18.ぜんぶ見つからないせいだ
【しゅぞく<スライム>れべる6】
【<トリプライム>にへんしんか】
【アビリティ<げんかくえき>をかくとく】
【しゅぞく<ふし>れべる2】
【<スケルトン>にへんしんか】
【パッシブアビリティ<そうじゅつ しょきゅう>をかくとく】
レベルアップしたなあ。そりゃあ、するよなあ。
かなりの数のモンスターを倒したからなあ。
なんでこんなことになったんだっけなあ。
視界が桃色に変わっていくのを眺めながら、僕はぷるぷると身体をふるわせた。
夜中に孤児院を抜け出してから3、4時間くらい魔の森をさまよったというのに、僕はコカトリスを倒すどころか見つけることすらできなかった。
マジでどこにいるんだよ、アイツ。
上を見上げると、木々の間から見える空の色が、うっすらと明るさを取り戻していくところだった。つまり、もうすぐ夜が明ける。
とはいえ、何の成果も得られなかったわけではない。
モンスター変身についての研究はちょっと進んだ。
◆ アビリティ
種族<スライム>のアビリティは、どのスライムに変身しても使えるけど、種族<不死>のゴーストに変身すると使えなくなった。
逆にゴーストのアビリティ<コールドブレス>は種族<スライム>では使えなかったから、どうやらアビリティは変身している種族に依存するらしい。
◆ モンスターごとの特徴
これまでのスライムは色が変わるくらいしか変化しなかったけど、ゴーストはすごい。まずちょっと浮いてる。地面から5センチメートルくらい。
だからなに? って思われるかもしれないけど、動くためにいちいち跳ねなきゃいけなかったスライムからすると、驚きの移動スピードなんだよ。
ちなみに、空を自由に飛んだりはできない。あくまで、ちょっと浮くだけ。
そして透けてる。
完全に見えないってわけじゃないけど、暗闇ではほとんど見えないと思う。
実際、あのムカつく代官を脅したときは全然見えてなかったっぽいし。
でも気配が消せるわけじゃないから、目で見る以外の方法(匂いとか音とか)で獲物を探すタイプのモンスターには速攻で見つかる。普通にビビる。
でも、見つかったとしても特に問題ない。
なぜかというと、なんとゴーストには攻撃が効かない。
身体が透けてるから、攻撃がすり抜けていく。
炎は普通に熱かったから、無敵ってわけではなさそうだけど。
ここまでだとゴーストってめちゃくちゃ強そうなんだけど、一つだけ大きすぎる欠点を抱えている。それは……パワーがぜんぜん無いこと。体感だけど、明らかに種族<スライム>のレベル1である“ただのスライム”より弱い。ぜんぜん弱い。
ぶっちゃけ、アントラービットの一匹も倒せない貧弱さ。
このモンスターごとの特徴ってやつは、ほかのモンスターに変身すると適用されない。つまり、モンスターごとに固有の特徴ってことみたい。
種族<不死>のレベル2であるスケルトンに変身してみたけど、ゴーストと違って足はしっかり地面についていたし、身体も透けてはいなかった。
その代わり、どこから出てきたのかも分からない槍を右手に持っていた。
おそらくは槍を装備している状態、というのがスケルトンに固有の特徴ということなのだろう。
◆ 経験値の入り方
今回、モンスターと戦うときは種族<スライム>のレベル5であるブライムの姿がほとんどだった。種族<スライム>では一番動きが早い形態だし、麻痺液と毒液があればすぐに決着が着くからだ。
当然ながら、モンスターを倒すためのパワーを持たないゴーストの姿では戦っていない。変身したのは、移動するときくらいだ。
それでも種族<不死>のレベルは上がった。
種族<スライム>がレベル5から6に上がったのと同時に、レベル1からレベル2への成長と考えると遅いようにも思えるけど、取得経験値に差があるのだと考えればつじつまが合う。
たとえば、モンスターにトドメを刺したときのモンスター種族には9割、それ以外の種族には1割とか。
こんな感じでまだまだ解明にはほど遠いながらも、少しずつこの能力の仕組みが見えてきた。
などと頭の中を整理していたら、あっという間に空が明るくなっていく。
もうすっかり朝じゃないか。急いで孤児院に戻らないと……アレ?
手がある。
いや、手はあっていいんだけど、骨じゃない普通の手だ。
――人間の姿に戻ってる!?
なぜ? さっき、僕はスケルトンに変身したはずだ。
変身を解いた覚えもないし、頭の中に【のこり10ぷん】とかって神の啓示は届かなかった。体感でも、まだ5時間は経っていないはずだ。
と、とにかく、このままじゃマズい。
ここは魔の森。人間の姿のままモンスターに襲われたら、普通に死んじゃう。
頭の中でゴーストを想像する。
変われ! 変身しろ! ゴーストになるんだ!
……………………ダメだ! 変身できない!!
じゃあ、えっと、えっと、スライム!
とにかくスライムにならないと。
何色だっけ、何色があったっけ!?
慌てて思い浮かべたスライムの色は水色。
あの日、はじめてモンスターに変身したときの、あのスライムだ。
みるみるうちに視界が水色になっていく。
目線も低くなり、360度を見渡せるようになった。
ああ、良かった。
ちゃんとスライムになれた。
まさか、モンスターに変身できたことに安心するような日がくるなんて。
心の中で安堵の息を漏らすと、僕は急いで村を目指した。
「クックドゥルドゥードゥー!!」
遠くからニワトリの鳴き声が聞こえた。
みんなが起きてくる前に、急いで戻らなくちゃ。




