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22.ぜんぶ石化ブレスのせいだ

※作者・注

 ザンマ視点→コカトリス視点→ザンマ視点と切り替わります。


 ………………………………ん? んんん?

 死んだあとって、こんなに長く意識が残ってるものなのだろうか。


 コカトリスに身体を粉砕されてから、かれこれ10秒くらい経ってると思うんだけど、僕の意識はいまだハッキリとしていた。


 それどころか――、手が……動いている。

 槍を持ったまま盛大に吹っ飛んでいった右手が勝手に動いている。


 周囲を見ると、粉々にされたはずの骨も集まって元の骨の形に戻りつつあった。


 これは……もしかしなくても、僕は生きてるのかもしれない。

 考えてみれば、スケルトンの種族は<不死>だ。

 不死ってことは死なないってことで。

 身体中の骨が粉々にされても、時間が経てば勝手に再生するみたいだ。


 でも、このペースじゃ完全に再生するまでには、まだまだ時間が…………あっ。


 気づいた。気づいてしまった。

 のんびりと身体が再生するのを待つ必要なんかない。


 だって僕は、モンスターに変身できるんだから。


 頭の中で想像し、粉々になった身体を新たなモンスターの姿へと再構築する。

 闇夜に浮かび上がったのは黒いローブに身を包んだ幽体のモンスター。


 レイス。

 ゴーストの上位モンスターだ。


 当然、浮遊しているし、身体は透けている。

 全身を覆う黒布が、風もないのにふわりと揺れた。


「クケエエェェェェェェェェッ」


 コカトリスの鳴き声が恐怖の色に染まっている。

 見えずとも、レイスの存在そのものに怯えているようだ。


 その声を聞きつけたもう一匹のコカトリス、恐らくは群れの長であろう身体の大きなコカトリスが、ドスドスと音を立てて走り寄ってくる。


 まずは一匹、確実に減らしておこう。


「混沌より伸びいずる真なる影よ、黒き刃となりて我が敵を貫け。……ラーミナ・テネブラールム」


 ボソボソと、しかしハッキリと言葉が口から出た。

 新たに獲得したアビリティ<闇魔法(初級)>によって、どのように詠唱すればどんな魔法が出せるのか、まるで最初から知っていたかのように紡がれる。


 夜の闇が凝縮され、黒く薄い刃がいくつも浮かび上がった。

 それは一切の容赦なく、コカトリスの身体に突き刺さり、その首を刎ねた。

 断末魔の悲鳴すら許さず、鶏の頭がゴロリと地面に落ちた。


Θ  Θ  Θ  Θ  Θ


(コレハ イッタイ ドウイウコトダ)


 いにしえの獣が目を覚まし、住み慣れた縄張りを追われた。

 家族を連れて彷徨い歩き、やっと落ち着ける場所を見つけた。

 エサを探して歩き回りながら、巣作りのために石像をつくる日々。


 大事に蓄えた石化ブレスを、大柄な熊に狙いを定めて慎重に吐き出す。

 木の上まで運ぶのは大変だったが、しっかりした石像が必要な巣の基礎にピッタリとハマった。


 この辺りは、あまりエサに恵まれているとはいえなかった。

 大きいばかりで味の薄いクモに、食べるところの少ないウサギ、それから肉が硬いイノシシ。


 奪われてしまった縄張りがあまりにも惜しい。そして、恋しい。

 そんな気持ちを押し殺しながら、なんとかこの地で家族と共に生きていこうと決心した。その矢先――。


 突如、何者かに寝込みを襲われた。

 視界を奪われ、巣を壊され、混乱の中で家族の声がひとつ、またひとつと聞こえなくなっていった。


 なぜだ。

 どうしてこんな目に遭わなくてはならない。


 家族の声が細くかすれていく。

 ああ、また家族を失ってしまった。


 暗闇の中、ただひたすらに家族の声がした場所へと走る。


 途中、なにか脆い塊にぶつかった。

 だが、そんなことはどうでもいい。


「クケエエェェェェェ!」


 高らかに雄叫びを上げる。

 自分はここにいる、生きていると家族に伝えるために。


「クケエエェェェ!」


 たった一つ、短い返事が聞こえた。

 もう家族は、それだけしか残っていない。

 なぜだ。なぜだ。なぜだ。


 暗闇に中で問い続ける。

 自分と、家族の命を守るために、縄張りを捨ててきたというのに。

 どうしてこんなところで家族を失っているのか。

 わからない。わからない。わからない。


 敵はどこだ。

 敵は何者だ。


 家族の声がした方へと歩みを進め、


「クケエエェェェェェ!」


 もう一度、雄叫びを上げた。

 最後の家族の場所を確かめるため。


「クケエエェェェェェェェェッ」


 それは、細く、長い鳴き声だった。

 なにかに怯えているような悲鳴。


 慌てて声のした方へ駆けつける。

 その最中、ゆっくりと視界が戻ってきた。

 やっと。遅すぎる。


 夜の闇は得意ではない。

 しかし、先ほどまでの暗闇に比べれば、見えすぎるほど見える。


 それは、見たくないものが目に飛び込んでくるということでもあった。

 ひとつ。ふたつ。みっつ。よっつ。

 地面に横たわり、もの言わぬ身体と成り果てた家族の姿。 


 間に合わなかった。

 最後の家族の亡骸をじっと見つめ、


「クケエエエエエエェェェェェェェェェ!!」


 コカトリスは高らかに鳴いた。

 家族の死を悼むために。目の前にいる家族の仇を屠るために。


Θ  Θ  Θ  Θ  Θ


 駆けつけてきた最後のコカトリスに向かって、僕は再び闇の刃を生み出す呪文を詠唱する。


「混沌より伸びいずる真なる影……え?」


 だけど、僕は最後まで唱えることができなかった。


 だって、見てしまったから。

 その光景に、自分の目を疑ってしまったから。


 コカトリスの目から涙がこぼれ落ちた。

 ボロボロといくつも雫が落ちて、地面を濡らしていく。


「泣いて、るのか?」


 まさか、モンスターが涙を流すなんて思わないじゃないか。

 その疑問に答えるかのように、


「クケエエエエエエェェェェェェェェェ!!」


 コカトリスが大きく鳴いた。

 悲しみ、嘆き、怒り。感情をストレートにぶつけられたようで、思わず後ずさってしまう。


 これまで僕は考えたことがなかった。

 モンスターに感情があって、仲間を失ったことを泣いて悲しみ、復讐のために殺意を向けてくるなんて。


 それは……僕ら人間となにも変わらない。


 こちらをじっと見据えるコカトリス。

 その様子から気づくべき事実を、僕はうかつにも見落としてしまった。


 暗闇液の効果が、すでに切れてしまっていることを。


 コカトリスの口から一直線に吐き出された灰色の吐息。

 それが石化ブレスだと気づいたときには、僕のすぐ手前まで迫っていた。

 慌てて避けたものの、左肩から先が石になってしまった。


 しまった!

 これはヤバい。


「やらなきゃ」


 やられる。


 皮肉にも、左腕が石化したことで危機感が戻ってきた。


 そもそも、アイツの仲間を殺したのは僕じゃないか。

 今さら同情して何になる。


 やるか、やられるか、だ。しっかりしろ! ザンマ=グレゴリオ!


「クケエエエェェェェ!」


 コカトリスは再び雄叫びを上げ、正確にこちらへ走ってくる。

 空中を浮遊して木々を避けて移動し、追撃から逃げながら詠唱する。


「闇に生きる精霊の手を借りて、汝に黒き呪縛を与えん……ヴィンクルム・アトルム」


 走るコカトリスの周りに、黒い靄が生まれた。

 それはコカトリスの手足に絡みつき、


「クケエエエエエエエェェェェ!」


 その動きを封じてしまった。

 手足をバタつかせ、靄を払いのけようとするコカトリスに僕はゆっくりとトドメの呪文を詠唱する。


「混沌より伸びいずる真なる影よ、黒き刃となりて我が敵を貫け」


 小さく息を吐き、コカトリスの目を見据えて最後の言葉を発した。


「ラーミナ・テネブラールム!!」


 真っ黒な刃が、コカトリスの身体に突き刺さる。

 身体が大きいから、今度は首を落とすことはできなかった。

 それでも身体に深く刺さった闇の刃は、しっかりとコカトリスの心臓まで達していたようだ。


「クケェェェェェェェェェッ」と最期の悲鳴が森に響き渡った。


 ズン、と音を立てて地面に崩れ落ちるコカトリスを見届けて、僕はやっぱりエリシアの顔を思い浮かべた。


「エリシア……、僕、やったよ」


 想像の中のエリシアは、もう泣きそうな笑顔ではなくなっていた。

 早く村に帰って、本当の笑顔に会いたい。そう思った。


【しゅぞく<ふし>れべる5】

【<スケルナイト>にへんしんか】

【パッシブアビリティ<けんじゅつ しょきゅう>をかくとく】


 神の啓示が、今はとても鬱陶しい。



カクヨムにて先読み更新中

→https://kakuyomu.jp/works/16818792437653682620

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