24.ぜんぶ図書室のせいだ
教会の図書室。
なぜだか分からないけれど、カルナ直々の指名で、僕は指示された本を持ってきたり、読み終わった本を片付けたりする雑用係をやらされている。
彼以外の神殿騎士は、朝早くから魔の森へと実地調査へ向かった。
森の奥、あの夜に死闘を繰り広げた場所を見つけられたら、そこがコカトリスを退治した現場だと気づかれてしまうかもしれない。
もし僕の仕業だとバレたら……ああ、心臓が暴れて、落ち着かない。
「カルナさんは森に行かなくていいの?」
「うん。私には私の、彼らには彼らの仕事があるからね」
こんな田舎の教会にある本なんかが何の役に立つというのだろう。
きっとこの人は、モンスターだらけの森に行くのが嫌で、こうして図書室に引きこもっているに違いない。
「ザンマくんは左の棚、上から三段目、右から四冊目の本を持ってきて。それから、エリシアさんはこっちの本を元の場所に」
カルナはものすごいスピードで本を読みながら、こちらをチラリとも見ずに、次に必要な本を要求してくる。僕とエリシア(彼女もカルナ直々の指名だ)はひたすら部屋の中を歩き回っていた。
ここの図書室は決して広いとはいえないけど、それでも並んでいる本の数は千を下らないはずだ。それなのに、本が並べられている棚の位置まで正確に言い当てる。
神の最終兵器は記憶力まで人間離れしていた。
もう何冊の本をカルナの元へと運んだだろう。
もちろん同じ数の本を棚に戻しているから、腕も足もパンパンだ。
陽も傾いてきて、図書室も薄暗くなってきた。
いつまで続くのだろうか、と不安を覚えた頃、
「うん。これだ……。たぶん、見つけた」
カルナが顎に手を当てて、いくつかの古い文献を眺めて言った。
気になって覗き込んでみたものの、インクが掠れている上に、字体が蛇のようにうねり連なっていて、とても読めたものではない。
「見つけたって、何を……?」
「ん? 異変の元凶、だね」
「異変? 元凶?」
何を言っているのかサッパリ分からない。
だけど、どうやらカルナたちが探しているものは『コカトリスを退治して、死体を森の入口に並べた犯人』ではないみたいだ。
ふぅ、と小さく息が漏れた。
心臓の音が少しずつ小さく落ち着いていく。
「それは、地理誌ですか?」
脇から覗き込んできたエリシアが、カルナの手元を見て言った。
「おっ、よく分かったね。こっちが今から三百年くらい前のもの。あっちはさらに二百年くらい前のものだね。そっちのは……いつのかよく分かんない」
「三百年に五百年って。なんでそんな古いものが……」
「貴重な資料を、複写して保管しておくのも教会の大切な役割なんです」
エリシアの答えに満足そうに頷くカルナと、少し照れ臭そうに頬を染めるエリシアを交互に見て、なんだか僕はいやーな気持ちになった。胸の奥がチクリとして、どうにも落ち着かない。
「地理誌には、その時代の地理的特徴、自然、歴史、文化なんかが記されているわけなんだけど……。この村に限らず、この辺りの地域にある街や村はどこも比較的新しいんだ。しかも、わりと近い時期に生まれている」
カルナは続けて地理誌を手元に寄せた。
「そしてこれが三百年前の地図。地形が今の地図と違うからハッキリとしたことは言えないけど、今ある街や村とは別の場所に集落があったみたいなんだ。五百年前の地図も、……ほら」
ほら、と言われても目の前に広げられた地理誌に描かれた地図は、僕が知っている地図とあまりにも形が違い過ぎていて、カルナの言っていることがピンと来ない。
ただ……彼の言うことが事実なら。
「元々あった街や村はどこにいったんだ?」
「そう! イイところに気づいたね!」
カルナが目を輝かせて僕を見る。
邪気のないキラキラとした表情に、不覚にもドキリとしてしまった。
そこにエリシアが割って入ってきた。
「街や村が足並みを揃えて移転するとは考えづらいですね。だとしたら……、もしかして滅ぼされたのでしょうか?」
「滅ぼされたって……戦争で?」
「いえ。人間同士の戦争ならいちいち滅ぼしたりしないと思います。だって、占領して人も資産も取り込んだ方が得ですから」
「それじゃあ、相手は人間じゃないってこと?」
僕たちが、というか主にエリシアが導き出した答えに、カルナは再び大きく頷く。
「私も君たちと同じ考えだよ。犯人は間違いなく『神の敵』さ」
「神の敵!? でも……、でも村には神石が、街にはもっとたくさんの神石があるって。モンスターは近寄ることもできないはずじゃ――」
「神石は万能ではありません。ドラゴンやヘルデーモンのような強力なモンスターには効果が薄いのです」
「そうだね。モンスタースタンピードと呼ばれる現象で、千を超えるモンスターが一気に押し寄せた結果、神石の結界を突破されてしまった城塞の跡を見たことがあるけど……ひどい有様だったよ。神石があれば絶対に安全、なんてことはないんだ」
静かに首を横に振る二人に、僕は言葉を失った。
村は神さまに守られている。だから、危険なモンスターが出てきても村の中にいれば襲われることはない。
そう聞かされて、育てられてきたのに。
ここが僻地の村だからなのか、それとも僕が子どもだからなのか。
僕の知らないところで、いくつもの街や村がモンスターによって滅ぼされているらしいことが、二人の口ぶりから察せられた。
信じてきた常識が、音を立てて崩れていく。
「コカトリスが本来の生息地から外れたところに出没したのも、より強力なモンスターに縄張りを追い出されたのなら辻褄が合いますね」
「ああ。それに地理誌からは、このモンスター災害が数百年に一度のペースで繰り返されていることがわかる。今回も同じだと考えてまず間違いないだろう」
黙り込む僕を置いて、二人の話を続ける。
その声が、やけに遠くで響いているように感じた。
カクヨムにて先読み更新中
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