腕だけじゃない、何か不思議な力が彼にはある。

 それはとても魅力的で、ひどく怖い。


 カルナ=ヴェリス。

 神の最終兵器。その二つ名は、伊達じゃない。

 


カクヨムにて先読み更新中

→https://kakuyomu.jp/works/16818792437653682620

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